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グリゼルダの魔法の家  作者: さとう たつき
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第7話 水晶の間 その2

「まあ、あの子たちときたら! あの部屋に入るなんて!」


 グリゼルダはギリギリと歯ぎしりをした。


「あそこは、わたくしの『聖域』だというのに……!」


 体が自由になったら見てなさいよ! グリゼルダはそう吐き捨てた。封印されている今は、手を動かすことさえできない。せいぜい顔の表情を動かすのがやっとだ。空中に漂う「魔力」の揺らぎによって自分の家の状況は把握できるが、本を読むことはできない。それが何より口惜しかった。


「……まあいいわ。さんざん魔力を搾り取ってやったし。まあ、魔力量自体はたいしたことないけど、若いからかしら、回復力は目を見張るものがあるわね……」


 グリゼルダは昔を思い出した。まだ彼女が人間だったころ、まだ普通の人間のように老いていたころ。


「不死はともかく、不老はいらないかとも思ったんだけど、やっぱり若い体は便利よね。何時間本を読んでも目が疲れないし、肩や腰も痛くならないんですもの……それを考えると、あのとき契約を結んだのは良かったわ」


 その契約のせいで勇者に目を付けられ、今ここでこうしているわけだけど。人生ってままならないものね、グリゼルダは自嘲気味に笑った。


「それにしても……わたくしの家が完全に復活したら放り出そうと思っていたけれど……まあ、下働きにすればいいわ。あの子たちが身の回りの世話をしてくれるなら、わたくしは自分の研究に専念できるものね。それにしても、文字も読めないなんて! わたくしの使い魔のほうがずいぶんと賢かったわよ!」


 黒猫やカラスなど、彼女の使い魔は多かった。彼らの仕事は、おもにお屋敷の維持管理やグリゼルダの身の回りの世話だったが。主人に対して忠実なしもべたち。彼らは勇者からグリゼルダを守ろうとして、その身を散らした。


「あの分からず屋の勇者! 話も何も通じないのですもの!」


 いわく、特定の種族と契約した時点で、契約者も同罪になるとか。悲しそうな顔をしながら、最終的に彼はグリゼルダを水晶の中に閉じ込めた。ほうっておいてくれれば、何も抵抗なんてしなかったのに! グリゼルダは顔をしかめた。


「わたくしはただの不老不死である研究者で、何もこの世界を征服しようとしているわけでもないのに! 腹立たしいわ、そんな暇あるわけないじゃない! ……でも、わたくしにこの力を授けた悪魔も、そのようなことを言っていたわね。勇者が話を聞いてくれないと。彼は研究仲間が欲しくて、わたくしに声をかけたそうだけど……ああ、彼も滅ぼされてしまったでしょうね……」


 昔のことを思い出し、グリゼルダはしんみりしてしまった。


「亡くなった者たちは戻ってこないわ。前を向いていくしかないもの。……家が復活したら次はお庭かしらね? あの子たちったらどうでもいい野菜畑なんかを復活させるのですもの! そんなものより薬草園のほうが重要じゃなくって!? 食べ物なんて、お腹空いたら草食べてればいいのよ!」 

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