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Route Of Elsion  作者: 世界史B
崩れかけた世界の中に
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光の闇は血の匂い

「……よし。これで押せばいいわけだな」

エルシオンのマニピュレーターをシャトルの残骸らしき鈍色の板に押し当て、スラスターを吹かす。それは最初は徐々に、やがて速度を増してソディアとの衝突コースを外れたところで今度は反対側から力をかけて慣性を殺す。こうしないと空気抵抗の無い宇宙ではどこに飛んで行ってどんな事故を起こすか分からないからだ。

「ふぅ」

大きく息を吐いてエルシオンを方向転換させ、ソディアに戻ろうとした時、エルシオンのレーダーに熱源が映った。

「何だ、これは……フュンフの方だな……」

[熱源解析。ルミナスアートと思われます]

カントは1度艦に戻ろうか迷ったが調べられる部分は調べておいた方がいいだろうと思い直し、

「機体の詳細は分かるか?」

[肯定。映像検索……完了。宇宙自由軍所属、ヘリアムと判明]

エルシオンの声と同時に機体の映像が映し出された。

「……この機体は……」

カントは息を呑んだ。同じだったのだ。カントがツヴェルフで見たものと。青く塗られたヘリアム。ノインが見せてくれた画像ではかなり重武装をしていたが今はツヴェルフで見た時と同様オミットしているようだった。

「……っのヤロオ!」

カントは無意識にエルシオンを急加速させていた。



「エルシオン、加速!?当艦から離れていきます!」

「何だと!」

「……待ってください、この反応……前方、コロニーフュンフ付近に自由軍戦艦、及びルミナスアート確認!」

ブリッジ全体がざわついた。この状況で戦えばまず勝ち目は無い。おまけに向こうは新型なのだ。

「くそっ!カントを呼び戻せ!」

「ダメです!応答ありません!」

ジードは艦長席の肘置きを殴りつけた。

「エイラに呼び戻させろ!」



「何?カントが?」

ブリッジからの連絡を聞いたエイラは舌打ちをして受話器を叩きつけた。

「仕方ない、アルゴンで出る!」

アルゴンのコックピットに滑り込み、カタパルトに向かう。

『待って!これをカントに渡して!』

アルゴンのシールドとランチャーを受け取った後、もう一組武装が壁からせり出てきた。エルシオン専用のシールドとプラスターだ。

「エイラ ヒューゲル、アルゴン。出撃します!」

アルゴンの速度ではカタパルトを使ったとしても敵の交戦域に入る前に追いつけるかどうか分からない。万一戦闘になった場合のシールドとランチャーだ。





「これで最後になります」

ハイドはフュンフから射出されたコンテナを掴み、ジルコニアへ向かおうとした瞬間、レーダーがアラートを鳴らした。

「何だ?」

レーダーに目を配ると何かこちらに向かって高速接近する熱源を映していた。



『こちらハイド。何かこちらに高速接近する物体あり。指示を求む』

アリシアもジルコニアのレーダーに映る機影を確認していた。

「あれはあの赤白の機体だ。いいか?よく聞きな。あの機体には鹵獲命令が出ている。絶対に壊すんじゃないよ?」

今回アリシアに与えられた任務は2つ。1つはミサキ マルクスの拉致。そしてもう1つがゼネラルエレクトロニクスの新型機体をの鹵獲だった。



「何?赤白が来たって?」

ミサキが包帯の交換をしているとカイルが突然大声を上げた。

「な……何?」

「スマネ、俺もう行くわ」

そう言うが早いか床を蹴って医務室を飛び出した。ミサキも慌てて後を追いかける。

「ち、ちょっと!まだ終わってないのに!」

「相手はこっちのルミナスアートを7機も堕とした奴だ。それに相手も1機じゃねェだろ、流石のハイドでも厳しいって」

「でもまだ出撃命令は出てないんでしょ?」

「あのなァ、命令が出たから動くんじゃなくて命令が出た時には動けるようにしとくのが一流のパイロットってモンだ。それに傷はもう心配しなさんな、この通りすっかり塞がったよ。あんたの手当てのおかげでな」

そんな会話をしているといつの間にかドックに着いていた。ハンガーにあるカイルのLAはもうエンジンがかかっていた。

「おー!ナイスだジジイ!」

床を強く蹴り、コックピットまで飛ぶ。

「ほらほら嬢ちゃん危ねーぞ!」

サイゾウに引かれて機密扉の中までミサキは戻された。そんなミサキの不安げな顔が見えたなだろうか

「何心配すんな!俺は悪運だけは強いんだぜ?」

そう言って親指を立てて見せた。




「こ……の!」

エルシオンのビームブレードがヘリアム・カスタムを掠める。ただこれは当たりそう、なわけではなくてハイドがすれすれで躱しているだけだ。

そもそもLAを無傷で鹵獲するというのは至難を極める。まず中にパイロットがいるというのが厄介だ。機体の主導権は当たり前だがコックピット側にあるため動きを完全に沈黙させるにはパイロットを殺すしかない。しかしパイロットがいるのは破壊してはいけない機体の中になのだ。

さらに人間を拘束する場合四肢の自由を奪う訳だがLAにそれが通用するかというとそうもいかない。例えばヘリアムには四肢を拘束されても腕部のガトリングガンは使用することができる。だからどんな武装をしているか分からない敵機は四肢を拘束したところで安心はできない。

ハイドは運搬途中だったコンテナを叩き割った。中からビームランチャー1丁とウェーブ・ナックルが飛び出した。

おあつらえ向きにウェーブ・ナックルはナックル部分から音波を飛ばし、中のパイロットを気絶、ひいては殺すことも可能だ。しかし直接敵機に叩き込まなければ意味がない。それは超高機動のエルシオンに接近しなければならないということを意味する。普通に考えれば不可能だが今回はエルシオン自ら近づいてきてくれている。

「この!この!この!くそ!何で当たらねぇんだ!」

『警告。敵機の武装にウェーブ・ナックルを確認。一度距離を取ることを推奨』

ミサキを目の前で拉致したヘリアム・カスタムを前に頭に血が上ったカントはエルシオンの声が耳に入っていない。そんな状態のエルシオンにウェーブ・ナックルを押し付けるなどハイドにとって造作もなかった。しかしそこで横槍が入った。

『カント!退けぇっ!』

その声と共に黄色の閃光がエルシオンの背後から迸った。カントは反射的にヘリアム・カスタムから距離を取る。その直後、今までエルシオンとヘリアム・カスタムが交戦していた場所をアルゴンの放ったビームが通過していった。しかしそれでカントは正気を取り戻していた。いや、シミュレータで繰り返し目にした光景がカントを引き戻した、とでも言うべきか。

『カント!今すぐ戻れ!艦の皆を危険に晒す気か!』

「でも!こいつはミサキを攫った奴なんだよ!」

『そんなことよりも今は……』

エイラがそう言うのも無理はない。エイラはカントがなぜソディアに乗ったのか、なぜエルシオンで戦っているかを知らない。エイラにとってミサキ マルクスの奪還はあくまで任務の1つがでしかないのだ。しかし今のカントにそこまで気を回している余裕は無かった。

「そんなこと……だと?」

『だから……』

「じゃあお前だけで艦に帰れ!俺は1人でも戦う!1人でもミサキを取り戻してみせる!」

エイラにはなぜカントがここまでミサキに拘るのかわからなかったがここまでミサキに執着するからには彼女に何かあるんだろう、そう察することはできた。

だから再び敵の方へ向かおうとするエルシオンの肩を掴み、

『ならこれを持って行け、フェルトが作ったエルシオン専用の武装だ』

「おう」

『私は新しく出てきた敵を処理する。カントはそれまで持ちこたえてくれ!』

その言葉に驚いたのは他でもないカントだ。

「え?ソディアに戻るんじゃないのか?」

『何を言っているんだ。お前を1人置いて私だけ帰れる訳がないだろう?』

それだけ言うとアルゴンは今しがた発進した新手のヘリアムへと向かった。カントもビームプラスターを構えてヘリアム・カスタムと対峙する。シミュレータにはまだ新武装のデータが入っていなかったためこれらの武装を使うのは初めてだ。だが大体の使い方はフェルトから聞いていた。

「未来の位置を……予測!」

今度は頭を冷やして回避機動をとりつつプラスターでヘリアム・カスタムを狙う。しかし青いビームは一向に当たる気配がない。それはそうだ。LAに触って間もないカントがいくら冷静になったところでビームがハイドに当たる訳がない。

しかしハイドの方もヘリアム・カスタムの機動力ではエルシオンに敵わないのは分かっている。だからランチャーの威嚇射撃位しかできることがない。こちらも手詰まりだった。

「エルシオン!ブラスターの出力を最大まで上げろ!」

このビームブラスターの最大の特徴としてビーム出力を変えることができる。これは機体からエネルギーを直接供給するからこそできる芸当だ。これによって通常のランチャーを遥かに上回る威力のビームを放つことができる上にエネルギー切れというものが存在しない。

しかしいくらエルシオンのメーデルリアクターが半永久的にエネルギーを生み出せるといっても単位秒当たりのエネルギー生成量は一定だ。高出力のビームを乱発すれば機体に回すエネルギーが足りなくなる。その上最大出力でビームを撃てば今度は銃身が保たず、オーバーヒート状態となってしまう。

[警告。1度最大出力で撃てば100秒間銃身冷却の為ブラスターが使用不能になります]

「構わない。やってくれ」

[了解。ビームブラスター、出力最大、チャージ開始]



「流石にハイドも手こずってンな……」

しかしカイルの方もアルゴンの相手で手一杯でハイドの援護に回れる余裕は無かった。

と、その時、ヘリアム、ヘリアム・カスタムの熱センサーにありえない規模の熱源がエルシオンに集中しているのをキャッチした。

「な……何だあれは……」

「こりゃやべーな」



「喰らえぇぇぇッ!」

メーデルリアクターから腕部を伝い、莫大な量のエネルギーがブラスターへと流れ込む。そしてそれを圧縮し、銃身から打ち出した。巨大な金色のエネルギーの奔流がハイドのヘリアム・カスタムを呑み込むべく襲いかかる。

「ちっ!」

ハイドも何とか躱そうとスラスターを吹かせて加速をかけるがここまでの規模になるのは予想外だった。

ほんの小さな誤算がハイドを死の淵へと誘う。

「このォォォォォ!」

アルゴンを振り切り、カイルのヘリアムがハイドのヘリアム・カスタムに体当たりした。その加速でヘリアム・カスタムはビームの射線から離れることができたがカイルのヘリアムは逆にブレーキがかかり、速度が弱まってしまった。

「カイル!」

そのハイドの声がカイルに届いたのか、それは誰にもわからない。


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