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Route Of Elsion  作者: 世界史B
修復する綻びた世界の中を
32/53

溢れる雫、滴る雫、流れる雫

「くっそ……入られたのは何人なんだ?」

レイはたまたま機体の調整で起きており、コックピットを占拠しようとした敵の1人と鉢合わせ、何とか倒して銃を奪い取った。恐らくもう皆んな眠っている時間だがレイが先程撃たれた銃声で起きたはずだ。これで敵にもこちらが侵入に気づいたことが知られてしまったが眠りこけたまま殺されるよりはマシだろうと考えたのだ。

「ま、まず狙われるのは議長殿だよなぁ……」

レイは1秒考え、真っ直ぐオズマの部屋へ向かうことにした。レイの知る限りオズマはまだ起きて仕事をしていたはずだ。アルゴンの調整が終わったら一緒にビールでも飲もうと思っていた計画がこれでパァになってしまった。

足音を殺して一歩一歩確実に、されど素早く移動して書斎へ向かう。すると曲がり角の向こうから何者かが歩いて来る音が聞こえた。

レイは息を殺して銃を握る手に力を入れた。

「声を出すな」

「ひっ」

できる限りドスの効かせた声で凄み、銃口を突きつけるも相手から帰って来たのは怯えた表情を露わにし、喉の奥から漏らした小さな叫びだった。

「ナタリスか……無事だったか」

「レイ……」

「あ、ああこれか、スマンスマン」

レイはナタリスの視線がじっと目の前の銃口注がれているのに気づいて慌てて体の後ろに隠す。すると緊張の糸が一気に切れたのかナタリスは目に涙を溜め、無言でレイの胸に飛び込んだ。

レイは優しく抱き止め、艶やかな金髪を優しく撫でる。よほど怖かったのだろう。ナタリスはしばらくの間レイの腕の中で体を震わせて泣いていた。


「どうして銃声がしたのに部屋から出たんだ?ミルはどうした?一緒じゃないのか?」

ナタリスが落ち着くのを待ってレイは尋ねた。

「その……お、お花を摘みに……ミルは今日の戦いからずっと見てない」

飛空艇の中で花摘みというのも変だがレイにそこでナタリスをいじめて喜ぶ趣味は無いので素直に聞き流した。

「ミルは何をやってるんだ、こんな時のためのメイドだろう」

レイは歯噛みした。だがこればかりはミルを問いたださねばわからない。そして次なる問題に頭を切り替えた。

すなわちこれからナタリスをどうするか、だ。レイはこれから対人戦、つまり銃の撃ち合いを避けられない状況にある。そこにナタリスを連れて行くのは危険だし正直なところ邪魔だった。

だがミルも居ない現状、ナタリスを1人で置いて行くのはさらに危険だ。2秒考え、レイは決断した。

「いいか?俺から絶対に離れるな」

ナタリスはこくんと頷く。ナタリスに足音を立てないように言い含め、再びオズマの書斎へ進撃を開始した。



「動くな」

書斎の扉がゆっくりと開き、外から3人の武装した集団が入って来た。

「銃声は聞こえたはずだ、何故逃げなかった」

落ち着いた、だが不思議と迫力のあるリーダー風の男が口を開いた。

「この太平洋の只中のどこに逃げ場があると?」

オズマは嘲笑気味に言った。端末を操作する手を止めてはいない。部下の1人がいきり立つがリーダーはそれを制止した。リーダーは少しも怒ってはいないようだった。

「それで、何の用だ?私はあまり暇では無いんだが」

オズマが顔も上げずに面倒臭そうに答えるのでついに部下の1人がリーダーの制止を振り切ってオズマの机を思い切り叩いた。

「何の用だと?ふざけるな!この裏切り者め!」

「私が裏切り者、か。その心は?」

「貴様はコロニーを束ねる立場にある者だろう、それなのになぜ地球に媚びへつらう?なぜ戦おうとしない?」

部下の男は喋るごとにみるみる顔が紅潮し、拳を握る手にも血管が浮き出てきた。今にもオズマに殴りかかりそうだ。

「ほう?では再びあの戦争を始めようというのか?かつての人口の五分の二という数字が一体どれほどの数字か、まさか理解できないというのか?」

オズマはジロリ、と男を見上げたその目には不思議な力が宿っていた。

「だが……我々はコロニーの為に……」

「コロニーの為?笑わせるな、ツヴェルフの議長の娘の拉致、地球の各都市の襲撃、そしてあたかもコロニーの代弁と言わんばかりの演説……お前達の行動によってどれだけの害をコロニーが被るか、考えたことは無いのか?」

「黙れ!ならばコロニーは今まで同様地球の搾取対象として生活しなければならないのか!」

「その為の地球訪問だった!なのにお前達のせいで戦争を回避するので精一杯だ!」

ついにオズマも声を荒げた。最後の一言の言い終わりには勢いよく立ち上がり、目の前の部下ではなくリーダーを睨みつけた。

「……俺達に、それを考える必要は……無い」

リーダーは表情一つ変えず、オズマの額を狙って銃を向けた。



カント、そしてミルはナタリスを探して廊下を歩いていた。とは言ってもどこか当てがあるわけでは無い。貨物室を目指して進んでいると足元に敵の死体が1つ転がっていた。武器を持っていないところから誰かに奪われたのだろう。

「これは……レイ テノールでしょうか」

「とするとここから議長のとこに向かえばレイと合流できるかもしれないな」

レイと合流できれば大変心強い味方になる。それに状況からして武器も持っているようだ。



「レイ!」

後ろから小声で呼び止められ、レイは小さく飛び上がった。ナタリスはその聞き覚えの声に後ろを振り返った。

「ミル!それにカントも……」

ナタリスは顔を少し赤くしてレイの服の裾から手を離した。

「お嬢様!よくご無事で……」

ミルは指先で瞼を拭った。

「レイ、奴らの狙いはオズマだ」

「やっぱりか……よし、急ごう」

レイを先頭にして4人は書斎へ急いだ。



オズマは両手を上げて立ち上がった。

「そのまま動くな。お前も苦しんで死にたくはないだろう」

オズマは3人に背を向けた。そしてそのまま僅かに口角を吊り上げる。

「確かにそれは遠慮願いたいな。だが……黙って殺されるのもまた納得のいく結末とも言い難い」

オズマは事務机の下に身を隠すより一瞬早くリーダーが引き金を引いた。幸い急所には当たらなかったものの弾丸は肩口に命中、オズマは焼けるような痛みを抑え込み、素早く引き出しを開けて拳銃を取り出した。



「銃声!」

鳴り響く一発の破裂音にレイが真っ先に反応した。

「書斎の方です。急ぎましょう」

書斎の方へ近づく程に連続して響く銃声は大きくなっていき、それと共にナタリスの不安も膨れていった。

「銃声が鳴っている間は大丈夫だ。少なくとも議長は生きてる」

見かねたレイが気休めを口にする。ミルもそれに同調した。

「そうです、あの議長がそう簡単に死ぬはずがありません」


程なくして4人は書斎の前まで辿り着いた。重武装をした敵が3人、書斎の扉を盾にするようにしてオズマと撃ち合っている。オズマも拳銃だけでよくもったものだ。対してこちらのライフルはレイの1丁のみ、そしてミルとオズマの拳銃が2丁、人数ではこちらが勝っているがナタリスやカントは元より、拳銃ではライフルに対抗するには心許ない。

「くそ、せめて1人減らせれば……」

レイが呻いた。この状況で1人を殺せば敵は2人がかりでオズマを殺しにかかるだろう。だがカントはレイの声よりも真ん中に立っているリーダーのような男が気になった。

ナタリスの部屋での声にしろ、どこかで知っているような気がするのだ。

「レイ、俺が1人引きつける」

「……勝算は?」

「俺の予想が正しければ……五分はある」

カントはポケットに入っていた白いキングを握りしめ、敵にめがけて投げつけた。

「こっちに来いよ!」

そして喉の限りに叫び、横の通路へ飛び込んだ。リーダー風の男は部下に短く何事か離した後、カントを追いかけて通路へ入っていった。

「よし、今だ」

レイは銃を構えて敵へ突進した。素早く反応した敵の1人が何か球体状の物を取り出し、レイに向かって投げつけた。

「正気か!」

間一髪レイがカントとリーダー風の男が飛び込んだ通路へ隠れるのと同時に球体が爆発した。だがその威力はレイの想像より小さく、その代わり大量の煙が廊下中に充満した。

「くそ……議長!大丈夫ですか?」

濃煙の中でレイは力の限り叫ぶ。その際少し煙が喉に入ってむせ込んだ。下を向いて咳き込んでいると足元に何かの球体が転がっているのが見えた。

「ハハ……」

後少し気づくのが早ければ、と後悔したがもう遅い。鋭い閃光と強烈な熱波を撒き散らして卵型の物体が弾け飛んだ。

「ミル!議長の元に行ってくれ!敵は俺が何とかする!」

爆音の中にレイの怒鳴り声が聞こえた。ナタリスにその場にいるよう言い、ミルはもうもうと立ち込める煙を真っ直ぐ突っ切った。途中、銃声が何発も響いたがそれにも構わずミルは書斎の中に滑り込んだ。

「議長……」

駆け寄ったミルの手に赤く、どろりとした液体が触れた。

「議長!オズマ議長!返事をしてください!」

銃創は全部で3つ、肩口と右の大腿部、そして腹部に1つずつだ。肩口と腹部の弾は貫通しているようだが大腿部は貫通していない。できるだけ早く取り出さないと危険だがミルも銃創の処置なと未経験でどうしたらいいのかもわからなかった。

ひとまず自身のメイド服を破いて包帯を作り、傷口にきつく巻きつける。これで少なくとも止血にはなるはずである。と、そこで断続的に鳴っていた銃声が止み、ナタリスと共にレイが駆け込んできた。2人は血まみれのオズマを見るなり駆け寄り、ミルに容体を聞いた。

「大腿部の銃創は弾が抜けていません。一刻も早く処置をしないといけないのですが……」

「ミルは……できないの?」

ナタリスは涙でぐしょぐしょになった顔をミルに向ける。だがミルには首を横に振ることしかできなかった。

「ナタリス、どちらにしても相応の設備道具が必要だ。ここではできない」

「そんな……」

「ひとまずミル、カントが心配だ。そっちに行ってくれ、俺はパイロットに最寄りの街に向かうよう伝えてくる」


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