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Route Of Elsion  作者: 世界史B
修復する綻びた世界の中を
40/53

真夜中に昇る太陽

「エル!まだエネルギーは保つか?」

洋上を旋回して追いかけてくるミサイルを振り切り、カントは叫んだ。

現在エルシオンが装備しているフライトユニットは通常のアルゴン用のものを無理矢理着けているためメーデルリアクターの供給ができない。そのため稼働エネルギーは外付けのエネルギータンクに頼るしかないのだ

。爆弾の輸送機を破壊しさえすればいい、とカントは考えていたが輸送機にもそれなりの防御装備が施されており、苦戦を強いられている。デッドウェイトとなるシールドば捨ててきてしまった上、バルカンでミサイルを撃ち落とせば輸送機を破壊する武装が無くなってしまう。

[残りエネルギーは航行距離計算で1キロ]

「このミサイルを潰せさえすれば……」

敵はミサイルで弾幕を張っていて迂闊に近づくこともできない。と言って悠長なことをしていれば飛空艇は都市部に到着してしまい、そうなってから撃ち落としても意味がない。

カントが焦りを募らせていると前からもミサイルが迫ってきていた。

「くそっ!」

仕方なく前方のミサイルにバルカンを放つ。エルシオンのすぐ前でミサイルは爆発し、その炎の中を突っ切った。

[頭部バルカン残弾ゼロ]

輸送機は更に上空だ。次ミサイルを撃たれればもう身を守る術も無い。

「あそこまで届くか?」

「距離を計算、ビームブレードの射程まで80メートル不足]

「……もしエルシオンを抜いたら?」

[回答不能。詳しい説明を要求します]

「フライトユニットだけ飛ばしたら届くか?」

[……計算中……可能]

「俺に賭けてくれるか?」

[当機はパイロット……カント キサラギの願いの力となることを至上の歓びとします]

「んじゃ、力振り絞れよ!」

[了解。軌道、角度計算……終了]

「届けぇっ!」

スラスターを最大噴射し、ギリギリまで速度を上げた状態でフライトユニットをエルシオンから切り離した。

すると勢いのついたフライトユニットは単体で加速を続け、多少風にあおられながらも真っ直ぐ輸送機に衝突、燃料に引火して爆発を起こした。

その誘爆で積載していた爆弾と輸送機そのものも爆発、小さな太陽と見紛うほど強烈な爆炎と閃光が迸り、エルシオンのモニターも真っ白にホワイトアウトする。

[高度急速落下中。このままだと海面に衝突します]

当然フライトユニットという推進力を失ったエルシオンは真っ逆さまに海に落ちるだけだ。スラスターも使えないのでカントにこれを防ぐ手段は無い。

夜を昼に変えた目の前の太陽に目を細めながらカントは中空に手を伸ばした。何かを掴めた、そんな気がした。



海に沈みかけたエルシオンは近くを通りかかった輸送船に引き揚げられ、そのまま合衆軍のドックに搬送された。

「お前も今まで随分無理させたな、もうすぐフェルト達がきっちり整備してくれるから待ってろよ」

カントは1人、がらんとしたドックでエルシオンを見上げた。

「まったくです。あそこに輸送船が通りかかるのは本当に幸運としか言いようがありません」

カントの後ろで聞き慣れた声が返す。

「だな、もしあのままだったらと思うと鳥肌が立つな、エルシ……」

カントはギョッとして後ろを振り返った。

「どうしましたか?」

カントの左斜め後ろには見た目に13歳ほどの少女が立っていた。その声はまるで……

「エル……シオン?」

そう。いつもコックピットの中でカントに語りかけるあの声とまるきり同じなのだ。

「肯定。私はEL-00の自律学習アンドロイド型戦術アシストオペレーションシステム、ELUSIONです。この姿で会うのは初めてですね、パイロット」

「戦術……?じゃあお前はずっとあの機体の中にいたって言うのか?」

「肯定。私はパイロットシートの後部に接続されていました」

「どうして……」

「あっちゃー、こりゃ随分派手に壊してくれたねー」

もっと早く出てきてくれなかったのか、と聞こうとすると隣でフェルトの声が聞こえた。

「開口1番それかよ」

「もちろんカントにも。腕に額、まだ血が出てるよ。ところでその子は?」

「エルシオンらしい」

「……うーん、よくわからないけどせめて何か着せてあげないとかわいそうだよ?」

フェルトに言われて初めてカントは少女が身に何も纏っていないことに気がついた。廊下の向こうからは駆け足でこちらにやってくる音が聞こえる。

「な、何か……」

辺りを見回すが身に纏うことができるようなものはどこにも無い。

「カント!……?」

連れ立ってドックに入ってきたエイラ、ノイン、ミライの顔が引き攣る。

二進も三進もいかなくなったカントは果てに腕に巻かれていた包帯を少女に巻きつけていたのだ。タイミング悪くその瞬間を見られてしまった。

そもそもを考えればカントの後ろに立っている全裸の少女を見てもノーリアクションのフェルトの方が異常だったのだが再開1番これというのは何とも気まずい。

「お前その女の子は……」

「まず言っておくがこいつとは俺も初対面だからな」

「そんなはずはありません。私はパイロットとずっと一緒でした」

最悪のタイミングで最悪の一言をエルシオンは投下した。エイラ達の顔が凍りついた。カントは頭を抱えた。誰か事態を説明してくれ、と。



「……というわけで、俺は太平洋上で輸送船に回収されてここにいます」

エルシオンがソディアのドックに格納されるまでの間、カントは宇宙でソディアと別れてからの一部始終を話した。途中一同は頷いたり喉を鳴らしながら聞いていたか最後にはやはりこの質問に行き当たる。

「それはわかったんだが……こいつは一体何なんだ」

ジードはぶかぶかの服を着た少女に目をやった。ドックでの一悶着の後、大人の対応で素早くミライが自分の替えの服を着せたのだ。当然大人のサイズを着るわけだからぶかぶかになってしまう。

「私はエルシオンの自律学習アンドロイド型戦術アシストオペレーションシステム、ELUSIONです」

「その戦術アシストオペレーションシステムがわからん」

「それについては私が調べておきまーす」

フェルトの目は何故か輝いていた。初めてカントにエルシオンの武装を見せた時と同様。

「ならそれは任せた。後はエルシオンの修復はどれくらいかかる?」

「残念ですが損傷が激し過ぎてここでの完全な修復は不可能です。一応の動作なできるようにするのに最低で5日、というところです」

今度はノインが小脇に挟んでいたクリップボードをめくりながら言った。5日、という単語が出てきた時にジードは少し眉をひそめたが特に何か言うでもなく、わかった、とだけ言ってカント以外の者を退席させた。

「よく戻ってきてくれた。そして、何もできなくて申し訳ない」

ジードは艦長席から降り、深々と頭を下げた。

「やめてくださいよ艦長。地球での日々は俺にとってもかけがえのないものになりました。自分の足で進み、自分の目で世界を見ることができたことを感謝しているくらいです」

「そう言ってくれると助かる。俺も艦長として嬉しい一方、叔父としてはホッとしている部分もあるからな」

カントが理由を尋ねるとジードはお前の母親に何をされるかわからん、と言って苦笑した。

「まあ、エルシオンとソディアの修復が終わるまでどっちみち俺たちは動けん。今のうちにゆっくり休んでおけ」


カントがブリッジを後にすると廊下ではフェルト以外が勢ぞろいして待っていた。

「何か言われたのか?」

「何も?ただゆっくり休め、ってさ」

「そう、なら1度医務室に来なさい」

有無を言わせずミライはカントを引っ張って医務室に引きずり込まれた。

「痛い痛い、痛いですって」

「ちょっと額を見せて」

ミライはカントの頭を掴んで目の前に引き寄せた。カントの目にはミライの胸がどアップで飛び込んでくる。

「大分深く切れてるわね……血は止まってるけど一応……どこ見てるの?」

「しょうがないでしょう」

「まあ、男の子だもんね」

「それとはまた違うんですけどね」

ミライは額にガーゼを当て、包帯でぐるぐる巻きにした。腕に包帯をつけるよりも頭に少し巻いているだけでより重篤なケガに見えるから不思議だ。

「じゃあ俺はこれで……」

「待ちなさい」

ミライはカントの右腕にくっついているギプスをぐいと掴んだ。

「これ邪魔でしょう、ドックで包帯も外してたし、もう取っても大丈夫だと思うから」

実際エルシオンの操縦の時も日常生活でもかなり不便ではあったので願ったりかなったりだった。だがミルには全治1カ月と言われた為少し不安ではあったが。

ミライはカッターのような物をギプスに押し当て、真っ直ぐ縦に切れ目を入れていく。

「そういえば……」

不意にミライは顔を上げ、カントの顔を覗き込んだ。

「手元を見てくださいよ手元を!」

ギプスを容易く切るような代物で自分の腕まで切り開かれてはたまらないとカントは慌てて抗議する。ミライは満足そうにふふ、と笑った。

「大丈夫よ、柔らかいものは切れないようにできてるから」

数分後、カントの腕は久々に白いギプスから解放された。右手に受ける風が心地よくてぐるぐると腕を回してみる。若干薬の匂いがした。

「あ、でも激しい運動はしないでね、またイっちゃうといけないから」

ミライのその一言でカントの額から血の気が引き、右腕を抱いた。

「あ、そういえばこの空港にコロニーツヴァイの飛空艇が来てませんか?」

「うーん、詳しいことは事務局に聞いてみないとわからないけど……今日はもう疲れているだろうから休んだら?」

ミライはそう言いながら横の壁の時計に目をやった。つられてカントも同じ方を見るともう既に日付が変わって数分経っている。カントがクタクタに疲れきっていたこともあり、今夜は休んでまた明日改めて向かうことにした。


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