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イルミナの日常

 イルミナは、店番をしながらぼんやりと椅子に腰掛けていた。


 朝から店を開けているのだが、今日は一人も客が来ていない。とてつも無く暇だった。


 こういうことは珍しくも無い。”仲介屋” を利用する客なんて、まともな奴では無いのだから、そう連日客が来るような類いの商売ではないのだ。


 イルミナは、ポケットから小さな鉄製のカギを取り出すと、引き出しの南京錠を解放して中から細長い箱と古びたマッチを取り出す。


 箱を開けると、そこには一本の葉巻が納められていた。


 皆、生きることに精一杯なこの時代、嗜好品はみな高級だ。この葉巻一本で、成人男性一ヶ月分の食費が賄えるだろう。


 だからこそこうして厳重に保管をしてある。


 イルミナはベビースモーカーだった。こんな時代にタバコをたしなむ何て、正気の沙汰では無いが、彼女にはそれを可能にするだけの財力がある。


 葉巻の両端を鋭いナイフで切り落とし、マッチを擦って火を付ける。ゆっくりと吸い込めば、退廃的な香りが口内に広がってきた。


 贅沢な時間だ。誰にも邪魔をされてたくない至福の時。しかし、そんな彼女のささやかな楽しみは、望まない急な来客により中断される事となる。


 勢いよく開かれるドア。入ってきたのは険しい顔をした数人の男達だった。


「観念しろ仲介屋!! 貴様のため込んだ金をいただきにきた!」


 先頭にいた男がイルミナを睨み付けながら叫ぶ。


 しかし、イルミナは冷静な視線で男達を観察していた。


 人数は5人。先頭にいる恐らくリーダー格の男は、少し体格が良いようだが、それ以外のメンバーは皆やせ細っている。


 武器は、ナイフや鍬など、それぞれ思い思いの刃物を持ってきているようだ。


 見た限りでは、戦闘用のロストはおろか、銃器の類いを持っている様子も無い。動きは素人同然、こういった強盗行為は初めてなのか、メンバーの幾人かは挙動不審に視線を泳がせていた。


 驚異度は低い。


 恐らく、この男達は野党ですら無く、ただ生活に困って犯罪に走っただけの一般人だろう。そう予想をつけたイルミナは、葉巻の煙を吐き出しながら立ち上がった。


「……はぁ、めんどくさ」


 そう呟いて、イルミナはおもむろに加えていた葉巻を勢いよく吐き出す。


 吐き出された葉巻は、先頭にいたリーダー格の男に真っ直ぐに飛んでいき、その顔に見事に命中した。


 葉巻の火が肌を焼き、男は反射的に叫びながら手で葉巻を払いのける。それが致命的な隙になろうとは知らずに。


 次の瞬間、机をひらりと飛び越えたイルミナは、男の股間を思い切り蹴飛ばした。


 あまりの痛みに悲鳴を上げながらうずくまる男。その顔面を、イルミナの容赦ない蹴りが襲う。


 素速いイルミナの動きに、ポカンと口を開けながら見物している事しかできない残りの男達を見て、イルミナは唇を歪に歪めた。


 やはり素人。ならば、徹底的にやる必要もないだろう。


 そう判断したイルミナは、懐から愛用のピストルを抜くと、呆けている男たちに銃口を向けた。


「実力の差がわかったら帰りな、坊やたち? 別に私は人殺しが好きなわけじゃないけど……これ以上ヤルならこの引き金を引くことになるよ?」


 イルミナの脅しに、真っ青になってコクコクと頷く男達。彼らは、気絶しているリーダー格の男を担いで脱兎のごとく消えていった。


「……はぁ、世も末だね」


 床に落ちた葉巻を見て、深いため息をつく。これで食費一ヶ月分の金がパーになった。何とも勿体ない事だ。


 イルミナがこの店に用心棒を雇わない理由。それは、彼女自身がたいていの驚異なら対処できてしまうという自身の現れであった。

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