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Route Of Elsion  作者: 世界史B
修復する綻びた世界の中を
35/53

姿を隠す着ぐるみと心を開くコスチューム

カルナはクリームまみれの2人を引き連れて街を奥へ奥へと進み、やたらとピンク色のネオンがうるさい通りで足を止めた。

「おい、正気か?」

「正気も正気、これはこういう時の為にあるもんでしょ?」

「違うと思いますけど」

カルナは堂々と手近な建物に入り、何やらタッチパネルを弄り、カント達を手招きした。

「じゃ、私は急いで着替えを調達してくるから、部屋は206ね」

そう言い残してカルナはさっさとどこかへ行ってしまった。

「はあ、仕方がありません、ありがたくシャワーを借りるとしましょう」

2人はエレベーターを登り、手前から6番目の部屋の鍵を開けた。

部屋の中にはゆうに4人は寝転べるのではないかという巨大なベッドが1つ、そしてドアから向かって左側に大きなガラス張りの窓があり、その奥に無駄に広いシャワールームがあった。

ただ問題が1つ、シャワールームのカーテンは部屋側、つまりシャワールームから触れないようになっており、部屋側から開けようと思えば簡単に覗く、と言うより見ることができる。

「お先にどうぞ」

「少しでも覗いたら目を潰します」

ミルは勢いよくカーテンを閉め、カントを睨みつけた。

「ハハ……」

わざとそういう作りになっているのかシャワールームの音が外から丸聞こえだった。生々しい水音を聞きながらカントはベッドに倒れこむ。そしてふとナタリスのことを考えた。今頃レイと何をしているのだろうか、レイと2人きりでどぎまぎしているナタリスを想像してカントは笑った。


ミルはホテルに備え付けてあったらしいバスローブを着て出てきた。それと入れ違いにカントもクリームまみれの服を脱ぎ、シャワーを浴びる。身体中のべたべたを洗い落とし、さっぱりしてシャワールームから出るとミルはぶすっとした顔でベッドに座っていた。

「全くプライバシーの欠片もありませんね」

「まあそういう施設だからな」

カントにしてみればたかがシャワーの音ごとき、という感じだがミルにしてみれば大きな問題だったようだ。

そこへちょうど部屋のドアがノックされた。カルナが着替えを持ってきた合図だ。

不機嫌なミルに近寄り難くカントはこれ幸いとドアを開いた。だがカントがいくら廊下を見渡してもカルナの姿は見えない。仕方がなく廊下に置き去りにされていた服を部屋に入れようと手に取ったカントは頭を抱えたくなった。

カントは頭を抑えて頭痛に耐えながら2着の服を部屋の中に引っ張り込んだ。そして万一の為の保険をかけておく。

「いいかミル、これから何が起きてもその事象に関して俺は一切無関係だということを明言しておくぞ」

「どうしたんですか突然、早く替えの服を渡してください」

カントは恐る恐るミルの手に服を手渡した。


かくしておよそ5分後、ホテルから有名なネズミのマスコットの着ぐるみとバニーガールが連れだって出てきた。

「ほ……本当にこの格好で外に出るのですか?」

手にうさぎ耳のカチューシャを握りしめ、網タイツの脚をもじもじさせながらバニーガールのミルはよたよたと歩くネズミのマスコットを追いかける。着ぐるみの中にいるのはもちろんカントだ。

「とにかく一旦飛空艇に戻ろう。カルナの奴、とんでもないものをよこしやがった」

そう。カルナが着替えと称して置き去っていったのはバニーガールのコスプレセットと着ぐるみ一式。まさかバスローブのまま出るわけにもいかず2人はこのコスチュームに身を包み往来に出てきたわけだ。

有名なネズミのマスコットの着ぐるみとバニーガールという世にも奇妙な組み合わせは派手さで溢れかえっているラスベガスでも一層興味を引くものだったらしい。道行く人々は2人の姿を見ると必ず足を止め、写真を撮って行く。

初めは恥ずかしそうにしていたミルだったがそれが10分も続くと慣れたというか諦めたようでかえって堂々としだした。一方カントの方は頭まで着ぐるみに包まれているお陰で恥ずかしさこそミルよりマシなものの着ぐるみの暑さに苦しめられていた。いくら夜といえど夏の真っ只中だ。着ぐるみの中は蒸し暑いを通り越して蒸し風呂の様相を呈しており、空港までの道のりの半分もいかないうちにへばりきってしまって休憩を訴えた。

「……」

「いやそんな置いて行きます、みたいな顔しないでくれよ、本気で死にそうなんだって」

ミルは仕方がありませんね、と近くのベンチに腰を下ろした。カントもその隣に倒れるように座り、着ぐるみの頭を取る。それだけで風が顔に当たって心地が良かった。

「頭を取った着ぐるみは見ていてなんとも間抜けですね」

「そうかもな」

ミルはぱたぱたと手で顔を扇ぐカントを見つめた。

実はミルがカントを連れ出した理由はナタリスとレイ2人だけの時間を作る為だけではない。もう1つカントに聞いておかなければならないことがあったのだ。それはカントが味方なのか否か。カントとラッセルの会話を聞いてしまってからずっとミルは考え続けた。だがいくら考えても答えは出なかった。だから一か八か直接聞いてみることにしたのだ。

だがなかなか切り出せずとうとうこんな事態になってしまった。このままでは本当に機会を失ってしまう、と意を決してミルは口を開いた。

「あのカント……」

「カント キサラギ様、ですか?」

突然カントの前に人影が現れた。カントが顔を上げるとそこには眼鏡をかけ、この街に似合わず黒スーツに身を包んだキャリアウーマン風の女性が立っていた。

「はい、そうですが何か?」

カントは見覚えがない顔だったので少し警戒しつつ返した。すると女性もそれを察したのか表情を崩して笑みを見せ、一枚の名刺を手渡した。

「ゼネラル……エレクトロニクス?」

「はい。我が社の代表がお話をしたいと」

女性はそう言いながら近くのカフェに目をやった。代表と言うのだからおそらく呼び主はケインだろう。話というのはやはりエルシオンがらみのことだろうか。ともかくカントはそのカフェに向かうべく立ち上がった。するとその袖を小さくミルが掴む。

「大丈夫なんですか?」

と小声で尋ねる。本当に信用してもいいのか、という意味だろうがもし相手が自由軍の回し者だとしたらここまで堂々とゼネラルエレクトロニクスの名前は使わないだろうし、何よりこの女性はカントが自己紹介すると前にカントの名前を知っていた。つまり後ろにはカントの知り合いがいるということだ。

カントは大丈夫だ、とだけ返して女性の後について行った。



カントの予想は半分当たっていた。案内されて辿り着いた先にケインの姿は無く、代わりにエルハーグよりも一回り横幅の大きいスーツ姿の男性が座っていた。

「君がカント キサラギ君だね?」

「あなたは?」

カントは席に着く前に尋ねた。そして横目でちらりと出口までの距離を確認する。

「君、彼に紹介しなかったのか?」

「いえ、したはずですが……」

「ゼネラルエレクトロニクスの代表はケイン コフィスじゃないのか?」

「カントが少し後ずさりしながら聞くと恰幅のいい男性はそういうことか、と笑った。そして何か頼むかね、とカントにメニュー表を渡す。カントの背後にいた眼鏡の女性はいつの間にかいなくなっていた。

「そうか、君はケインと面識があるんだったな」

男性は近くを通ったウェイトレスにジャンボパフェを注文した。男性に遠慮はいらない、と言われだがカントはコーヒーを注文した。まだ完全に信用できるとわかったわけではない。

「そんなに警戒しなくていいよ、ケインが代表というのも私が代表というのも嘘じゃないからね」

男性はカントに名刺を渡した。確かにそこには『ゼネラルエレクトロニクス地球部代表 ニッツ ルトル』と書かれていた。

「我がゼネラルエレクトロニクスは大きく分けて2つの部に分かれている。地球部と宇宙部にね。どちらも立ち位置としては副社長みたいなものだが隠居している社長の代わりに代表をやっている、というわけだ」

カントは改めて目の前のニッツを見た。年齢はケインと同じか少し若いくらいだろうか、だが体型は細いが筋肉質なケインとは真反対で脂肪が目立つ。

「ところでエルシオンの性能はどうだい?凄いだろう」

「はい。あの機体にはずいぶん助けられました」

「そうだろうそうだろう、あの機体は我が社の技術の粋を結集した芸術だ。そんじょそこらのルミナスアートとは次元が違う」

ルミナスアートの話をするニッツは新しいおもちゃを買ってもらった子供のように目を輝かせていた。ここもケインと真逆だ、とカントは思った。



眼鏡の女性の後に続いてカフェに入ったカントはどうやら奥の席に向かったようでミルは外側から様子を窺うことはできなかった。

「結局聞けずじまいでしたか……」

深く体をベンチに預ける。もうバニーの衣装にも慣れてカントやナタリスの見ていないところだったらカチューシャをつけてもいい、くらいには思っていた。

と、そこへ見慣れた人影が遠くに見え、ミルは慌てて近くの建物の影に身を隠す。だが本来その隣に居るべき姿がどこにも見当たらず、ミルは意を決して声をかけた。

「お嬢様、どうかされたのですか」

懸命に平常を装っていたが肩を落として落ち込んで居るのが丸わかりだった。

「ミル……こそどうしたのよその格好」

「これは……まあ置いておいて、レイはどこへ行ったのですか」

「レイ?ああ、今ちょっとお手洗いに行ってて……」

言いながらナタリスはミルから目線を外す。嘘をついている時のナタリスの癖だ。

「そう、ですか……」

「ミルの方こそカントはどうしたの?」

「わかりません。ゼネラルエレクトロニクスの代表と話があると言って行ってしまいました」

「そう……」

どんな理由があるにしろナタリスをほっぽり出してどこかへ行くレイをミルは許せなかった。護衛がどうとかではなく1人の女として。

「では私達もパーっと遊びましょうか」

「カントはいいの?」

「あの男のことなら心配はいりません。いくら放置しても大丈夫です」

これはミルの嘘だ。本当は1人で見知らぬ者の元へ行ったカントのことも心配だ。だがそれ以上に今のナタリスには誰かついている必要があると思ったのだ。

「でも……」

ナタリスは何か言おうとして口を噤んだ。そしてわざと明るい声を出して言った。

「じゃあカジノに行ってみない?私一度行ってみたかったの」


ナタリスとミルは数多の建物の中でも一際目立つネオンサインと巨大な池に立ち昇る噴水に囲まれた建物へ入った。その際にそれぞれの個人端末を認証させる。治安確保のためにカジノ等の娯楽施設にはこのような個人認証が必要なのだ。

入り口の案内板を見る限りこの建物には様々な娯楽施設が付属していた。カジノはもちろんビリヤードやプールもあるようだ。

2人はまず1番大きな区画を占めているカジノルームへ行き、ポーカー、ブラックジャック、ルーレット、スロットなどの有名なものからバター、レールダイスといった聞いたこともないようなゲームまでを一通り遊んだ。最初に交換したチップも尽きたところでビリヤード場へ行って休憩がてら2人でビリヤードをしようという話になったその時、目の前で銃声が鳴った。



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