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仲介屋

「おや、誰かと思ったらハンターのガキ共か。今日は何持ってきたんだ?」


 機械獣を討伐したカイトとカナミが向かったのは街の中心部にあるボロボロの(しかしこの時代にしては割と立派な)とある店だ。


 店の中には黒髪の、目に濃い隈がある白衣を身に付けた長身の女性がだるそうに薄いコーヒーを啜っている。


 イルミナと名乗るこの女性は、カイトとカナミが贔屓にしている凄腕の仲介屋の店主であった。


 仲介屋。


 それはトレジャーハンターと切っても切れぬ深いつながりのある職業。ハンターの持ってきたお宝を買い取り、ソレを欲している人間に高く売りつける。


 またはハンターの仕事に必要な細々した用品を販売していたり、ハンターに対する依頼を仲介したりする何でも屋みたいなモノだ。


「やっほーイルミナちゃん。今日もよろしくね」


 元気よく挨拶をするカナミとは対照的に、カイトは死んだ魚のような眼をしてだらだらと入店した。


 この店に来るまでの道中、今回の失態についてカナミにこってりしぼられたのだ。


「なんだカイト、いつもウザいくらいテンションの高いお前が今日はエラく静かじゃないか。何かやらかしてカナミに怒られでもしたのか?」


「・・・うっせーよ。ほら、コレが今回の成果だ」


 理由を的確に当てられたカイトはますます不機嫌な顔をしてイルミナに白い布袋を放り投げる。


 その様子をニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら見ていたイルミナは片手で放られた袋をキャッチすると立ち上がった。


「はいよ。鑑定するから良い子で待ってなガキ共」









「結論から言うと今回のコアは二束三文にしかならないね。流石にあのレベルでショートしてると私の技術じゃあ直しようが無い」


 機械獣のコアを鑑定し終えたイルミナの言葉に、カナミは再び怒りの目線をカイトに向ける。


「・・・・・・いや、本当にすんませんでした」


「ハハ、まあガキは元気なのが一番だとは思うけどね。機械獣のコアは繊細だからもう少し丁寧に扱って欲しいものだよ。・・・今回は討伐の依頼達成報酬だけで我慢しな」


 そう言ってイルミナの持ってきた硬貨の入った袋を嬉しそうに受け取るカナミ。


 トレジャーハンターの収入源は主に二つある。


 まずは倒した機械獣のコアや発見したロストを売ることで手に入れる資金。そして今回のように特定の機械獣の討伐依頼を受けて達成した時に得られる報酬だ。


 トレジャーハンターの中にはコレクター魂の塊みたいな奴もたくさんいて、発見したロストを手放さない者も少なくない。


 そんなコレクター達の主な収入源となるのがこの機械獣の討伐なのだ。


「あー、馬鹿カイトのせいで収入減っちゃったからな。またしばらくは不味いソイフードで食べつながなくちゃじゃん」


 カナミがわざとらしい口調でカイトを挑発する。


 ソイフードとは、戦後のこの荒廃した世界で主食として食べられている大豆粉を練って焼いた保存食だ。


 品種改良を繰り返して発明された新しい大豆は栄養の無い大地でもすくすくと育ち、また栄養価もそれなりに高い。


 食糧難に陥っていた世界を救った救世主のような食材だが、ただ一つ難点として味が非常に不味いというデメリットを持っていた。


「言いたい放題言いやがってこのアマぁ! 確かに今回は俺が悪かったが・・・言っとくけど俺たちが貧乏なのはお前が自分のコレクションに金使いまくったせいだからなこの銃マニア! そんなに上手い飯が食いたいならテメエのコレクション売って肉でも買いやがれ!」


「私のコレクションを売れですって!? 何とち狂ってんのよこのアホ! 今の時代この可愛い銃達がどれだけ貴重なのかわかって言ってるの」


 ギャーギャーと店内で騒ぎ出したトレジャーハンターの二人を眺めながら大きなため息を吐くイルミナ。


 懐からタバコを取り出して加えると、マッチで火をつけてゆっくりと煙を吸い込んだ。


 今は貴重なタバコによる退廃的な香りの煙が口内を満たしていく感覚に精神が安定するのを感じる。


 イルミナが一人タバコを吸っていると、気がつくと騒いでいた二人が静かになってこちらを見ている事に気がついた。


「・・・なに? どうかしたの?」


 イルミナが問いかけるとカナミが恐る恐るといった様子で口を開いた。


「あの・・・間違ってたらごめんなさい。イルミナちゃん、それはもしかして・・・・・・タバコなのかしら?」


「・・・そうだけど?」


 何故そんな当たり前の事を聞くのだろうか。イルミナが頭をひねっていると二人の顔がみるみる内に興奮で赤く染まっていく。


「マジかよ! 俺、本物のタバコ初めて見た!」


「すごいわイルミナちゃん! これが高級嗜好品のタバコなのね! 流石はやり手の仲介屋だわ!」


 世界的に物資が不足しているこのご時世、嗜好品というものはそれだけで貴重なモノだ。生活必需品を買いそろえるのでも一般人にとっては苦しいのに、嗜好品に金をかけられる者はよほどの金持ちしかいないのだから。


「あーそうさね。最近はお前達みたいなハンターが頑張っているから私達仲介屋も儲かるってもんなのさ・・・ってかお前達もそこそこ稼いでる筈だろ?」


 イルミナの指摘に二人は同時にサッと視線を逸らす。


 この二人、稼いでいる事には稼いでいるのだが貯金は全くといって良いほど無い。それというのもカナミの銃コレクションだったりカイトの博打好きのせいで稼いだ金が一瞬のうちに無くなってしまうのだ。


 それを察したイルミナは軽いため息をつくと立ち上がり、店のカウンターの奥から一枚の羊皮紙を持ってきた。


「そんなお前達に一気に稼げるでかい仕事があるんだが・・・やるかい?」


 その羊皮紙はハンター達に向けて発行される械獣退治の依頼書。


 デカい仕事というロマン溢れる言葉に二人はその目を輝かせた。


「もちろんさ! ・・・それで、その内容は?」


 カイトの問いにイルミナは唇をニヤリと意地悪く歪ませる。その口から飛び出た言葉は過去類を見ないほどの超弩級にヤバい仕事である。







「今回の仕事は・・・ドラゴン退治だ」





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