夢
○簡浄、和色
櫨色の柔らかい光線が素鼠の橋脚を貫くとき
その鋭角が溶けていくように鈍るのを
そうして世界の和するのを見ながら
私は今日も生命の有り難さを感じるのです
○アウフヘーベン
生きている限り 生を受けた限り
あなたは無謬ではいられない
低く高いところから見下ろして
自分だけは汚れないようにと身動きもせず
今ここにいることからも逃げ出して
鎖を断ち切ると息巻いて
結局は時代の軛に繋がれている
そんなあなたを拒絶できるのはあなただけ
そろそろ自分の存在を認めてあげなさい
鼠色の汚れた姿を見つめてあげるのです
生きている限り 生を受けた限り
あなたは無謬ではいられない
でも聖人君子にはなりたかったなあ
○恋を知らないあなた
私はね、恋を知らないんです
そう言ったあなたの表情は風に隠れて分からなかった
じゃあどうして私はここにいるのだろうとそう思った
あなたはそんな気持ちを汲み取るようにしてこう言った
でも愛は知っているのです
その眦の光に私は嘘を見つけることはなかった
恋をしてみたいですか
私はついそんなことを訊いてしまった
あなたは笑ってこう答えた
恋なんてものはいくつになってもできますから
私はあなたのためにも生きていこうとそう思った
○乱反射
まだ見ぬ君へ
まだ見ぬ愛しき君へ
今日はとても風が心地よいです
いつかこの気持ちを分かち合えるのだと思うと
もう涙が溢れてしまいそうになって
僕はここに生まれてきて良かったと本当にそう思えるのです
いつか見たプールの水面に光がきらきらと輝いていたのをふと思い出しました
そんな幼いころの記憶を君に伝えたい
どこかのマンションのベランダで夜の都会を眺めながら僕は君と語り合いたい
もし君が眠気を感じたとしても僕はそれを無視して話し続けてしまうかもしれない
そうしたならきっと君はマットレスを窓際に持ってきて
そこで手を握りながら僕が語るのを聞いてくれるかもしれない
手を握りながら
そうしたなら僕らの世界は繋がって
君は君の思い出を語ってほしい
そうしたなら僕らの世界は繋がって
僕は君がここに生まれてきて良かったと本当にそう思うでしょう
まだ見ぬ君へ
まだ見ぬ愛しき君へ
今日の海はとても静かです
○未確定の地平
あなたたちに出会えて良かった
この銀河の片隅にある小さくて大きな星の
同じ列島に生まれて
同じ時代に生まれて
私は本当に幸運だった
人が一回限りの生を生きるとするなら
こんなに幸せなことはきっとない
あなたも私もあの人もこの人もその人も
どの人もみんな大好きだ
もしも私やあなたの感情がお互いを殺すとしても
そのときがきてもきっと私は幸せだ
だからどうか次のときまでお元気で
次がないとすればまた昔に戻って会いましょう
過去も現在も未来も
全てが未確定の地平にて