処刑五日前
「お前も終わりだな」
真っ赤な髪を逆立て、怒りを宿した瞳が私を見る。
「貴様が同じ人類かと思うと、虫唾が走る」
メガネを押し上げながら、青髪を綺麗に切り揃えた男が顔を顰めた。
「まぁ自業自得だよね。最低」
金髪の猫っ毛をいじりながら、可愛らしい顔を持った少年が、ゴミを見るような目を向ける。
(こんなはずじゃなかった。全部あの女のせいよ……!)
自分の血で海を作る私は、怒りと憎しみに侵されながら命を落とした。
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驚いて飛び起きる。
辺りを見回すと、彼らの姿はなく、私も血を流していなかった。
荒い呼吸を整えて、改めて思い出す。
今の夢は、夢だけど夢ではない。
ここは【僕の手で咲く君という名の花】という非常にマニアックな学園物乙女ゲームの世界だ。設定としては、中世ヨーロッパくらいだろうか。
そして、私は最後に攻略キャラたちによって殺されるアンリエッタ。
どうやら転生していたのに、前世を忘れてしまっていたようだ。
アンリエッタは主人公へ数々の嫌がらせをし、屈しない彼女を殺そうとまでしてしまう悪徳令嬢だ。主人公は何か起こる度に攻略キャラに助けられて愛を深めていく。最終的に、全ての悪業が暴かれたアンリエッタは処刑、障害が無くなった主人公は晴れてゴールインする。
アンリエッタの嫌がらせは度を超していたし、主人公としてプレイして気持ちの良いゲームではなかった。と言いつつも、私はかなりやり込んだが。
慌てて日付を確認すると、私が処刑されるまであと五日しかない。
いや、もうすぐ日付が変わるところなので、行動できるのは実質三日だ。四日目の朝には処刑されてしまう。
「転生ってもっとこう、死ぬまでに時間の余裕があるもんじゃないの……?」
三日では何もできない。もはや詰んでいた。
今日、アンリエッタが自ら主人公を殺そうと行動を起こしている。彼女にお詫びの品として差し入れたケーキに毒を盛って、それを食べた主人公が今昏睡状態になっているはずだ。
「目を覚ました時に私が犯人ってバレて処刑されるんだったな」
全ては最終段階だ。せめて昨日思い出せていれば、運命を変える事が出来たかもしれないのに。
「よし」
腹は決まった。私はアンリエッタで、毒を盛ってしまった記憶もある。罪は免れないだろう。
「こうなったらいっそ、楽しんでやろうじゃない!」
猶予は主人公が目覚めるまでだ。
それまでの間、ヲタク魂を思い出した私は、最後までヲタクを貫くのだった。