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処刑三日前

 翌朝。

 とあるドアをノックすると扉が開き、部屋の主は私を視界に収めると、その綺麗な顔を激しく歪ませた。


 「何の用です?」


 すっと通った鼻筋に、切れ長の目。そしてサラサラの切り揃えられた青い髪。知性を感じさせる銀縁眼鏡。


 ゲームでの出会いは、風紀委員会でもある彼に注意される事から始まる。

 その後も度々、彼は少しでも規定より肌の露出があると現れるのだ。そして、指導と言う名の個人授業を行う典型的な鬼畜眼鏡キャラであった。私の大好物です!


 ちなみに、彼のルートを選んでいない場合、下品な女、売女などと罵られる。


 僕花と略されるこのゲームは、選択した攻略キャラ以外からは無条件で嫌われるという恐ろしいゲームなのだ。

 全ルートを攻略しようとしても、好きなキャラから罵られるという恐怖に、ほとんどのプレイヤーは耐えられなかった。一部、新たな世界が開けた人もいたようだが。


 話を戻そう。


 目の前にいる青髪の彼、カミュに対してゲームでできなかった事をしてみようと思う。


 「あら、カミュ。そんな怖い顔をしないで」


 そう言って上品に微笑み、強引に部屋の中へと入る。


 「何を企んでいるんです。もう少しで君の悪事は暴かれるはずだ。大人しくしていた方が身の為だと思うが?」


 そう言って眼鏡を上げるカミュに、笑顔で近づいて後ろ手でドアを閉めた。


 「あら、心配してくれるの?」


 カミュは顔を背けて後ずさる。


 「何を考えているか知らないが、やめておいた方がいい。それと、スカートの裾が短すぎるぞ」


 この学園で生徒が着る制服は指定されており、夏服は背中が編み上げのワンピースだ。そのスカートを少し短く切っておいた。


 「私ね、一度カミュにしてみたかった事があるの」


 片手で髪を持ち上げ、首の後ろのリボンを解く。


 「な、何を……」


 「あなたって少しの乱れで注意をしてくるし、こうしたらどういう反応をするのかしら? って」


 にっこりと満面の笑みを浮かべて、ストン、とワンピースを脱いだ。完全な痴女である。


 カミュ攻略ルートでは眼鏡キャラのせいか、ラッキースケベな展開が全くない。紳士的と言えば聞こえがいいが、プレイしてるこちらとしては物足りなかったのだ。

 カミュの反応が見てみたいし、もう少しドキッとする展開が欲しいのである。ずっとモヤモヤしていた。


 この世界に転生して、あと三日で死ぬヲタクとしては、どんな反応になるのかを知ってから死にたい。


 アンリエッタは嫌われているし、暴力を振るわれたりするかもしれない。もしかしたら顔を赤らめて服を投げて寄越したり、敵対している相手にまで紳士に対応を……。






 「ぬわぁぁぁぉぁぁぁぉ!」


 そんな妄想をしていると、カミュが若干嬉しそうな大声で叫んび、鼻血を吹き出しながら倒れた。


 「……………………」


 鼻の下を伸ばしてニヤけながら、鼻血を出すイケメンを前に、私は下着のまま固まった。


 「なんだろう、想像してたのと違う。というか、かなり残念……」


 カミュは一番の推しメンだったのに。自分でやっといて何だが、とても虚しくなってきた。


 「こうなったら、とことんやってやる」


 転がったカミュの頭を太ももに乗せる。


 アンリエッタは抜群のプロポーションだ。容姿も美しく、これで性格まで良かったら非の打ち所がないという程である。その分、バランスを取るためなのか、性格は相当捻くれていたが。


 「うぅ……」


 カミュが呻いて目を開ける。


 「あらカミュ、大丈夫?」


 声に反応したのか、私を見上げ、また鼻血を吹いた。

 でかい胸越しに私を見たのだ。


 「な、なんなんだこいつは……なんて身体つきを……こ、この頬に当たる感覚は、太ももなのか? こんなにすべすべもちもちしてるのが人肌だと言うのか……?」


 かなりテンパっているご様子。

 若干引きながらも、私はカミュに言う。


 「いやだわ、カミュったら。でも、こう見えて私はこの学園で一番良い身体をしていると思うの。良かったら、少し味見でもする?」


 「ば、バカを言うな! こんな、こんな風紀を乱す行為は許さな」


 最後まで言わせず、胸をカミュの顔に押し当てた。


 「や、やへろ! なんらほれは、天国か!?」


 「ふふふ、喜んで頂けて嬉しいわ。それでは、もっと」


 「や、やめろーーー!」




***********




 そんな事を繰り返して数時間。


 「いいか、今日の事は誰にも言うな。それから、また是非来てくれ」


 鼻血の跡が残った顔で、キリッと眼鏡を上げたカミュに眉を顰める。


 「そんな言い方で私が来ると思ってるの?」


 そう言って横目でカミュを見ると、彼は顔を赤くして背筋を伸ばした。


 「申し訳ございません! 俺程度の人間がアンリエッタ様の行動に口出しするなんて! 女性の身体が、いや、アンリエッタ様の身体がこんなに素晴らしいとは知らなかった。もっともっと、いろいろと……」


 そう言って悦に浸ったその顔は、完全にエロオヤジだ。アンリエッタの身体を使って完全に躾けてしまった。こんなカミュ見たくなかったが。


 「じゃ、じゃあ、私は戻るわ」


 「はい! 是非また、お待ちしております!」


 彼を形成する大切な何かを壊してしまった気がする。そして、私の中の大切な思い出も音を立てて崩れてしまった。


 自分で仕掛けておきながら、かなり落ち込んでカミュの部屋を後にした。

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