春野瑞希・春野侑希
〈春野瑞希〉
私は早く走りたかった。
自慢の姉でありたかったから。
次第にその思いは忘れていく。
ただ、記録だけを求めるようになっていく。
妹の支えなんて忘れて。
あの日、私は妹を助けたかった。
だから勝手に体が動いてしまった。
そのときに願った。
妹の無事だけを。
でも、少しだけ後悔があったのかもしれない。
最後に走りたかったと。
気付くと私はいつも走っていた。
でも私は気付かなかった。
これが誰の体なのかを。
だから、私は夢に向かって走り続けた。
どうやったって、それは間に合わないというのに。
今ならわかる。
こんなことは間違っているって。
「────」
知らない人の声。
それは、私に救いの手を差し伸べる。
だから、私はその声に身を委ねた。
〈春野侑希〉
私はいつも姉を羨んでいた。
自慢の姉だったから。
次第にその思いは忘れていく。
ただ、姉を嫉むようになっていく。
姉が誰のために走るのかなんて忘れて。
あの日、私は気付けなかった。
だから姉に守られた。
そのときに願った。
姉の無事だけを。
でも、少しだけ後悔があったのかもしれない。
どうして自分が助かるのだと。
気付くと私は姉になっていた。
でも私は忘れていた。
何が目的なのかを。
だから、私は恨みを晴らそうとした。
どうやたったって、それは誰も望まないことなのに。
今ならわかる。
こんなことは間違っているって。
「────」
聞き覚えのある声。
それは、私に救いの手を差し伸べる。
だから、私はその声に身を委ねた。




