処刑前日
この僕花はどこかおかしい。私が知っている設定、世界ではあるが、攻略キャラたちが若干変な方向へ向かっている。
もしかすると、元々表に出ない隠し設定があったのかもしれないが。
とはいえ、今日が動き回れる最終日である。私は明日処刑されるのだ。
「なんか用か?」
私は最後の攻略キャラであるカインの元を訪ねていた。
彼は典型的な主人公キャラで、僕花の絵は必ず彼が三人の中でセンターを取っている。
運動神経抜群のイケメンキャラだ。
燃えるような真っ赤な髪に、大人に成り立ての顔。体は鍛えられているが美しさは損なわれておらず、夏のイベントで半裸シスチルが公開された時は大興奮した。
「えぇ。少しお手合わせをお願いしたくて」
カインはそう言った私を鼻で笑う。
それもそうだろう、この学園にはカインにかなう相手はいない。
「へぇ、命知らずだな。普段は女を相手にしないが、お前なら相手してやろう。怪我しても文句言うなよ」
主人公に嫌がらせをしていた事で一番感情的になっているのは彼だ。
私を痛めつける正当な機会が与えられて嬉しいのだろう。
「えぇ、ここでは何ですので場所を移しましょう」
「そうだな、俺の練習場所へ行こう。あそこは誰も近づかない」
つれて来られた場所は山の奥にある小さな小屋だった。
「武器を使ってもいいぞ」
小屋の中は様々な武器で溢れていたが、私は武器なんて使えない。
「必要ないです」
「……俺も舐められたもんだな。表に出ろ」
私の言葉に怒りが増したのか、青筋を立てていた。
もちろん、普通なら鍛え抜かれた体を持つカインに勝てるはずがない。
だが、ゲームの中で彼は言ったのだ。
お前は危なっかしくて見てられないから自分を守る術を身につけろ、と。
「いつでもいいですよ」
「まずは小手調べをしてやる!」
そう言って真正面か殴りかかってきた彼の腕を片手でいなし、足を引っ掛ける。
「うぉ!?」
驚きの声を上げて投げられながら、カインは受け身を取った。
そう、私は彼の言葉で目覚めたのだ。合気道に。
ハマってしまうとかなりやり込む私は、相当な時間を合気道に費やした。
せっかくなのでカインと手合わせをしてどのくらい通じるのか試してみたかったのだ。
「す、少しはやるじゃねぇか」
女の私に吹っ飛ばされるとは思っていなかったのだろう、声が裏返っていた。
「ありがとうございます」
笑顔で言う私に、カインは冷静になったようだ。
「手加減なしだ。死んでも知らねぇぞ」
「そっくりそのままお返しします」
***********
「まだ、もっとだ! もっとやってくれ!!」
「い、いい加減、諦めなさい!」
縛ったカインを鞭で激しく叩く。
「あぁ……! 最高だ! 最高に気持ちい!!」
なんでこんな事になってしまったのか。
何時間も戦っていたが私は傷一つ負うことはなく、ずっとカインをいなし続けていた。
その状態に痺れを切らした彼は、武器を使いだしたのだ。
私はとっさに一番近くにあった鞭で対抗。
最初は拮抗していた戦いも、ある時点を境に変な方向へと向かっていく。
鞭で叩かれ続けているうちに、彼は自分の中の性癖に気付いてしまったようだ。
それとなくバレないように鞭を受けていた彼は、次第にプライドを忘れていき、最後は半裸になって喜びながら鞭を受けていた。
あまりにも酷い状態に陥ったため、落ち着かせる為に縄で縛った。私だって彼のそんな状態は見たくない。
だが、彼の為を思って取ったその行為が更に彼を燃え上がらせてしまったようで、這いつくばりながらすり寄ってくるカインに戦慄し、逃げようとしたものの失敗。
半狂乱で喜ぶカインに鞭を与え続けている。
こうなったらもう、この状態を楽しむしかない。
プレイと名の付くものは何でも楽しんでやるのが私のヲタク魂だ。それが例えSMだったとしても。
「鞭で叩かれるのがそんなに嬉しいか!」
パチンと気持ちの良い音を出してカインを叩く。
「ああ、はいぃぃぃ、最高に嬉しいです!」
そろそろ鞭も飽きてきた。というか、腕が疲れてきた。
小屋の中を見ると、ちょうど手ごろな蝋燭が……。
私は服の一部を割いてカインに目隠しをした。
「ななな何をなさるんですか」
不安そうにしつつ、隠しきれていない喜びをはらんだ声で言うカインの耳元で囁く。
「ふふふ、お前のような最低な変態には、もっとすごいお仕置きをしてやろう」
私は蝋燭に火をつけた。
***********
「そろそろ夜だから帰りましょう。もういいでしょ? いいよね? 服を着なさい」
「まだ足りないですが、我慢します!」
完全なドMに目覚めたカインは、私に従順な僕になった。
「アンリエッタ様! いや、女王様! また、私を罰してくださいますか!?」
「え? あ、うん、そうね、考えておくわ」
「確約していただけないのでしたらこのカイン、女王様をお返しすることはできません!」
「変態のくせに生意気よ!」
私も女王様が板についてしまって、ついついカインをヒールで蹴る。
「あぁ、女王様のローキックは素晴らしい!」
「こいつ、何しても喜ぶぞ……!」
どうしてこうなった。
私の処刑は明日だというのに、何の対策もすることができずに、当日を迎える羽目になってしまったのだった。