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処刑四日前

 腹は括ったものの、やはり出来る事なら処刑を回避したい。とはいえ、結局策が思い浮かばず、朝を迎えてしまった。


 処刑が免れないのであれば、ヲタクな私としてはゲームで出来なかった事をして散りたい。


 いろいろ頭を悩ませながら歩いていると、攻略キャラの一人である金髪のエディが沈んだ顔で花壇を眺めていた。

 彼はいつも天使のような笑顔を浮かべているので、落ち込んだ顔は初めて見る。憂いを帯びたその表情はとても絵になるが、一体何があったのだろうか。


 「何してるの?」


 声に驚いたのか、慌てて作り笑顔で振り向き、私を見て一気に表情を消す。

 アンリエッタは既に、攻略キャラたちからは嫌われている立場だ。


 「なんだ君か。君には関係ないよ」


 そう言ってエディはしゃがみ込み、長い棒で花壇の土を掘り返し始めた。


 「いやいやいや、完全に構って欲しそうですよ?」


 「なんでもないって」


 小柄なエディは、その可愛さからショタ好きなお姉様たちに大好評だ。ゲームの中でもリアルでも。

 主人公も最初は弟のように可愛がっていたが、次第に男として好意を寄せるようになったのだ。私はショタ好きではないが、エディルートは最初から最後まで甘いストーリーだったので、かなり癒された。


 「そんなこと言っても気になるわ。何かあったの?」


 いつも明るいエディがここまで暗い表情をする展開は、ゲーム内で無かった。全てのルートは攻略していたはずなのに。私がこのニッチなゲームにどれだけの時間と労力をかけたと思っているんだ。

 これはもしや転生者のみに与えられるゲームにないイベントか? それともゲームをやり込んだ私への挑戦状か? どちらにしてもクリアせねばなるまい。ゲーマーな私としましては。


 「しつこいなぁ〜。でもまぁ、君の話は他の人だってもう信じないだろうし、話してあげてもいいよ」


 そう言って立ち上がり、近くのベンチを指差す。

 黙って従い、椅子に腰を落とすと、エディも隣に座った。


 「なんか僕、死ぬみたい」


 「えっ!?」


 いきなり何をぶっこんで来るんだこいつは。処刑三日前の私には笑えないジョークである。


 「今日の占いでそう出たんだ。僕はいつも占いをしてるんだけど、最近悪い結果しか出なくて、極めつけはこれさ」


 そう言って自嘲気味に笑う彼は、本気で占いを信じているらしい。


 この世界にも呪術や呪い、幽霊や魔法もあるとされているが、全ては噂程度だ。誰も信じていない。

 エディにそんな趣味があるなんて設定は、ゲームの中では一切なかった。


 「それはどんな占いなんです?」


 そう聞くと、彼は椅子から立ち上がる。


 「僕の部屋においでよ。教えてあげる。どうせ死んじゃうし」


 死んじゃうのは私だけどな!

 心の中でそうツッコミながらも、興味が湧いたので、彼に従って部屋へと向かった。




 「おかしい。色々おかしい」


 入ったエディの部屋は、正直言っておぞましかった。

 窓はカーテンで締め切られ、明かりは何本かの蝋燭のみ。所々に骸骨や何かの死骸がぶら下がっていて、床には怪しい魔法陣が書いてある。

 エディの部屋は、彼の見た目通りファンシーな物で固められていたはずだったが……。


 「普段は片付けてるんだけどね。もういいかなって」


 そう言って指した先には、隅に追いやられた大きな人形やら可愛らしい小物たち。見覚えのあるものだ。


 「か、かなり本格的な占いなのね」


 「うん。これはカエルの血。こっちは鮮度が重要な鳥の臓物と、兎の目玉。あと」


 「材料にはとても興味があるけれど、いつから占いをやっているの?」


 それ以上は聞きたくないです、とは言えずに話題を変える。


 「えっと、そうだな、かなり小さい頃からだよ。両親が亡くなって一人ぼっちだった時に、優しいお婆さんから教えてもらって興味を持ったんだ」


 両親が亡くなっている事は知っていた。確か、両親の愛情を受けられず育ったため、愛されたい、甘えたい願望が強い設定だったはず。

 だが、お婆さんのくだりは初耳だ。


 「そのお婆さんは今どうしているの?」


 「知らない。一度しか会った事がないんだ。お菓子をあげるからついておいでって言われて行ったんだけど、その家がこんな感じだったよ。それにね、家がお菓子で出来ていて、食べれたんだ! いっぱい美味しい物も食べさせてくれて、占いの仕方を教わったりして数日過ごしたんだけど、結局、孤児院の人に見つかって連れ戻されちゃったんだよね」


 「……そ、そうなんだ。それはすごいね」


 目を輝かせて話すエディに、引きつった笑いを浮かべる。

 さすが異世界。某童話のような話が本当にあるようだ。


 「でね、それ以降僕も占いの研究をしてるんだけど……今回、何度占っても死ぬって出るんだ」


 悲しそうにこうべを垂れるエディが可哀想になる。いくら私がもうすぐ死ぬとはいえ、あれだけゲームの中で癒してくれたエディを死なせたくはない。


 「それはいつなの?」


 何か出来る事はないだろうか。三日しかないけど。


 「今日だよ」


 「えっ、今日?」


 「うん」


 それならば何とでもなる。だって、彼が死なない。

 エンディングを迎えた終わった後の事は知らないが、少なくても今日死ぬなんてルートはなかった。

 ゲームの中と多少違うかもしれないが、多分エディはただ自分の外れている占いを信じて落ち込んでいるだけだ。

 それならば、私は彼を元気づけてあげるだけでいい。

 今こそ前世の知識をフル活用する時だ。考えて、一つ良い案が浮かんだ。


 「エディ、実はね。私は降臨術が使えるのよ」


 「えっ!?」


 「信じてくれる?」


 「そ、そんな事出来るわけない。そもそも僕の事を変だと思わないの?」


 「私だってこの術を普段見せたりしないよ。今のルディみたいに誰も信じてくれないもの。だから、今まで隠していたエディも変じゃないわ」


 まずは仲間意識を持たせて、これからすることに説得力を持たせる作戦だ。


 「そう、だよね。だから僕も誰にも言えなくて……。本当にできるの?」


 「えぇ、もちろん。信じるか信じないかはエディ次第だけど、やってみてから決めてもいいんじゃない?」


 少し考えた後、エディは頷いた。


 「そうだね、やってみてもらってから考えるよ。何か必要なものはある?」


 「えっと、紙とペン、それとコインを一枚」


 そういうと、エディは怪訝な顔をした。


 「血とか、死体とか、生贄とか必要ないの?」


 「……私の降臨術には必要ないのよ」


 むしろ、触りたくないです。


 「そっか、分かった」


 エディが集めた物を使って、紙に鳥居とこの国の文字、そして『はい』・『いいえ』を書く。この時点で日本人なら何をするか分かるだろう。

 

 「初めて見る記号だ。それは何?」


 「降臨した物が通過するための門よ。これからコックリさんという降臨術を始めます。エディ、このコインに指を乗せて」


 「う、うん……」


 彼の指の隣に自分の指も乗せる。

 信じさせるには雰囲気が大切だ。いくつか灯っていた蝋燭を消し、一本にする。


 「いい、エディ。約束して頂戴。私が離していいというまで、絶対にこの指を離しては駄目。彼らがこの世界で暴れてしまったら大変なことになるわ。それと、機嫌を損ねても駄目。エディは一先ず、何も喋らず見ているだけにして。いいですか?」


 ゴクリ、と唾を飲み込む音がする。

 息が荒くなるエディに、内心ほくそ笑む。

 そもそも占いを信じているくらいだから、こういった暗示にはかかりやすいだろう。


 「わ、分かった」


 「では、始めるわよ。コックリさんコックリさん、どうぞおいでください。いらっしゃいましたら『はい』へお進みください」


 沈黙が訪れる。


 最初は緊張していたエディも、そわそわし始めた頃、コインがすすすーっと『はい』へ移動した。




***********




 「すごい! すごいよ!!」


 エディが興奮して声を上げた。


 「いえいえ、それほどでも」


 コックリさんには、最初に数個簡単な質問をした。私は知っているけどアンリエッタは絶対に知らない、このゲームの内容だ。あえてエディが知っている内容を選んだこともあり、その時点でエディは完全にコックリさんを信じた。

 そして最大の問題である、『エディが死ぬか』を聞く。その答えはもちろん『はい』だ。

 その結果に絶望したエディを確認し、今度は『エディが死なないように守れるか』という問いにも『はい』と答えを出した。


 つまり、エディの占い結果は正しい事にしておいて、コックリさんにその危険から守って貰うことにしたのだ。


「君は僕が思っているより、何倍も何十倍もすごい人だったんだね。僕の師匠になってください!」


 「え」


 「お師匠様と、呼ばせてください!」


 「え」


 とても可愛い無邪気な笑顔を向けてくるエディに、若干罪悪感があるので後ずさる。私はすぐに死んでしまうし、まぁいいか。


 なんとも複雑な気持ちのまま、満面の笑みを浮かべたエディに見送られて、部屋を後にしたのだった。

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