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グリゼルダの魔法の家  作者: さとう たつき
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第6話 秘密の書斎

 ハンスたちが本館に移り住んでから何日か経った。前住んでいた小屋もまだ新しいままだったし、今住んでいる本館も少しずつ立派になっていた。玄関ホールは往時の輝きを取り戻しており、新しく台所も発掘されていた。


「うわあ、お野菜の芽が出てるよ! 早く食べたいな」


 新しくなったクワで地面を耕してみた。ただ耕しただけで種をまいたわけでもないのに、翌日には何かの芽が出た。季節は晩秋であったが、出てきた芽はトマトやじゃがいもの芽のように見えた。にんじんや玉ねぎの芽もある。それらが整然と並んでいるさまは異様でもあったが、ハンスには正直なところ今さらだとも思えた。


「グレーテ、柵の向こうには行ってはいけないよ」


 柵のこちらと向こうとでは、すべてが違っていた。不思議な現象は柵の中でしか起こらず、それには温度や野菜の育ち方にしても同様だった。冬が近いというのに、半袖で動き回ってもまったく寒くない。一歩柵も外へ出ると、あまりの寒さに凍りつきそうだというのに。


 兄妹の生活は、こうしてどんどん便利になっていった。心配された「代償」も、目に見える範囲では確認できなかった。二人はここに来る前よりもずいぶんと健康的になり、毎日楽しく暮らせていた。そんなある日のことである。


「グレーテ、来てごらん。この部屋、本がたくさんあるよ」


 一階の再生がほぼ終わっていた彼らは、また新しい部屋を発見した。


「うわあ本当だ! 机と椅子もあるよ!」


 この部屋は、他の部屋と違って雑多な感じがした。他の部屋には生活感がまったくなかったというのに、この部屋には家具が置いてある。机の上も床の上も、所狭しと本やら書類やらがうずたかく積まれていた。


「おかしいな……ここのものだけ劣化が少ないよ?」


 他の部屋はほぼ廃墟と化していたのに、この部屋は片付ければすぐ使えそうな気がする。部屋の痛みはないどころか、埃さえ溜まっていなかった。


「ねえお兄ちゃん、こんなにたくさん本を持っているなんて、ここの人はお金持ちだよね。わたしたちのために、こんなすてきなおうちを残してくれてよかったね!」


 ハンスはここの本を読めば、元の持ち主のことも分かるかもと期待したが、あいにくと彼は文字が読めなかった。


 村でも読めるのは村長を始めとした一握りで、彼らに本を持っていきたい気持ちになった。本はとても高価なため、同じ本を何度も繰り返し読むしかないのだ。これを持って帰ったらまた村人として歓迎してくれるだろうかと、ハンスは一人思った。


「あれ? あそこに見えるのはベッドじゃない?」


 本棚の陰にベッドがあった。一階の他の部屋にはベッドがなかったのでいつもは床で寝ていたのだが、ようやく柔らかな布団で眠れそうだ。


「ほんとだ! ……でも上に載っている本をどけて、お布団を干さないと駄目だね」


「そうだな、グレーテ」


 ハンスは苦笑した。

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