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ロスト

(・・・ああ、鳥が飛んでいる)


 カイトは今自分が何をしているのかも忘れて、ぼんやりと空を見上げた。


 抜けるような快晴の空。


 大きく翼を広げて青空を滑空する鳥の姿は、まるで水面で遊ぶ魚のようにも見えて何とも言えない不思議な感覚が胸に広がる。


 自分にも翼があれば、こんなつまらない地上を飛び立ってあの大空へ羽ばたいてやるというのに・・・残念ながらカイトは人間で、今の段階ではどうやっても地球の重力から逃れるすべは無さそうだった。


「カイト!! ぼんやりしないで、そこ行ったよ!」


 相棒であるカナミの怒鳴り声がカイトの意識を現実に引き戻す。


 前を向くとカナミに追い立てられたのか真っ直ぐこちらに向かって駆けてくる影が一つ見えた。


 そのスピードは速く、近づくにつれてその影が肉食獣を思わせる四足歩行で移動しているのが確認できる。大きさは小型の自動車ほどだろうか、ソレは立ちふさがるカイトを確認するとその大きなアギトを開いて咆哮する。


「ギュルアアア!!」


 ギラリと光るその牙はナイフを思わせる鋭さを持っており、その体面はつるりとした金属でコーティングされている。


 機械獣。


 動物を模した機械仕掛けの生命体。


 元々人の手助けをするために生み出されたその存在は、とある歴史的事件をきっかけに人間に牙を向く敵となった。


「おーし、少し遊ぼうか子猫ちゃん」


 気楽な様子でそう言って、カイトは額にかけていたゴーグルを下ろして眼に装着する。右手を覆っていた手袋をゆっくりと外すと、そこに現れたのは機械仕掛けの義手であった。


 右肩のボタンを操作して義手の電源をオンにする。


 バチバチと音を立てて機械仕掛けの右手から電気が放電された。


 飛びかかってくる機械獣を見据え、カイトは靴のかかと部分を地面に打ち鳴らした。靴に仕込まれた装置が起動し、かかと部分の噴出口から勢いよく空気が噴出される。


 カイトはその吹き出される空気の勢いを利用してその場で大きく飛び上がり、機械獣のかみつき攻撃を回避するとそのまま機械獣の背に飛び乗った。


 暴れ回る機械獣から振り落とされないように両足で胴を締め付けて身体を固定し、義手の右手で機械獣の頭部をがっしりと握り締める。


「ほらほら暴れんなっての」


 余裕の表情でそう言いながらカイトは右肩についているつまみをぐりぐりと動かした。


「喰らいやがれ! フルパワーだ!」


 次の瞬間、機械仕掛けの右手から金色に輝いて見えるほどの膨大な電気が放出される。それは機械獣の金属製のボディを通過して内部の回路を瞬く間に焼き尽くし、その動作を停止させた。 


 ぷすぷすと黒い煙を出しながらフラフラと揺れる機械獣の背からヒョイと飛び降りるカイト。その衝撃に耐えきれなくなった機械獣はドウと地に倒れたのだった。


「カイト!」


 駆け寄ってくる相棒のカナミに右手を挙げて答える。


 カナミはチャームポイントであるツインテールを揺らしながらカイトの元まで駆け寄ってくると、いきなりカイトの頭を思い切り殴りつけた。


「こんの馬鹿カイト!」


 痛恨の一撃。


 完全に不意を突かれたカイトはその拳をまともに受ける事となり、あまりの衝撃に目の前にチカチカと星が瞬く姿を幻視する。


「ってぇな!! 何すんだ!!」


「やりすぎなのよこのアホ! 別に今の機械獣相手なら出力全開にする必要無かったでしょ!? 何格好つけてんのよ。コアがイカレちゃったらどうするわけ!?」


 カナミの言葉にカイトの額からつぅっと一筋の冷や汗が流れる。


 確かにカナミの言う通り、今の相手に全力で電撃を見舞う必要は無かった。機械獣の動力源、通称 ”コア” と呼ばれる部分は摘出して売れば良い金になる。カイト達のようなトレジャーハンターの重要な資金源なのだが・・・。


「・・・すまんカナミ・・・久々の戦闘でテンション上がっちまって・・・」


「・・・テンションで、飯が食えるかー!!」


 怒りの一撃がカイトの腹部に突きささった。


 カイトと同じくトレジャーハンターとして数多の修羅場をくぐり抜けてきたカナミの拳は重く、カイトの意識は闇に沈んでいく。






 ロスト

 世界は失ったモノで満ちている。


 かつて起こった世界大戦により地球の人口はその7割を失った。


 繁栄を極めた文明も、技術者を失ってしまえば衰退してゆくモノだ。


 かつて文明の栄華を極めた時代に作り出された遺物。


 現代の科学では到底再現しえない ”ロストテクノロジー”。通称ロスト。


 俗にトレジャーハンターと呼ばれる野心家達はその失われた技術を求めて世界をかける。カイトとカナミの二人もまた、そんなロマンに魅了された馬鹿なハンターの一人なのだ。



 ロスト

 世界は失ったモノで満ちている。




 

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