お前は絶対に俺が殺す
これは、限定品のHRGガンダロン!
だが箱が傷だらけなのが惜しまれる。
「うらやましい」
俺がそう呟くと常闇ノ不死王は土下座をして俺に謝る。
「ごめんなさい、あなたを殺したのは私です」
「は? 俺が死んだの数日前だけど? お前のレベルなら数年以上この世界にいるだろ」
「私はこの世界に……。この魔窟に1万年前から囚われているのです」
1万年? 囚われている?
え? 何どういうこと? 思考が追いつかない。
「私はあなたに殺される今日この日をどれ程待ち望んだか」
俺がこいつを殺す?
「さあ、お願いします私を呪縛から解放してください」
解放? 何を言っているんだこいつは。
「まてまて、頭が追いつかない本当に俺のことを殺した犯人なの?」
「はい、私です。私があなたを殺した犯人です」
どうやら本当のようだ。理解できないことも多いがこの女が俺を殺した犯人なのは間違いない。
あの傷だらけの限定品のHRGガンダロンをもってる。
それは十分すぎる証拠だ。
そうだとしたら、何で俺を殺したやつをを助けてやらなきゃいけないんだ。
そもそも、まだ俺はこいつを許してないぞ。
許す気もない。
そんな俺の心情を察したのか更に言葉を紡ぐ。
「女神との約束なのです。いつかあなたがこの地に来て私を殺すまで、ここからの解放はありえないと」
女神様は同好の士である俺を殺したこの女に罰を与えてくれていたのか。
「だから、何で俺を殺したお前を許して成仏させなきゃいけないんだよ」
「私は1万年も罰を受けたんですよ?」
おいおい、開き直りかよ。知らないよお前の事情なんて。
「お前には一万年でも俺には数日前だ」
語気を強めた俺の言葉に常闇ノ不死王は自分の失言を理解したのかハッとする。
「すみません、勝手なことを言っていると思います。でも、もう耐えられないんです1万年もここに縛り付けられて冒険者達の死を見せられることに」
ダンジョンマスターはこの部屋から出れず自殺もできない上に、全ての冒険者の同行を強制的に見せられるそうだ。
つまり何百何千と裏切りや死を見せられ続けたと。
それはかわいそうだと思う。かわいそうだと思うけど。
俺は殺されたばかりのホヤホヤだ、すぐに許せるわけもない。
殺されこんな世界に来させられて、裏切られて殺されかけて。
許せないし許せるわけもない。
俺はそんなに聖人君子じゃない。
「そもそも、現状お前を殺す方法を俺は持っていない」
その言葉に光明を見たのか方法を俺に話す。
奥にあるダンジョンコアを破壊すれば常闇ノ不死王は死ぬ、コアを破壊すれば中にある本体も破壊されると俺に必死に説明する姿は鬼気迫るものがある。
コアを壊せば解放されるなら自分で壊せば良いだろ。
お前の自殺に付き合う趣味はない。
だけど常闇ノ不死王はコアのある部屋には入れないのだと、そして不死ゆえに死ぬこともできないと俺に涙顔で訴える。
知らないよ、自分の悪行を恨めよ。
他人い解決方法を求めるな。
だいたい俺を殺してプラモデルを奪った理由は何だ。
そうだ理由を聞けばこいつをもっと恨めるかもしれない。
だがその理由は俺の思惑を見事に粉砕した。
弟が小児ガンで余命幾ばくもなく欲しがっていたこのプラモデルがどうしても欲しかったのだと。
だったらちゃんと並べと言ったがこう言う買い物をしたことがなくルールが分からなく前日から並んでしまったと。
ナイフは徹夜で並ぶから護身用に家から持ってきたそうだ。
徹夜で並んだ緊張とどうしても欲しかったプラモデルを手に入れられないショックでガンダロンを高々と上げた俺が自分からすべてを奪う悪人に見えたそうだ。
意味がわからないよ。
まあ、それも余命幾ばくもない弟の喜ぶ顔が見たかったのと徹夜の緊張と買えない絶望からの衝動的なものと考えれば妥当か。
許さない、許せないけど……。
「はぁ、もう良い。そのコアに案内しろ」
常闇ノ不死王は立ち上がると深々とお辞儀をする。
別にお前のためじゃない、ガンダロン好きの弟に免じて矛を収めただけだ。
常闇ノ不死王に案内され、奥の間に向かった。
だがそんな俺を見えない壁が道を塞ぐ。
「おい、入れないぞ」
「そんな……。え、なんで待ちなさいよ」
キャッと言う言葉と共に奥の間の手前の通路から弾き出された常闇ノ不死王は床に崩れ落ちる。
「おい、どう言うことだ」
俺の問いに常闇ノ不死王は力無く答える。
自ら冒険者を招き入れる行為は自殺と同義だから、全てのも者の立ち入りが禁止すると言われたと。
自分でも過去に試したことがあったらしい、その時も弾かれたと。
今度こそは、今度こそはとうなだれ呟く。
見た目16才の娘のあんな姿を見るのは精神衛生上良くないな。
俺は何度か全力で殴ったり、槍で突いたが見えない壁は壊れる気配すらない。
入れないんじゃコアを壊すことはができないじゃないか! 壊れろ! 壊れろ!
「なんで、なんで1万年じゃ足りないの?」
そう叫ぶと常闇ノ不死王は誰の目をはばかる事もなく泣き出した。
1万年の悲願が達成できなく泣く娘を慰めるようなキザな言葉を俺は知らない。
小一時間程泣いていた彼女がようやく泣き止むと、涙をふき立ち上がり謝罪をする。
「申し訳ありません取り乱しました。あなたを殺した罪は1万年じゃ許されるはずもありませんでしたね」
1万年が重いのか軽いのか俺には分からない、だけどこの少女の心を壊すには十分な時間だ。
「どうするんだ?」
「女神様のお許しが出るまで何年でも、なん万年でもここに居ようと思います」
また何万年もの時をこんなところで一人で過ごすと言うのか、いつ許されるとも分からない許しが出るまで。
俺は拳を握った血がにじむほどに。
「ダメだね、俺はお前を殺すって言った。だからお前は俺が殺す。1年待て1年でお前を殺す方法を探す」
そう、俺のとりえは有言実行だ。
殺すと約束した。だから殺す。
「無理です。この状態の私を殺すことはできません……。」
無理? 無理なんて言葉社会人である俺には許されないんだよ!
「うるさい、1年待てと言った。黙って1年後俺に殺されろ」
その言葉を聞き常闇ノ不死王の目に光が戻る。
「……はい。お待ちしております」
そうと決まればここには用はない町に戻ろう。
「帰る」
俺はそう言い捨てるときびすを返しこの部屋の出口に向かった。
「はい、では一年後」
1年間こんなところで一人でいるのか、たまに殺しに来てやるか。
「あれだ、たまに殺せるか試すために近況報告もかねてくる」
「はい!」
その言葉に常闇ノ不死王は嬉しそうに返事をし笑う。
「じゃあな、エイジ……エミリ」
軽く手を振り別れる。
「…………」
「どうかなさいましたか?」
出口の前で立ち止まる俺にどうしたのかとエミリは声をかける。
いや、だってこれ……。
「上まで歩いて帰らないといけないの?」