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死霊憑きにつき。  作者: 五月七日 外
死霊憑きはあの夏をもう夢見ない。
19/23

ミカミ文書 -1-

今回の話は、第一章とは直接的な関係はありません。

物語全体の補足、考察のためのヒントだと思って下さい。

なので、そこはいいやという方は飛ばしてもらって大丈夫です。


それでも読むよーという方は、できるだけいろいろな物を撒き散らしているので、楽しんでもらえれば幸いです。

 (かみ)()ろす。

 彼女はそうして永遠を手に入れた。




 ☆★☆★☆★☆




『人は死んでも死にきれない』


 誰かがそう言ったように、人はすぐには死なない。

 肉体的な意味するところの死はすぐに訪れるが、〈生命〉として考えるのならば、人の死とは幾分時間のかかるものだ。


 こう言うとロマンチスト気味だが、誰かが覚えている限りその人の中で生き続けていく……。

 人とはそういうものだ。

 実際問題、そこまで生き続けていれば、もはやヒトの概念と化しているだろう。多くの解釈が混在するそれは、かつて生きた人物とまったく同じではない。似ていながらも異なる存在だ。それでもなお、〝生きている〟と定義づけるのなら構わない。そういう考え方も大いにアリだ。私とは相容れない考え方だがね……。


 さて、話を戻そう。

 人はすぐには死なない。では、いつ死ぬのか。

 今回は、それについてここに記すこととする。


 まず、死について考えるために〈生命〉について簡単に触れておこう。


 一つの〈生命〉は〈魂〉、〈精神〉、〈肉体〉という三つの構成成分によって成り立っている。

 〈魂〉は〈生命〉の〝本体〟と考えるのが一般的だ。だから、一番大事なモノと考えるのは些か早計な気もするがね。そのあたりについては、またの機会に。

 〈精神〉は〈魂〉と〈肉体〉を繋ぎとめる鎖……という解釈で概ね問題ないだろう。それ以上の話は長くなるので割愛させてもらう。こちらもまたの機会に。

 〈肉体〉は〈魂〉と〈精神〉を収める器の役割を担っている。一見すると、一番どうでもいい構成成分に思えてしまうがそうではない。本質的にはそうかもしれないが、私たち〈生命〉が最もその存在を実感することができるモノが〈肉体〉だ。器なくしてこの世に留まる〈生命〉は数少ない。当然、人がそんなことできないことは知っているだろう。

 以上が、〈生命〉に関する基本事項だ。



 つぎに、人の死について触れておこう。あくまで〈死〉ではなく人の〝死〟についてね。


 死の条件は簡単だ。〈生命〉の構成成分である〈魂〉、〈精神〉、〈肉体〉のいずれかが壊れてしまえばいい。そうすれば、〈生命〉はその存在を完全には保てなくなる。

 一般的に考えて死因で一番多いのは、〈肉体〉の崩壊だろう。病気でもいい、老衰でもいい、別に交通事故でも構わない。さまざまな理由で人の〈肉体〉というのは簡単に壊れてしまう。

 器を失った〈生命〉に残された構成成分は〈魂〉と〈精神〉だけだ。

 あとは、少し考えればそれでいい。

 構成成分はそれ単体でも〈生命〉として在ることは可能だ。酷く歪んでいて、とても〈生命〉と同一の扱いはできないが、今回、そこまで厳密に考える必要はない。それも〈生命〉として考えていこう。

 そうすると、残された〈魂〉と〈精神〉が壊れるまでの時間……それが人が死ぬまでの時間となる。

 では、残された時間はどれくらいなのか。

 私の知る限りであるが、構成成分が単体でこの世に存在できる最大の時間は、それぞれ〈魂〉が十七日。〈精神〉が二十一時間五分。〈肉体〉が二百と一年だった。


 つまり、人の一般的な死までの時間は、最大でも〈肉体〉の崩壊後、十七日後までといったところだろう。



 では最後に。せっかくだから死霊憑きについても簡単に触れておく。


 死霊憑きを考えるにあたっての重要事項は今まで触れていた人の死についてだ。

 人の死を理解したとして話を進めさせてもらおう。

 先の、人が死ぬまでの話だが、そこにはいくつか例外がある。何事も例外はつきものさ。

 その一つが死霊憑きと呼ばれる存在だ。

 〈肉体〉を失った〈魂〉は一度、疑似的な〈死〉を経験している。

 自身が崩壊するまでの間、〈魂〉は新たな〈肉体〉と〈精神〉を探してこの世に残留し彷徨う。それが死霊だ。


 死霊憑きとは……死霊にとり憑かれた。もしくは死霊がとり憑いた〈生命〉のことを指す。一般的には前者がほとんどなので、あまり分ける意味はないがね。

 一応、理由について触れるとそれは簡単なことだ。

 完成された〈生命〉相手に、〈魂〉だけの不完全で歪んだ〈生命〉がその〈肉体〉と〈精神〉を奪おうとするのだ。〈魂〉としての優先権がどちらにあるのかなんて考えるまでもない。余所者の〈魂〉は余分な構成成分として〈生命〉に取り込まれるだけ。

 そうして生まれる歪んだ〈生命〉が死霊憑きである。

 とり憑かれた方からしたら堪ったものではないが、運がなかったのだから仕方がない。死の近くにいたことを後悔したまえ。



 さて、少し脱線したような気もするが、以上が人の死に関する私の考えだ。

 彼女にちなんで、これはミカミ文書とでもしておこう。

 六人しかいない私の弟子のためにこれは残しておく。誰かが心理に辿りつけると信じて……。


 次回は、もう少し死霊憑きについて考えていく。

 渇きや能力について今回触れられていないからね。



 ああ、あと一つだけ。

 生霊をとり憑かせるのは止めておきたまえ。

 面白いデータは取れるだろうが、君の望む結果は降りてこない。


 ……まあ、そんなことを私以外にする人間がいるとも思わないが。




 ☆★☆★☆★☆




 ミカミ文書の一部は、今も彼女のもつ机の引き出しの奥底で埃を被っている。

 彼女にとって、それはもう必要のないもの。

 それがいつか〝誰か〟の役に立つと思って彼女は大事に残している。

 そんな日が訪れることを望まずに……。




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