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ドラゴン

 ドラゴン。


 それは超大型かつ凶暴な機械獣を指すトレジャーハンターの隠語である。


 その戦闘力の高さと桁違いな耐久力から討伐する事はかなり困難であり、故にその報酬も莫大なモノになる。


 油断はできない。


 万全の備えで挑まなくては狩られるのはこちらになるだろう。


 カイトは表情を引き締めて拠点としているアジトの一つで対ドラゴン用の装備を整えていた。


 トレジャーハンターであってコレクターの気の無いカイトはストックしているロストの数は同僚と比べても多い方では無い。(相棒であるカナミは自他認める銃マニアであるため、遺跡などで発見した銃は全て手元に置いている他、稼いだ報酬の八割は銃の収集に当てているという徹底ぶりなのだが)


 しかしそれでも戦闘に役立つであろうロストは発見したら売らずに保管してあるので、今回用意しているのはそう言った戦闘に特化したロスト・・・それも対ドラゴン用に役立つであろう数点をバックパックに詰め込んだ。


 数が多ければ良いというモノでも無い。


 使い慣れない武器を使っても成果は得られないモノだ。


 そう考えながらカイトは己の最も信頼出来る武器であるロスト・・・右手の義手をそっと左手でなぞる。金属の冷たい感触が、火照った身体に心地よかった。


「おーい、カイトいる?」


 バン


 と部屋の扉が大きな音を立てて勢いよく開かれる。


 恐らく蹴って扉を開けたのだろうカナミが片足をあげた状態でカイトを視認すると「おっ、いたいた」と挨拶もそこそこにズカズカと部屋に入ってくる。


「ちょっと今回使いたい獲物を車に運びたいんだけどさ、重くて私一人じゃ運べないから手伝ってよ」


「重くて運べない? お前の馬鹿力でか?」


 無言の拳が飛んでくるがソレをひょいと軽く回避して立ち上がるカイト。


 ちなみに先ほどの発言は皮肉でも何でも無く素直に驚いたのだ。


 ハンターとしてカイトと供に長く過ごしているカナミの身体能力は高い。それこそ銃マニアのカナミは戦闘時、常に持てるだけの銃を装備しているのでその筋力はかなり鍛え上げられているといっていいだろう。(面と向かって言ったことは無いが、ぶっちゃけ筋力に限って言えば自分よりカナミの方が強いとカイトは確信していた)


 そんなカナミが一人で運べないという大物に興味が引かれたカイトはカナミからの攻撃を躱しつつカナミの部屋まで足を運んだ。


 硝煙と鉄の香り。


 およそ女の子の部屋から漂う香りでは無いソレを無視して部屋に入ると、カナミの言っていた今回使いたい獲物とやらが部屋の中央に鎮座していた。


「・・・・・・お前マジかよ? コレどこで手に入れたんだ」


 カイトの言葉に自慢げに胸を反らせるカナミ。


 金額を聞くと卒倒しそうなので止めておくが・・・コレは確かに上手く使えばかなりの戦力になるだろう。


 カイトは部屋の中央にドンと鎮座するそれを見て、鳥肌が立つのを感じたのだった。









 人にドラゴンと呼ばれるソレは一切の光りが届かない夜の廃墟の中を、邪魔するモノの無いたった一人きりの王国を悠々と歩いていた。


 体長はおよそ20メートル。体重は推定数十トン。


 かつてテーマパーク用に開発されていたらしいその機械獣は、人を楽しませる為に生み出されたその巨体は、制御を失った今となってはただ恐怖の対象でしか無かった。


 頑丈な装甲に塗られたピンク色の塗料は年月によりその大部分が禿げており、鉄色にピンクの斑点模様が描かれているようにも見える。


 先日カイト達が退治した豹型の機械獣とは違って鋭い牙も爪も持ってはいないのだが、20メートルもある巨体が明確な敵意を持って襲いかかってくるというだけで恐ろしい程の脅威なのだ。


 半壊している廃墟の穴の空いた天井から一筋の光りが差し込んだ。


 柔らかな月の光は真っ直ぐに闇を貫いてドラゴンの巨体を照らし出す。


 その巨体の割に曲線の多い可愛らしいシルエット。テーマパークのパレード用マスコットキャラクターとして作られたその機械獣は、デフォルメされたワニのような姿をしていた。


「ようデカブツ。良い月夜だな」


 孤高の王にかけられる少年の声。


 音声を認識したドラゴンが声の方向へ振り返る。そこには穴の空いた廃墟の屋根に佇む一人のハンターの姿があった。


 月光が逆光となりその姿を詳しくは覗い知る事は出来ないが、それでも久々の獲物を見つけたドラゴンは戦闘態勢に入ってその巨体を振るわせた。


 ハンター・・・カイトはドラゴンの姿をジッと見据え、静かに右手の手袋を外す。


 機械仕掛けの義手。


 カイトの最も信頼するロストが月光を反射して銀色に輝くのだった。





 

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