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Route Of Elsion  作者: 世界史B
不完全で不安定な世界の中は
49/53

届きもしない声よ、届いて

「何あの機体!見たことないよ!」

「何となく自由軍の機体っぽくはないがな……」

フェルトとエイラはエルシオンのメインカメラから送られてくる映像を食い入るように見入った。黒ベースの機体色に背部には縦長のスタビライザーが付いている。

そしてその映像を遠目に見ていたノインは顔面を蒼白にしていた。

「まさかあれを……でもあれはまだ……」

「それにあの加速を見た?あんなに急激に加速をかけたらパイロットが保たないよ」



「何だこいつ!速すぎる!」

謎の機体は高速で飛び回りながらエルシオンを狙う。ビームを放つ瞬間僅かに速度が落ちるためそこを狙うのだが速度が落ちてからトップスピードに乗るまでが短すぎてその瞬間を狙っても悠々と躱されてしまうのだ。

さらに敵のビームも今までのとは桁違いに強力だ。ややもすればエルシオンのビームブラスターに匹敵するかもしれない。

「……エル」

このままでは勝てない、カントにはそれが分かった。だから自身が一歩踏み出さなくては、そう思った。

「SASを切れ」

SAS、自動で照準を敵機に合わせ続ける射撃補助システムの1つだ。それは敵に当てやすくなる代わりにこちらの存在を知られる、そしてスピードのある敵にはかえって当てにくくなる、というデメリットも抱えている。今回は後者のデメリットが足を引っ張っている、そう考えたのだ。

[ですが……]

「いいから早く!」

[……了解。オート射撃補助、停止]

メインモニターからロックオンの円が消えてすっきりとした。

「よし……」

敵の動きを観察する。ここからはエルシオンの補助は一切ナシ。カントの実力だけが頼りだ。

「まずは足を潰す!」

敵の進行方向に大きく照準を振ってブラスターを放った。だが敵はさっと進行方向を変えてビームは見当違いの方向へ飛んで行った。

「……っ、もう一度」

少し小さめに照準を振る。しかし今度は速度に振り切られてしまった。ビームは敵機の遥か後ろを通りすぎていく。

3度目の正直。今度は最初と2度目の中間辺りに照準を合わせる。するとビームは敵機の脚部を掠めて飛んで行った。クリーンヒットこそしなかったものの感覚は掴んだ。

さっきの感覚に合わせて次々とビームを放つ。それらはまるで生き物のように真っ直ぐ敵機に向かって行った。

と、敵の軌道が変化したのにカントは気づいた。心なしか動きが大雑把になっている気がする。

「エル、あの機体を拡大してくれ」

[了解。望遠画像、表示します]

見ると敵機の背部に付いている縦長のスタビライザーが90度回転し、両の肩部からせり出していた。

「何だ?」

[敵機に高熱源反応!]

エルの声と同時に敵機の肩部から弾丸のようなビームが発射された。そのあまりの早さに回避が追いつかず、1発目は何とか躱したものの2発目はシールドで受けるしかなかった。だが次の瞬間、シールドに命中したその弾丸状のビームはシールドを容易く貫通していった。

「おいおいマジか……」

今回は1発もシールドに被弾していない、ということは完全な状態のままそれをいとも簡単にぶち抜いたのだ。直撃すれば……などとは考えたくもない。


「嘘……私のシールドが一撃で……」

フェルトは唇を噛み締めた。純粋にメカニックとしての腕で負けた、そんな初めての感覚だった。

ふと後ろを振り返ったエイラは1人でドックから出ていこうとしようとしていたノインを見つけた。

「ノイン!」

ノインは伸びかけられるとビクッと体を震わせた。

「待ってくれノイン、あの機体について何か知っているのか?」

「それは……」

「何でもいいから、話して!」

2人に詰め寄られ、ノインは目を泳がせて起死回生の一手を探していたようだがやがてそれも諦め、観念したように顔を伏せた。

「あの機体は……EL-06、既に凍結処分になったはずのエルシオンの後継機に当たる機体だ」

アルビオンは胸部、そして背部のバックスタビライザーに1つずつ、計3つのジェネレーターを直列に繋ぎ、メーデルリアクターを超える出力を出すことができる。

そしてその最大の特徴は大きく2つ。1つは常識はずれの加速力だ。通常のLAはスラスターを吹かせてからトップスピードに乗るまでおよそ2秒の時間を要する。エルシオンですら1秒だ。それをアルビオンは0.2秒でトップスピードに乗ってしまう。そして2つ目は推進装置も兼ねる背部のバックスタビライザーから発射される高収束ビームキャノン。先ほどエルシオンのシールドを一撃で貫通した弾丸状のビームだ。

スタビライザーにジェネレーターが直結されている関係上、連射はできないもののメインジェネレーター丸々1基分のエネルギーを限界まで収束させて放つビームの破壊力は想像を絶する。

「でもどうしてそんな機体が凍結されてるんだ?」

「それは……テスト段階で既に何十人ものパイロットが死んでるんだよ」

「死……」

エイラ、そしてフェルトまでもが二の句を継ぐことができなかった。

問題になったのは1つ目の特徴である加速力。通常のLAには重力制御装置が搭載されており、加速時にかかるGを軽減している。だが通常搭載される重力制御装置ではアルビオンのコックピット内にかかるGを殺しきれず、パイロットには超過分のおよそ10Gの重力に襲われる。それは人が耐えることができる限界を超えているのだ。

「だから今アルビオンに乗っているパイロットはとんでもない化け物だよ。10Gの中での戦闘機動なんて常軌を逸してる」



「くそ!あれをこれ以上食らったらまずい!」

カントは危険を承知でアルビオンに接近した。弾丸状のビームは推進装置を90度傾ける都合上発車する瞬間は若干動きが鈍くなるのだ。

だがそれを抜いても相手にはまだ大型のビームランチャーがある。近づいたところでエルシオンに分が傾く、というのは期待できない。

2種類の黄色いビーム光が交差する。そして何拍かの攻防を経た後、アルビオンはくるりとエルシオンに背を向けてその場から離脱を図ろうとした。

「逃すか!」

カントもその後を追う。こうなった場合、後ろを取っているカントの方が有利だ。しかし後ろを取ってもなお敵に直撃を与えるのは容易ではない。

「でもこの状態だとあのビームは撃てないだろ」

だが敵はカントの見通しを易々と裏切った。機体を前転させ上下180度逆向きにする。すると速度を落とさずに背後に機体の前面を向ける。即ち攻撃が可能になるのだ。

「この野郎!」

エルシオンは前に飛行している都合上ビームの弾速は通常の何倍にも感じられる。それでもカントは2発の高収束ビームを躱してみせた。だが一安心したのも束の間、次は通常のビームが向かってきた。このままでは直撃コースだ。

カントは舌打ちしてブレードを展開、そのビームを斬り払った。シールドが無い局面での苦肉の策だ。

だがブレードでは通常のビームには対応できても高収束ビームの方には無力だろう。つまり今の攻撃がそうであればカントは死んでいたのだ。

「なあ、どうして今普通のビームにしたんだ?」

[不明。しかし連射はできないと予想します]

「連射できない……そうか」

思えばビームブラスターも最大出力で撃てば砲身が焼けついてしまう。つまり強い攻撃には相応の代償が付きまとうのだ。そう考えれば合点がいく。『撃たなかった』のではなく『撃てなかった』のだ。

「なら畳み掛けるチャンスは今しかない!」

カントは一気に加速をかけた。スラスターから青白い炎を吹いてエルシオンが距離を詰める。敵も大型のビームランチャーで応戦するが全てブレードで払い、回避して速度を落とさないようにした。エルシオンの急接近に動揺したのか一瞬軌道が乱れる。その隙を見逃さずにカントはブレードを振り下ろした。

ブレード同士がぶつかり合い、火花が散る。その時初めてカントは敵の機体を間近で見ることができた。

「エルシオンと……似てる?」

[殲滅対象確認。これより最優先指定プログラムにより殲滅を開始します]

機械的なエルシオンの声が響いた。それと同時にコックピット内のモニターが全てブラックアウトし、カントの操縦を受け付けなくなる。

「おい!何が起きてるんだ!エル!エル!」

カントがいくら呼べども返事は返ってこない。

[パイロットからのアクセスを遮断。メーデルリアクター、兵装の全セーフティロック解除。エルシオン、再起動]

「どうしたんだ?おい!返事をしてくれ!」

『カント!どうしたの?エルシオンが!』

カントの呼びかけに応えたのはエルではなく動揺した様子のフェルトだった。

「わからない。俺の操縦も受け付けないしモニターも映らない!今外で何が起きてるんだ?」

『エルシオンが……黒く……』



エルシオンがアルビオンとブレードを打ち合った瞬間、瞬間的にエルシオンの動きが止まったかと思うとみるみるエルシオンの赤く発光していた部分が黒く変わっていく。これにはフェルトもノインもだった驚きを隠せなかった。

「何?どうなってるの?」

「まずい!メーデルリアクターの回転率がどんどん上がってる!」

ノインはエルシオンの機体状況が表示されるモニターを見ながら悲鳴を上げた。

メーデルリアクターは内部で核融合反応と核分裂反応が起きているあまりに危険なジェネレータだ。そのため普段その働きは70パーセント前後に抑えられている。それ以上の出力を出し続けると暴走を起こして爆発する危険があるからだ。

エルシオンは一度アルビオンから距離を取り、ブラスターから眩いばかりの閃光を放った。だがアルビオンは易々とそれを躱してみせる。するとエルシオンは再び同じものを撃った。それが躱される度、何度も、何度も。

「嘘……ブラスターの方のセーフティも外されてる……」

最大出力で撃ち続けたビームブラスターは次第に銃身が赤く溶解し始め、とうとう爆発した。

すると今度はブレードを展開し、アルビオンに斬りかかる。大振りの横薙ぎはジャンプして躱され、高収束ビームキャノンをがら空きの背部に狙いを定めた。だがエルシオンは人間では考えられない速さでブレードを振りせり出た銃身を斬り裂いた。

さらに続けざまにコックピット部分へ刺突を繰り出す。アルビオンはかろうじてブレードで応戦したが出力の差でジリジリと追い詰められていく。

不意にエルシオンの黒く光るパーツがその輝きを増し、ブレードの出力がさらに上がった。そしてアルビオンのブレードごと右腕部を溶断するがアルビオンは最後の力を振り絞ってエルシオンのブレードを横へ受け流し、コックピットへの直撃を避けた。

「フェルト!リアクターの出力がまだ上がっている!これ以上上がると……」

後ろに後退するアルビオンに畳み掛けるようにブレードを斬りつける。完全に戦いのペースはエルシオンが握っていた。


『カント!聞こえてる?』

「聞こえてるよ!今何が起きてるんだ?教えてくれ!」

『いい?よく聞いて。今エルシオンが暴走してこっちのアクセスも受け付けないの!」

「暴走?敵のルミナスアートはどうなってる?」

「今はエルシオンが圧倒してるけど……このままメーデルリアクターを動かし続けたら……」

そこで突然通信が途絶した。具体的に何がどうなっているのかはわからなかったがフェルトの声の調子からかなり切羽詰まった状況に置かれていることはわかった。

「でもそれからどうすればいいんだよ!」

ペダルやレバーをがむしゃらに動かしてみてもウンともスンともとも言わない。

「エル!聞こえてたら返事してくれ!」

エルを読んでみてもやはり帰ってくるのは沈黙ばかりだ。

だがおかしくなる寸前に聞こえた無機質な声は確かにエルのものだった。ということは解決への鍵もエルが握っている可能性が高い。だが呼べども呼べどもエルからの返事は無い。

確かエルはパイロットからのアクセス遮断、と言っていたのをカントは思い出した。ひょっとしたらカントの声も届いていないのかもしれない。

「仕方ない……フェルト、怒るなよ?」

カントはベルトを外して、パイロットシートの背もたれ部分を渾身の力で引っ張った。

「エル……だんまりを決め込むつもりなら力づくで引っ張り出すからな……」

シートの留め具がミシッ、と音を立てた。なおも力を込め続けるととうとう破砕音とともに留め具が割れ、背もたれが引き剥がされる。その奥には頭の部分に何本ものケーブルが繋がったエルが目を閉じたまま佇んでいた。

「エル……」

「アクセス拒絶。最優先指定プログラムを遂行します」

「お前がそこまで強情な奴だったとはな……」

カントはエルシオンから延びるケーブルを掴み、エルから引き抜いた。

「エルシオンとの接続の切断を確認。復旧作業を最優先に……」

「いい加減目を覚ませって!」

未だ虚ろな目のエルをカントは無理やり引き起こし、背もたれを元の位置に戻した。

「カン……ト?」

ようやくエルの瞳に光が戻ってきた。口調にも僅かな感情が戻ったような気もする。

「おかえり、エル」

カントは小さなエルの体を強く自分の方に抱き寄せた。

「私は一体……」

「ったく、2人なら、って言ったのはお前だろ?なのに1人で突っ走ってどうすんだ」

「すみません」

エルはカントの胸に顔を埋めた。


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