6月6日分
寺の裏にまわると、吉丸ともう一人が木刀を振っていた。
「二人とも、頑張ってるな」
「兄上、何故こちらへ?」
「母上が、待っている。一度戻れ」
「承知。ご足労をおかけして申し訳ありません。」
「気にするな」
「平助、一本勝負をお願いしたい。」
「六太、強くなったのか」
「手合わせしたらわかることでしょう」
「言うようになったな」
六太は隣村の村長の息子で、吉丸と同じ年齢である。
「しかし、六太。俺は剣を捨てたのだ。吉丸とやっておれ」
「そうだぞ、お主は俺にも勝ち越してないだろう」
「吉丸、何を言う。お前は五十五戦二十七敗だろう。拙者の方が一枚上手だ。」
どうやらその言葉は吉丸の逆鱗に触れたらしく、たちまち勝負が始まった。弟の成長を嬉しく思っていると、離れたところからこちらを眺めていたじいがいつの間にか隣にいた。最初は優しい目であったが、気付いた時には一変していた。
「わしも腕を磨き直さねばかもしれん」
その一言ですべてを悟った。遂に来たのか。
「師匠、」
「久しいの、お前さんに師匠といわれるのは」
「稽古をつけてくだされ」
そこにいたのは、百姓と僧ではなく、二人の坂東武者であった。