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Route Of Elsion  作者: 世界史B
不完全で不安定な世界の中は
53/53

届け、どこまでも

エイラと並んで更衣室を出た。そしてエルシオンの元へ向かう。

「随分立派になっちまったなぁ」

エルと並んで見上げたエルシオンはフェルトがその才の限りを尽くして練り上げた最終仕様へと変貌を遂げていた。

全身に追加の装甲を施し、右腕部には二丁連結式のビームブラスターが、左腕部には大型のビームブレードの出力器がそれぞれ接続され、肩部にはカントの要望でデブリ帯で使用したアンカーリフトを装備、そして増加した自重をかっとばすための追加のスラスター。

「前回の戦闘記録から機体の機動に関する制御はカントに全委任してある」

「ああ、任せとけ」

「でも火器系統はかなり複雑化してるからエルちゃん、しっかりサポートお願い」

「了解」

エルを先に乗せ、カントがコックピットに入ろうとすると後ろからミサキの声が聞こえた。

「これから……戦いに行くの?」

「まあな」

「敵を……殺すの?」

カントは一瞬答えに詰まった。問いかけたミサキの目に恐れが滲んでいたからだ。

「まあ……な」

ミサキは何か言いかけたがそれを声に出す前に口を噤んでしまった。カントがその先を聞いても結局ミサキがそれ以上話すことはなかった。

[カント、行きましょう]

エルの言葉で我に帰り、エルシオンはカタパルトに乗る。

[何も心配はいりません。カントと私ならどんな壁だって超えていけるはずです]

「そう……だな、頼んだぞ、相棒」

「……私があなたを守ります。どんなことがあっても」

「カント キサラギ、エルシオン。行きます!」


コロニーツヴェルフの後方に既に見慣れた敵の戦艦を発見した。だが戦闘行為を行っているわけではない。ただ停泊しているだけだ。

「何をしてるんだ?」

『さあ……』

[熱源は確認できません]

「とにかく、近づいてみよう」

『待てカント、敵の罠かも……』

エイラの言葉を受けてカントは戦艦の周囲を拡大してみた。するとコロニーの後ろで何かをしている人影が見えた。

「もっと拡大できないか?」

[わかりました。映像を最大望遠で出します]

画像はかなりぼやけていたが人影は何か円筒状のものををコロニーに取り付けているようだった。

「何だあれは?」

[データベース照合。該当物あり。月基地に保管されていた濃縮ウランミサイルの弾頭と一致します]

「濃縮ウラン?」

『濃縮ウランだって!』

エイラが呻き声を上げた。

『エル、それは本当なのか!』

[はい。間違いありません]

「待て待て、濃縮なんたらってのは何なんだ?そんなにやばいものなのか?」

濃縮ウランミサイル。それは核分裂の連鎖反応を利用した強大な破壊力を持つ兵器だ。だがそれは放った地域に長期に渡り有害物質を残し続けるということで開発、所持が禁止されている兵器の1つだ。

「で、何でそんなものをあいつらは持ってるんだ?」

『わからない。でもあんなものをあそこで爆破されたりしたら……』

「したら……」

カントはゴクリと唾を飲み込んだ。

『ツヴェルフは終わりだ』

「そんな……」

[いえ、それだけでは終わりません]

「どういうことだ?」

[コロニーツヴェルフが現在の位置で弾頭を爆発させた場合、コロニーツヴェルフは地球の落下軌道に乗る可能性があります]

「ってことはつまり……」

それ以上のエルの説明は不要だった。行き着く先は必死で否定し続けてきた最悪の結末だったのだから。

「……そんなことさせるかよ」

幸いまだ設置は完了していないようだ。まだ間に合う、とカントがツヴェルフに向けて加速しようとしたその時、コックピットにアラートが響き渡った。

『邪魔はさせない!』

「ハイド エイルマン……」

大型ビームランチャーから放たれた攻撃を反対へダッシュして辛うじて躱す。だが逆方向からは別の機体が迫っていた。

『カント!』

ロジェンのロケットバズーカをエイラのアルゴンが撃ち落とし、すかさずエルシオンの背後に背中を合わせた。

『言ったろ?お前の背中は私が守ると』

「んじゃ、そっちは頼んだ」

『ああ。絶対に死ぬなよ。もちろんエルもな』

[わかりました]

3人は軽く頷きあい、そして笑った。


「エル、艦長への連絡は?」

[既にしました。爆破の阻止を最優先に、とのことです]

「ああ分かってる。わかってるけど……」

エルシオンの行く手に三本の光が立ち塞がる。やむなく方向を変え、コロニーに近づこうとすると真正面でアルビオンがランチャーを構えていた。

「こいつ!」

『カント キサラギ!』

「くそ!今はそれどころじゃねーんだよ!」

アルビオンのビームを大型ブレードで斬り払い、強引に突破すると背後から高収束ビームがエルシオンを掠めて飛んで行った。掠っただけなのに装甲が消し飛んでいる。

「ダメだ!こいつを何とかしないとツヴェルフまで保たない!」

ちらりとエイラの方を見るが向こうもロジェンの相手で手一杯のようだった。

機体を反転させ、アルビオンにブラスターを撃った。



「こいつ……これだけ重武装にして速度が落ちないのか!」

エイラと刃を交えているロジェンは最後に見たそれとかけ離れた姿をしていた。肩部にはロケットバズーカを2基、そしてビームミトレイズと左腕部には小型化したレールキャノンを装備している。その姿はまるでハイドのヘリアム・カスタムを真似たようだ。

これが汎用機として設計されたロジェンの真髄。各所にハードポイントを有し、戦局と地形によって装備を最適化することができるのだ。

距離を取ればビームとロケット、逆に接近してもブレードで応戦される。そして何より威力が高い上に連射が可能なレールキャノンが厄介過ぎた。

「どうにかしてあれを封じないと……」

エイラには1つだけ奥の手があった。オーバークロックによる瞬間的な急加速。シミュレーションでカントの意表を突いたものだ。だがこれには問題があり、エンジンに過負荷を掛けるため連続使用ができない点、そして一度使うとスラスターがオーバーヒーてしまう、という2点だ。

手数は向こうの方が上だ。だから回避を読んでも芯を狙ったものは全て敵のビームで相殺されてしまった。

そこでエイラはわざとロジェンの脚部の外側を狙う。1発、2発。そして3発目で初めて脚部を掠めるようにランチャーを撃った。するとその初めて3発目でロジェンを捉えることができた。

「……やっぱりそうか」

自分が経験したからこそ気づけたことだ。後でカントに礼を言わなければな、とエイラは1人で口角を上げた。



スラスターから噴き出す炎が残光を引いて二機の軌道を描いていく。時にぶつかり合い、時に絡み合う。宇宙という無地のキャンパスに描かれるそれは時に見る者に美しさすら感じさせた。

「やっぱり初速が速すぎる!」

アルビオンの超加速に加えてエルシオンは重装甲化により小回りがききづらくなっている。それによってある程度無茶な動きができるのも確かだがアルビオンを相手取るにあたっては不利の感が否めない。だがカントは自重による慣性の大きさを利用して極力減速せずに攻撃を躱すことでデメリットをメリットに変えていた。

ふと後ろを見るとジルコニアがコロニーツヴェルフから離れて行く所だった。

「まずい……!」

カントがエルシオンの向きを変えようとした瞬間、目も眩む閃光があたり一帯を覆い尽くした。

コロニーツヴェルフの後方で巨大な爆発が起こり、コロニーの破片や民家の残骸が飛び散った。さらにエルの言った通り大きな力が加わったコロニーは安定軌道を外れ、少しずつ地球の方へ向かって落下し始めたのだ。

「間に合わなかった……」

だがカントにショックを受ける隙も与えず、エルシオンのアンカーリフトにビームが直撃した。急いでその部分を切り離して被害の拡大を留める。

「この光の中で狙ってきたのか?」

エルシオンのモニターは未だに白一色だ。狙うどころかアルビオンの姿すら見えない。

慌ててレーダーの方に目を移すと敵機を示す赤い点は既にエルシオンと重なる所まで接近していた。

シールドを構える余裕も無く、2連装ビームブラスターごとエルシオンの右腕部が至近距離から撃ち抜かれた。

「……見えた!」

アルビオンの肩から伸びたバックスタビライザーを掴み、引き寄せつつ蹴りつける。砲身は大きく歪み、アルビオンは体勢を崩した。その隙にカントはコロニーツヴェルフの方に向かってスラスターを吹かせた。

「俺が……止めないと……」

だが直進するLAなどいい的だ。即座に姿勢を戻したハイドは素早く狙いをつけ、無防備なエルシオンの背中に残った高収束ビームを放った。

目の前のコロニーに気を取られていたカントはそれに反応することができない。

『シールド展開!マグニジアを盾にしろ!』

だがその瞬間、マグニジアがエルシオンとアルビオンの間に割り込み、高収束ビームはマグニジアのシールドに直撃した。

「艦長!」

『こっちは大丈夫だ!』

だが一安心したのも束の間、マグニジアの直上にはコロニーから離脱したジルコニアが既に目と鼻の先まで接近しており、体当たりする勢いで加速していた。

『この動き……くそ!』




「主砲を撃ったらすぐにシールドを展開!敵艦の横を掠め通れ!」

アリシアの言葉通りジルコニアはシールド同士を擦らせながらながらマグニジアの横を通り抜け、両艦は互いに背を向けあう形になった。

「即回頭!同時に重質量砲用意!敵艦のケツにぶち込みな!」

両艦は同時に回頭を始めたが小回りはサイズの小さいジルコニアの方が上だ。

「今だ!撃て!」

船首から巨大な質量の塊が発射される。流石の戦艦のシールドと言えどもこの直撃を喰らえばひとたまりもない。

「シールド出力を艦前方に集中!軌道を逸らせ!」

「後方から熱源感知!対艦ミサイルです!」

推進装置にミサイルの直撃を受けて艦全体が大きく揺れた。

「機関部に異常。シールド出力、40パーセントまで落ちました」

やはり、とジードは拳を肘置きに叩きつけた。力量の差をまたしても見せつけられてしまった。もしこの艦に自分1人だけが乗っているのであればどれだけいいか。そうであれば自分の力不足で命を落とすのは自分1人で済む。だが現実には数十名の部下の命もこの艦に乗せているのだ。

「もし自分1人だけなら、とか思ってません?」

「な……」

ミライはジードの心を見透かしたように目で笑った。

「マグニジアは1人では動かせません」

「そんなことは……」

「いいえ、わかってません」

いつになく厳しい口調でミライはジードに言い放った。

「何のために私達がいると思っているのですか、あなたに守られるため?笑わせないでください。あなたが私達を守りたいように私もあなたを守りたい。それはきっと全乗組員の総意です」

「全くです。艦長」

ジードが唖然としている間にアルフレッドが舵を大きく回し、同時に主砲を砲弾に直撃させた。

「俺は……」

すると砲弾はシールドを擦るように横滑りし、マグニジアの艦底を削り取るようにして後方へと飛び去っていった。

「被害確認!該当区画の隔壁、閉鎖します」

シールドジェネレータはオーバーヒートし、艦にも大きなダメージを負ったが辛うじて直撃は避けることができた。

「すまない」

「艦長、こういう時は何て言うんですか?」

悪戯っぽく笑うミライに思わずジードの口角も緩む。そして同時に不思議と涙腺も緩んできた。

「……ありがとう、だったな」

だがジルコニアの攻撃はまだ終わってはいなかった。装備できる重質量砲は2発あるのだ。

「くそ……シールドは!」

「ダメです、未だオーバーヒート中です!」

「一瞬でいい、ジェネレータを爆発させてでも作動させろ!」

絶体絶命かと思われた瞬間、マグニジアの前に一機のLAが割り込み、回転しつつ接近する重質量砲弾に向かって行った。

「カント!何をする気だ!」



「エル!ブレードの出力を限界まで上げろ!」

左腕部の大型ビームブレードを展開し、右に大きく振りかぶる。同時にブレード刃はどんどん大きくなり、砲弾とぶつかる頃にはエルシオンとほぼ同じ大きさにまでなっていた。

だが相対するのは巨大な質量の塊。表面が溶解しても内側にまで熱が通らない。

[ブレード出力器、オーバーロードまで残り5秒です]

エルの言う通り出力器が赤く溶解し始めた。既に排熱が追いついていないのだ。だがここで諦めるわけにはいかない。

「こ、な、く、そぉぉっ!」

スラスターも限界まで出力を上げ、機体ごと砲弾にぶつかった。そして勢いそのままにブレードを振り抜く。

[ブレード出力器、熱限界。パージします]

エルシオンの背後では中心から綺麗に真っ二つにされた弾頭が二又に分かれてマグニジアを通り過ぎていった。

「エル、行くぞ!」

再びスラスターに火を入れ、コロニーツヴェルフへ急いだ。


[これを止める考えがあるのですか?]

エルシオンは既に先端部分が赤く熱され始めたコロニーの上に立っていた。

「まあ、あるにはあるんだが……!」

素早くその場から飛び退る。するとつい一瞬前までエルシオンが立っていたところに大穴が開いた。

「いい加減しつこいな!」

コロニーの周囲を互いに周回しながらチャンスを窺い合う。だがエルシオンに飛び道具は無い。攻撃しようと思えば接近するしかない。

「ツヴェルフが墜ちるまでの時間はわかるか?」

[どんなに長くてもあと10分程度です]

「んじゃ、そんなにゆっくりしてもらんないな……」

カントは追加の装甲とスラスターをパージした。接近戦をする上では速度や装甲よりも身軽な方がいい。さらにコロニーの外壁にアンカーを打ち込み、そのままアルビオンに真っ直ぐ接近した。これで正面から攻撃を受けた場合、ワイヤーを巻き取れば素早く方向転換することができ、攻撃後の隙を狙うことができるのだ。

『甘いな!』

だがハイドはビームランチャーとバックスタビライザーの両方を使ってエルシオン本体とワイヤーの両方に攻撃した。

「く……っそ!」

腰部のブレードを素早く展開させ、正面のビームを打ち払った。

『あの時の答えを今返そう』

「何?」

次々と放たれる金色の閃光を払いつつなおもエルシオンは突き進む。

『俺が戦う理由。それはこのふざけた戦争を終わらせる為だ』

「戦争を……終わらせる?」

『この戦争は俺から全てを奪っていった』

「ふざけるな……この行動は本当に平和を作ろうとしている人たちにとって邪魔にしかなってないんだぞ!」

アルビオンに肉薄し、胸部に押し当てられたランチャーにブレードを突き刺した。そしてそのままブレードごとランチャーを放り投げ、アルビオンの胸部を殴りつける。

『話し合い?話し合いだと!笑わせるな!10年前、終戦だ何だと騒ぎ立てて何かが変わった!相変わらず宇宙は搾取されるだけだ!俺たちは奪われるだけなんだよ!』

アルビオンはエルシオンを蹴り飛ばし、体勢が崩れたところで機体を掴んでツヴェルフに叩きつけた。

『言葉が使えないなら力に頼るしかない!地球とコロニー、この構図が争いを生むならどちらかを消すしかない!』

故郷を、家族を、仲間を、何もかもを奪っていった。合衆政府はそれを肯定し、地球の市民はそれを支持した。何の関係も無い一般人?無実の人々? ハイドの中にそんなものは存在しない。民衆一人ひとりの意志が争いを駆り立て、政府は最後の一押しをするだけだ。ならば政府を1つ潰したところで何の変化もない。また似たような頭が生えてくるだけだ。根っこの部分を変えなければ永遠にこの争いは続く。それがハイドが導き出した結論だ。

アルビオンはコロニーにエルシオンを押さえつけ、そのままビームキャノンを胸に突きつけた。

「それじゃ何も変わらない!人は力だけじゃ変えられない!」

死の大地で生き抜くメイリンも、平和を願って対話を続けるオズマやナタリスも、決して力に屈したりはしなかった。それどころかそんな逆境を力に変えてすらいた。そんな彼らに力による変革は通用しない。綺麗事かもしれない。だが綺麗事も貫けない変革などに価値なんて無い。それがカントの掴み取った答えだ。

ビームを撃つ瞬間、砲身を掴んで右側に押し出す。ビームはエルシオンを逸れてコロニーに風穴を開けた。

「この!」

アルビオンを蹴り飛ばし、よろけている間にさらに蹴りを加える。 そしてさらに攻撃を加えようとした所でバックパックが火を吹いた。

[先ほどの衝撃でスラスターが損傷した模様。出力が50パーセントに低下します]

「リアクターの出力を上げて無理やりにでも維持しろ!」

しかしその一瞬のやりとりの間にハイドは姿勢を戻してブレードを引き抜いた。カントも最後のブレードで応戦する。金色の刃がぶつかり合う度に火花を散らし、双方の機体に傷が増えていった。

「ち……くしょう!」

「っ……!」

一瞬の隙を突かれ、エルシオンが後ろによろめく。その瞬間を見逃さず、ハイドはエルシオンのコックピットにブレードを突き立てた。

「く……」

だがそれは辛くもエルシオンのコックピットの装甲を削り取っただけに留まった。

両者は素早く距離を取り、油断なく相手を見据えた。コロニーツヴェルフは既に半分ほどが赤い光に包まれていた。

「次で決める」

接近、そして袈裟斬りに振り下ろしかけたブレードと敵のブレードが接触する寸前、わざとブレードを手放した。そして体勢を低くして横薙ぎの剣戟を躱し、慣性によって落ちてくるブレードを逆手で掴み取るとそのまま上へ振り抜いた。光の刃はコックピットを削り、胸部を抉って頭部を縦に斬り裂いた。

「はあ……はあ……」

前部分が開けた胸部からカントは初めてハイド エイルマンの素顔を見ることができた。



「こ……の……やっぱダメか」

コロニーを先端から全力で押してみるが当然LA一機の力で押し返すことなどできるはずもない。

『カントもうダメだ!マグニジアに戻……』

そこまで聞いてカントはエルシオンの通信を切断した。

[どうするつもりですか、ルミナスアートが何機集まろうとも……]

そう言いつつもエルはどこか落ち着いた調子で言った。

「あるんだよ、ルミナスアート一機でコロニーを押し返す方法が」

[そう……ですか]

カントはシートを倒し、エルを引き寄せた。

「んじゃ、エルはエイラと一足先に戻っててくれ。俺はちょこっとこいつを押してすぐ戻るからさ」

わかりました。エルならばそう言ってくれる。カントはそう思っていた。だがエルの返答はカントの予想の真逆だった。

「嫌です」

初めはその言葉が信じられなかった。自分の耳がおかしいのか、またカントの知らぬ間に新しい言葉でも作られたのか、そう疑うほどだった。

「もう一度言うぞ。先に……」

「嫌です」

やはり返答は変わらない。それは疑いなく、間違いなくエルが初めて見せる反抗の意志だった。

「どうして……」

「私にはわかります。あなたが何をしようとしているのか」

「……っ、やっぱりか……」

「やっぱりって……それが分かっていてどうして……」

普通に考えて地球の引力に引かれているコロニーを押しもどすことなど不可能だ。普通に考えなくとも不可能なのだがカントは1つだけその方法を知っていた。

メーデルリアクター。半永久的にエネルギーを生み出し続けるエルシオンの心臓。一度エルがエルシオンを暴走させた時、メーデルリアクターも同時に暴走した。その時にフェルトが言っていたのだ『爆発する』と。

気になってカントがケインに聞いてみるとその威力はケインにすら計り知れないらしい。通常メーデルリアクターにはリミッターがかかっており、例え破壊されてもそこまで強力な爆発が起こることは無い。だがもし万一リミッターが外れた状態で破壊などされようものならその破壊力は計り知れない、と。

それこそコロニーを破壊するレベルかもしれないな、とケインは笑っていたがそれだけの威力があればコロニーに十分な力を及ぼすことができる。

「そんなことを私が許すとでも?」

「2人死ぬか、1人死ぬか、俺はどっちかを選べって言われたら後者を選びたいね」

カントはハッチを開けるスイッチに手を伸ばす。しかしエルはその手を押さえた。

「なら、私が残ります」

「は?何言ってんだ……」

「私にとって……あなたのいない世界になど意味はありません」

エルは握ったカントの手を抱きしめた。

「あなたに会った時、とても強い気持ちを感じました。あなたに手を握られた時、温かさを知りました。あなたに抱きしめられた時、不思議と身体が熱くなりました」

「あなたと一緒にいると胸の奥が締め付けられます。いつまででもあなたの隣に居たいと思って恥ずかしくなります。でも私とあなたは同じ時を歩むことはできない。そう思って淋しくなります」

「フェルトに聞いてみました。私はどこかおかしいのか、どこか壊れているのか、と。そうしたらこの気持ちの正体は恋、だそうです。おかしいですよね、私はアンドロイドのはずなのに」

「そんなこと……」

「私はあなたに数え切れないくらいのものをもらいました。だから1つくらい……返させてください」

カントの目がエルの手で覆われた。暗闇ので唇に一瞬だけ柔らかい感触を感じる。

「私は、カント キサラギが……好き……です」

手が離れて視界にエルの赤らんだ顔が映る。心なしか恥ずかしそうに目線を逸らしていた。

「エル……俺は……俺も……」

カントが言いかけるとエルは指でカントの唇を抑えた。そして額を合わせて、笑った。

「カントはずるいです」

そしてハッチを開き、その外へカントを突き飛ばした。

「おいエル!エル!」




「……」


音無き虚空にエルの形のいい唇が上下する。


エルが最後に何を伝えようとしたのか、今となっては誰にも分らない。もちろんカントにも。




その後、エイラのアルゴンに回収され、マグニジアまで戻された。それからのことはほとんど覚えていない。ただエルが残した最後の光、消えゆく星の最後の輝きだけは鮮明に瞼に焼き付いている。

確かにこの世界は歪で、デコボコで、理不尽に溢れている。だけど君とならきっと楽園になる。そう思っていた。


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