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Route Of Elsion  作者: 世界史B
不完全で不安定な世界の中は
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銀河の記憶、変化の記録

「では早速商談の方に参りましょうか」

エリックは斜め後ろに控える女性からカバンを受け取り、数枚の書類をアリシアに手渡した。

「今時紙媒体の情報とは珍しいですなぁ」

「なにぶんデータバンクに保管しておくのも危険な代物でして……」

コニーが呑気な会話をしているのを尻目にアリシアは素早く書類に目を通した。そこには1機のLAのデータが記載されていた。

「この機体は……」

「最も。それはEL-00、エルシオンのものです」

そこにはエルシオンの運動情報だけでなく構成パーツまで示されていた。エルシオンを攻略するにあたりこれ以上なく有用な情報だ。

「それで、こんなものを見せてあたし達に何をさせるつもりだい?」

アリシアがそう口にすると今までニコニコとしていたエリックの目つきが突然鋭くなった。

「その機体、EL-00を破壊してもらいたい。無論、こちらができるだけのサポートはさせていただきます」

エリックは再び後ろの女性に合図し、2つ目のカバンの中身を出した。

「こちらの機体を貸し出しましょう。コックピットブロックさえ無事なら破損しても構いません」

アリシアは新たに手渡された書類にも目を通す。そこにも1機のLAの情報が記されていた。

「EL-06アルビオン。エルシオンの後継機に当たる機体です。機体性能……特に加速力、そして搭載火力はエルシオンを大きく上回ります」

アリシアは手に持った書類とエリックを交互に見回した。断れない話とはいえあまりにもアリシアに美味しすぎる話だ。エルシオンを倒す為に最新機まで貸し与えてくれ、成功すればさらに報酬が出る。逆を言えばゼネラルエレクトロニクス側がこの提案を持ちかけるウマみが無い。

「艦長……」

だが、とアリシアは考え方を変えてみた。どっち道現状のままエルシオンを相手取るには戦力不足だ。ロジェンはまだ修理に時間がかかる上にハイドも使い物にならない。アリシアも自由に出撃できない身だ。ここはリスクを飲んででもエルシオンの撃破を第一に考えるしかない。

「わかった。その話に乗ろう」

アリシアがそう言うとエリックはまた元の温厚な表情へ戻った。

「ありがとうございます。それでは今すぐ機体を搬入しましょう。それと、専門のメカニックも3人配備します」


「それにしても腑に落ちませんね」

「話が美味すぎるって言うんだろ?」

コニー頷いた。アリシアも鼻を鳴らしてアルビオンの書類を眺めた。

「大方この新型機のデータ取り、ってとこだろうね」

「大丈夫なんでしょうか?」

コニーもアリシアの書類を横から覗いた。

「別に危険そうなことは書いてなかったけどね、ま、そんなのをここに書くわけないか」

「しかも依頼主がゼネラルエレクトロニクスって……エルシオンって機体はゼネラルエレクトロニクス製なんでしょう?」

「あいつらも一枚岩じゃないってことだろ」



「ミサキ?調子は……」

ニーチェがハイドの様子を見ようと部屋へ向かっているとミサキが勢いよくニーチェの脇を駆け抜けていった。通り抜けざまに肩と肩がぶつかり、ニーチェは後ろによろける。

「ミサキ……?」

追いかけようと後ろを振り向くがミサキは既に遠くまで行ってしまっていた。そしてミサキが通った後にぽつぽつと続く水滴に気づいた。


「ハイド!」

ニーチェが急いでハイドの部屋へ向かうとドアは開け放されたままになっていた。当のハイドは壁に手をついたま顔を伏せている。

「ハイド!ミサキに何をしたんだ!」

ハイドの胸ぐらを掴んで壁に叩きつける。ハイドは目を伏せたまま口を開こうとはしない。

「何をしたんだよ!」

「……」

「……っ!一度でもお前を仲間だと思った僕が馬鹿だった」

ニーチェはハイドの頬を殴りつけた。ハイドは躱そうとも守ろうともせず唇から赤い雫が漏れ出るままにした。



アルビオンが到着した、という連絡を受けてアリシアはブリッジからドックへ向かっていた。コニーは万一の時の為にブリッジに待機させてある。

と、そこへ正面からミサキが走ってきて正面からぶつかった。

「おいおい、ちっとは前を見て……」

ふと前を見ると漂う水滴に気づいた。

「……どうした?」

ミサキは何も答えずアリシアを払いのけて先に進もうとする。アリシアはその肩を捕まえた。

「何でも……ないです」

アリシアが無理やり自分の方に顔を向けさせるとミサキは慌てて目元を拭った。

「そうかい、何でもないならあたしについてきな」

アリシアは半ば無理やりドックへミサキを引っ張って行った。

「これがそのアルビオンってやつだね」

「はい。細かい調整をしますのでパイロットの方に搭乗してもらいたいと思います」

普段はがらんとしているジルコニアのドックに新たに加わった1機とその隣には予備のパーツであろうコンテナが積まれていた。

「新しいルミナスアート?」

ミサキは新顔の機体を見上げた。黒いベースカラーに所々ライトブルーがアクセントになっている。ハイドのヘリアム・カスタムやニーチェのロジェン、アリシアのリシアムのどれとも違う異様な雰囲気を漂わせていた。

「ま、いろいろあってね。操作感はこっちで何とかするから今のうちにあんたらは休んでな、またいずれ忙しくなるからね」

アリシアは台詞の前半をミサキの方へ、そして後半をメカニックに向けて言った。メカニックは怪訝な顔をしていたがアリシアがドックから出てしまうと互いに顔を見合わせつつ用意された部屋へ戻った。アリシアが手招きするのでミサキはアリシアの後を追いかける。

「いいんですか?」

「いいのいいの、それよりミサキ、ちょっとあたしに付き合いな」

アリシアは早歩きで船内を飛び回る。ミサキも必死についていった。

最終的に辿り着いた場所はミサキもまだ1度も入ったことのないアリシアの私室。アリシアが目で急かすのでミサキはおずおずと中に足を踏み入れた。アリシアがドアの隣のスイッチを押すと不意にお腹が下へ引っ張られる感覚がして地面に足が着いた。

「ここだけ重力制御装置がついてるんだ」

ミサキは近くの椅子に座るとアリシアはポットにお湯を入れ、ティーカップに湯気の立つ紅茶を注いだ。

「無重力だとこういうことはできないからね」

アリシアは2人分のカップをテーブルの上に置き、自らも椅子に腰かけた。

「……美味しい」

カップに口を近づけるとほんのりと香ばしい香りが鼻をくすぐる。味は確かに口に含んだ途端にお茶の風味がいっぱいに広がるのだがそれでいて鼻通りが良く口にも残らない。

今までに数多くの紅茶を飲んできたミサキだったがその中でも5本の指に入るレベルだった。ミサキが思わず笑みを漏らすとアリシアも顔を綻ばせる。

「そうかい、やっと味ってものをわかる奴に出会えたよ。この艦の男どもは味なんてどれも一緒だろうとか抜かしやがって」

「でもアリシアさんにこんな趣味があったなんて意外です」

「意外か趣味の1つや2つ、あったほうが面白いだろ?」

しばらくの間、2人はそんな他愛のない会話をして過ごした。紅茶のこと、家族のこと、恋人のこと……そして話題が故郷に向いた時、アリシアが本題に入った。

「ミサキ、あんたは……帰りたいかい?」

「それは……」

少し前までのミサキなら帰りたい、そう即答しただろう。だがハイドとの一件の後、素直にそう思うことができなくなっていた。戻ったところで自分の居場所は無いかもしれない。そう思わずにはいられなかった。

「……あたしの故郷はコロニーアインスだった」

「アインスって……その……」

「そう。反乱分子一掃作戦で破壊されたコロニーの1つさ。でもどこからそんな反乱分子、なんて話が出たと思う?」

コロニーアインスはその名の通り最初に作られた人類入植を目的とするコロニーだ。当然そんな途方もないものを作るには相応の金と人手が要る。金については合衆政府が存在しなかった当時、各国が投資をしあうことで賄った。だがそこで問題になったのが人員の確保だ。

当時本当に単なる鉄の塊だったコロニーで生活しながら開拓を進めていく。こんな労働とも言えない作業を誰がやりたがるだろうか。

そこで白羽の矢が立ったのは当時内紛によって出た大量の移民、難民だ。各国が持て余していた彼らを半ば強引に宇宙船に詰め込み、コロニーでの強制労働をさせた。無論劣悪な環境の中での長時間にわたる肉体労働、死人は数え切れないほど出たがそこは宇宙。『ゴミ』ならその辺に放っておけば永遠に宇宙空間を漂い続けるか地球に落ちて灰になるかのどちらかだし、『スペア』ならば腐る程いるのだ。

生活環境も何もない彼らの生活用品は当然地球からの支給頼りになる。そこで既に奴隷の主従関係が結ばれた、というわけだ。


そんな数え切れないほどの死体の山の上に完成したコロニーアインス。そこを起点にして地球の長年の夢であった起動エレベーターが完成し、物資と人の便が良くなったところで次々とコロニーが建設されていくことになった。

だがそんなコロニー市民が血肉を削って作り上げたコロニーに対しての地球による圧政だ。不満が噴き出すのは火を見るよりも明らかだった。そこで地球側はコロニーに対して緩和策を取ったか。もちろんそんなことはなく、不穏な動きを見せると即座に銃で撃ったのだ。

そんな中、コロニー市民の血の象徴とも呼べるコロニーアインスで大規模な反乱計画が練られていた。

「……それがどこかからか漏れたんだろうね、ルミナスアートが大挙して押し寄せてきた。でも皮肉なことにその反乱分子は既に各コロニーに散らばっちまった後だったのさ」

アリシアは自虐気味に笑った。対照的にミサキは息を呑むのも忘れて凍りつく。

「じ、じゃあ……」

「ルミナスアートの大軍が惨殺して、破壊したのは戦争とは無縁の、非武装の一般人とその故郷だったのさ」

ミサキがスクールで教わった教科書とは180度違う内容だった。アリシアの話を信じるならばコロニーアインスには反乱を目論む武装集団と、その支援者が9割だった、という教科書の内容はまるっきり嘘ということになる。

「……別にあんたに同情してほしいとかそういうのじゃない。あたしらにはあたしらなりの正義がある、って知ってもらいたかっただけさ」

ミサキはハイドの言葉を思い出した。

『俺はアインスの生まれらしい』

あの時はその言葉に含まれた本当の意味を理解することができなかった。

『らしい』。

ハイドには無いのだ。本当に帰るべき場所が。


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