過去の現在を探して
「買い出しに行ってくるけど何か欲しいものはある?」
「なら私も一緒に……」
ミサキがそう言いかけると決まってコニーは申し訳なさそうな顔をしてこう返す。
「ごめん、でも君のためなんだ」
何か甘いものを買ってくるよ、そう言い残してコニーはジルコニアを後にした。これでもう何回目だろうか。
ミサキはもう何日もの間、詳しくはミサキがヘイゼルの監禁から救出されて以降、今度はジルコニアの中に半ば軟禁の状態だった。ミサキがその理由を尋ねても誰も答えてはくれない。大抵は申し訳なさそうな顔をして『ミサキの為』と口にするだけだ。
欲しいものがあれば可能な限り調達してきてくれるし、ハイドを始めコニーやニーチェ、サイゾウもジルコニアに寝泊まりしてくれているので特段寂しかったり不便に感じたりすることは無いのだが理由くらい説明してくれなければ納得もできない。
「ミサキ、どうかした……」
そこへ運悪くハイドが通りかかった。ハイドは素早く状況を察して声をかけたことを後悔したが既に覚悟を決めたミサキは飛んで火に入った虫を逃すつもりはなかった。
「ハイド、私が何を言いたいか、聞きたいかわかるでしょ?」
「それは……お前のた……」
「そんなの私のためじゃない、ハイド達が本気で私のことを思ってくれてるのはわかるよ。でも知りたいの。それがどんなに辛いことでも」
ミサキは視線を逸らそうとするハイドの目を追いかけ続けた。周囲に味方はおらず、形勢不利と察したハイドはとうとう諦め、ミサキをブリッジまで連れて行った。
「これがお前がここに連れてこられた本当の理由だ」
ハイドは正面モニターにヘイゼルからコピーしてきたデータの全てを表示した。
10年前、終戦時にコロニーは武装解除を命じられ、コロニー連合は実質的に解体された。
その際に連合が保有していた全てのLAや武装兵器、新兵器の設計データなどは合衆政府に接収されたのだがその量は合衆政府が予測していた量の半分以下だった。当然どこかに隠した、ということ可能性を疑いコロニーの隅々まで探し回ったり旧連合幹部を問い詰めたりしたのだがそれに関する情報は何も得られなかった。
それからというもの、旧コロニー連合はどこか秘密の場所に大量の兵器を隠し持ち、再興の時を窺っている、という噂が人々の中で実しやかに囁かれるようになった。
だがその噂はあながち間違ってはおらず、当時コロニー連合の最高幹部の1人出会ったヘイゼル シュタイナーは合衆軍の監査が入る前に保有する兵器の大部分をある場所に隠していた。
そしてこの先50年間の間に確実に再び地球とコロニーの衝突があると踏み、万一自分が死んだ時もその隠し場所がわかるようにと位置データが記されたICチップをある場所に隠したのだ。
「……その場所は、コロニーツヴェルフ議長、ライヘン マルクスの娘、ミサキの……体内」
ミサキは半ば放心状態で全文を読み上げた。1度では内容が頭に入って来ず、何度も復唱してその中身を理解しようとする。
「じゃあ、私はずっとそんなものを抱えて生きてきたって言うの?」
「そう言うことになる」
戦争終結時から10年、当時7歳だったミサキの体内に密かに埋め込まれたICチップは今もミサキの体の中に封印され続けている。
「だが話はこれで終わりじゃない」
モニターの電源を落とし、代わりにハイドが話し始めた。
始めヘイゼルは終戦から50年、と踏んだ休戦期は地球側によるコロニーの再武装化を恐れた過度な干渉政策により予想以上に短く、早々にコロニー連合の成り替わりのコロニー自由軍なる集団が形成され、ヘイゼルはその幹部として祭り上げられてしまった。
そのためヘイゼルは早い段階で封印した兵器の解放に踏み切らなければならなくなったのだ。そこで邪魔になるのがデータのバックアップとも言えるミサキの中のチップである。
このまま野放しにしておけばいずれ合衆軍に気づかれ、先に軍隊を送り込まれかねない。それを危惧したヘイゼルはアリシアにミサキ マルクスの拉致を命じたのだ。平和ボケしたコロニー市民に以前の屈辱を思い出させる、という名目で。
「だがいざお前を連れてきたはいいがここである問題にぶち当たった。10年間、お前の体内にあったICチップはその長い月日と成長によってお前の体……心臓と完全に癒着してしまっていた」
ミサキが衝撃を受ける暇も与えずハイドは淡々と話し続ける。大きな衝撃を与えるよりはその方が精神的なダメージを抑えられる、そう思ったからだ。
心臓に癒着してしまったチップはそれだけを取り外すことなど不可能だ。ならばミサキを殺して取り出すしかない。
今のところはアリシアの脅迫が効いているがヘイゼルがいつ態度を変えるかわからない。だからコロニーゼクスの中で最も安全と思われる場所、ジルコニアの中で軟禁しているのだ。
「そんな……」
ミサキは自分の胸に手を当てた。いつもと変わらない鼓動。だがハイドの話を聞いてからは心なしか鼓動のリズムが不安定な気がした。
「話しちまったんだね」
ハイドとミサキがブリッジの入り口を振り返るとそこにはアリシアが腕を組んで壁にもたれかかっていた。
「すみません。俺の独断です」
「ま、仕方ないさ、遅かれ早かれ通らなきゃならなかった道だ」
「あの、私はこれから……」
こんなことを知ってしまった以上、もう以前の日常には戻れない。胸に戦争の火種を抱えたままコロニーツヴェルフに戻り、カントと笑いあえるだろうか、ミサキにはできない。
「こんな話の直後で悪いが出撃だよ」
「今すぐ、ですか?」
「ああ、ラッセル達が失敗した。どうやらあの白い機体が絡んでいたらしいね」
白い機体、その言葉でハイドの目つきが変わった。未熟な動きながらハイドの戦友を次々と殺し、アリシアの理性まで飛ばしかけた因縁のLA。
大気圏の熱で燃えてしまったという可能性も十分に考えられる。だがハイドはどうもそうは思えなかった。なぜか、と聞かれれば根拠らしい根拠はどこにも無いのだが、敢えて答えるのであればパイロットとしての勘、だろうか。
「詳細を聞いてもよろしいでしょうか」
「任務内容はその白い機体の鹵獲、それが難しければ破壊してもいいとさ」
どうやら上層部もエルシオンの危険性に気づいてきたらしい。たかがLA数機の犠牲、と思っていたところに作戦丸々1つを潰されたのだ。破壊してもいい、という内容が付け足されているところからもそれが窺える。
「コニーを呼び戻しな!ジルコニア、出るよ!」
アリシアはそう唱えて艦長席にどっかと腰を下ろした。




