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ドラゴン 3

「車まで急ぐぞカナミ!」


「了解ぃ!!」


 二人はガトリング砲を設置していた場所から少し離れた場所に止めてあるオープンカーに飛び乗るとエンジンをかけて車を走らせた。


 今の時代には貴重な化石燃料を使って走るこの車を旅の移動手段にしようと提案したのはカナミだった。


 普通旅人が移動手段として用いるのは馬か新しく発明された石炭を燃料にして走る蒸気自動車だ。


 しかしやたら値段の張る化石燃料を使用するこの旧時代の車をカナミが希望したのには大きな理由がある。


 それはそのスピードと積載重量。


 馬や蒸気自動車ではとうてい追いつけないようなスピードとカナミの愛用する銃器を大量に運べるその馬力が魅力なのだ。


 燃料代がかさむと普段は文句を言っているカイトだが、命をかけた追いかけっこを刊行中の今は、その馬力が頼もしかった。


「・・・やばいわよカイト。あのドラゴン、普通に追いついてきてる」


 その巨体に見合わぬ機動力。


 しかも巨体故に一歩一歩の歩幅が大きく、車のアクセルを全開にしても追いつかれるのは時間の問題であろう事は明白だった。


 この状況を打開しようと動き出すカナミ。


 助手席からひょいと後部座席に飛び移るとごそごそと足下を探り、二丁のアサルトライフルを取り出した。


「これでも喰らえこの野郎!」


 片手に一丁ずつ構えられたアサルトライフルが同時に火を噴いた。


 普通は両手で持つべき銃の反動を片手で制御する腕力と、整備されていないデコボコの道を走っているため大きく揺れる車上でバランスを取って立っている足腰の強さ。それはカナミがトレジャーハンターとして一流の戦闘力を持っている事を物語っている。


 両手の銃の全弾が吐き出された後、多少装甲が先ほどよりも損傷しているが何事も無いかのように追いかけて続けるドラゴンの姿を見てカナミは大きく舌打ちをした。


「チッ! 私は銃の効かない敵ってのがこの世で一番嫌いだ!」


 後部座席で悪態をつくカナミに、運転中のカイトが声をかける。


「おいカナミ、運転代われ! 俺がアイツを仕留める!」


「アンタ何か策でもあるの?」


 カナミの問いに、カイトは不敵な笑みを浮かべた。


「ねえよそんなもん。だけどお前が頑張ってくれたおかげであのデカブツの装甲もボロボロだからな・・・今度こそコイツの電撃も通るだろ?」 


 そう言って義手の右手を指し示すカイトに、カナミは無言で頷いた。


 ひらりと後部座席に移動するカイトと入れ替わるように運転席にカナミが座る。カイトは懐から最後に残った ”破壊の黒球”を取り出す。


 だんだんと距離を詰めてくるドラゴン。カイトは黒球を持った右手をグッと振りかぶり、そのカパリと開いた大口に向かって思い切り放り投げた。


 黒球は緩やかな放物線を描いてドラゴンの口の中に吸い込まれ、体内で起動して黒球から衝撃破が放たれる。


 廃墟を一瞬で崩壊させるほどの衝撃破だ。


 ドラゴンはその頑丈さ故破壊こそされないモノの、体内から放たれた巨大な衝撃に一瞬その動作が停止する。


 カイトはその瞬間を見逃さずに疾走する車から飛び上がった。


 空中でブーツのかかとを打ち鳴らし、”歩み続けるモノ”を起動させる。


 踵部分に取り付けられた噴出口より吹き出した多量の空気によって空中で加速、ふわりと浮き上がると動作の停止したドラゴンの巨大な背に飛び乗った。


 さっと周囲を見回して先ほどまでの銃撃により装甲の剥がれている部分を発見。そこに駆け寄ったカイトは機械仕掛けの右腕をそっと掲げた。


 それはカイトが初めて手に入れたロストであり、そしてカイトの所有する最大火力を有する兵器である。




 ”雷神の右腕”





 そう呼ばれるそのロストは、あまりにも高すぎる攻撃性能により使用者にまで被害が出かねないとしてその右手首に腕輪型の能力制御装置がはめ込まれている。


 カイトはニヤリと不敵な笑みを浮かべての制御装置を取り外す。肩部分にあるつまみをぐりぐりと動かして出力を最大にし拳を大きく振り上げた。


「”雷神の一撃”(トール・ハンマー)」


 思い切り叩きつけた右拳から凄まじい威力の電流が放出される。バチバチと弾けるスパークがカイトの視線を白く染めていき・・・・・・。















 ゆっくりと目を開いた。


 視界いっぱいにキラキラと輝く星空が浮かんでいる。まるで宝石みたいだと手を伸ばしそうとして・・・右手が全く動かない事に気がついた。


 身体を起こすと全身に激痛が走る。その痛みでドラゴンとの戦闘を思い出し、周囲を見回した。


 隣には愛用のオープンカー。そして茂みをかき分けて見覚えのある顔がこちらにやってきた。


「あら、生きてたの?」


「死んでたまるかよ。・・・それで、上手くいったのか?」


 問いかけるとカナミは肩をすくめて何かを放り投げてくる。


 右手の動かないカイトは左手で思ったより大きなソレを受け止めるとバスケットボールほどの大きさの球体の機械に視線を落とす。


「無事だったわよコア。本体があんなにデカかった割に小さいコアだけど・・・それだ高性能って事だから高く売れそうね」


 どこか満足げなカナミの声を聴きながら、カイトは依頼の成功を噛みしめてその場にゆっくりと倒れ込んだ。


 ”雷神の右腕”を解放したせいで身体にダメージが残っている。右腕のメンテナンスもしなくちゃいけないし、しばらくは休業だろう。







 世界は失ったモノで満ちている。

 かつて栄華を極めた人類は今や衰退し、やがては滅び行く運命にあるのだろう。

 


 ロスト


 失い続ける世界に生まれ、それでも夢を追い続ける馬鹿の事を人は”トレジャーハンター”と、そう呼ぶのだ。



 

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