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巻末詩
○あなたの知らないところで廻る春の中で
梅か桃かそれとも桜か
階段の際まで伸びている枝にそっと手を伸ばし
けれども触れることをためらって顔をそっと近付ける
あの頃は分からなかったその違いも今では少し明瞭になって
ぼんやりとしかけていた記憶の中のあなたのことを思い返す
あのときも私は同じ疑問を持っていたから
あなたはそんな私を笑いながらも教えてくれたような気がする
あれは桜でしたね
これもきっと桜でしょうね
そっと一人で微笑みかえし
あなたの知らないところで廻る春の中で私は静かに階段を登っていく