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Route Of Elsion  作者: 世界史B
崩れかけた世界の中に
3/53

一旦止んだ砲撃と楽観的な推測は

『いいか、敵は恐らく高出力のビームキャノンを持っている。この艦の対物理シールドをフル稼働させて耐えるがどれくらい保つかわからん、敵のビームキャノンを破壊することを第一目標とする』

「了解」

エルシオンがカタパルトから射出され、続けてエイラのアルゴンも出撃する。アルゴンは前回同様ソディアの上に膝をついて姿勢を安定させた。

『敵機は5機、内2機が大型のビームキャノンを所持している模様。敵機との距離1500です』

まだビームランチャーの射程からは離れている。もう少し近づくのを待つしかないか、とカントが思っていると前方から巨大な黄色いビームがソディアに発射された。しかしソディアは対物理シールドを展開、何とか持ちこたえた。

【推測。敵のビームキャノンの射程は現在の当機の武装の射程を大きく上回るようです。接近しますか?】

「いや、多分向こうから近づいてきてくれるんじゃないか?あの距離からは有効打を与えられないって向こうもわかっただろうし」

しかしこちら側もそうゆったり構えている場合ではないらしい。ジードからの切羽詰まった通信がカントに届いた。

『カント!前回の被弾のせいかソディアのシールドジェネレータの調子が悪い!これをあと何発も食らったら保たない!接近して迅速に仕留めろ!』

「マジか……」

思わずカントの口からそんなため息が漏れた。今のカントに敵を迅速に仕留めろなんて無茶な命令だということはジードにもわかっているだろう。しかしそう命令せざるをえない焦りがジードの声には見え隠れしていた。

「くそっ!やりゃいいんだろ、やりゃ!」

エルシオンのスラスターを目一杯吹かせて一気に敵機との距離を詰める。そしてロックオン、照準の円の中心に敵を入れ、ランチャーを放った。それは相手のコクピットを貫くコースだったがそれゆえにシールドに阻まれ、ビームは無力化された。すると1機がエルシオンの方に突出してきた。

「1人で十分だってのか?上等だ!」

互いに一定距離を保ったまま円を描くように移動しつつランチャーを撃つ。この距離まで接近すればカントの腕でも敵に当たるものの、それは全てシールドに吸い込まれてしまう。

また、カントが射撃に集中している分、エルシオンがシールドで敵のビームから守る。これで何とか互角なのだが敵は他に4機もいるのだ。

[警告。機体がソディアから離れています]

そうエルシオンが警告した時にはもう遅かった。敵の高出力ビームがソディアの右舷エンジンに被弾、大爆発を起こした。

幸いジードの咄嗟の判断でエンジンを切り離していたため、艦そのもののダメージは最小に抑えられたものの、これによってソディアは推進力の50パーセントを失い、さらにエネルギーを大量に要求するシールドジェネレータも使えなくなった。

『カント!これ以上は保たない!早急に戻れ!』

そんな通信が繰り返し響く。しかしカントだって戻りたいのは山々なのだがこの1機で手一杯なのだ。

「この!こうなりゃ一か八か、エルシオン!まずはキャノンを仕留める!方向を教えてくれ!

[了解。5時の方向、距離700に1、9時の方向、距離570に1です]

「9時の奴を叩く!最大加速、できるか?」

[警告。敵の集中放火を浴びる危険があります]

「そんなこと言ってる場合か!」

カントはエルシオンを反転させ、ペダルを思い切り踏み込んだ。モニターに映る虚空が後ろへと流れ、後ろからは敵のビームが次々と放たれる。それをデタラメにサイドスラスターを吹かせて回避し、目の前の機体が持っているキャノンに狙いを定める。

「当たれぇぇぇ!」

エルシオンから放たれた黄色いビームは見事敵のビームキャノンに命中し、爆発を起こす。すんでのところで敵はキャノンを手放したようだが逃げるにはもう遅すぎた。エルシオンの速度そのままに両脚で敵を蹴りつける。ヘリアムの初速度を大きく超える速度を押し付けられ、身動きが取れなくなったその腹部にランチャーを撃ち込み、機体を蹴って慣性を逃す。

「次は!」

カントが次のキャノン持ちを探そうとモニターを見回した時にはもう手遅れだった。

既にキャノンは発射され、真っ直ぐにソディアのブリッジを狙っている。シールドも使えない状態ではいくら戦艦といえど高出力ビームの直撃を受けきるのは不可能に近い。ブリッジの人員とカントが諦めかけたその時、

『さ、せるかぁぁ!』

左腕も右脚も無いアルゴンが無謀にもソディアの盾となったのだ。LA用のシールドであの高出力ビームを受ければ10秒と保たない。たちまちシールドは融解し、機体もろとも焼き尽くされてしまうだろう。

「エ……イラ……」

つい先ほどソディアを守る自分を守ると言ってくれた少女が今身を呈してそれをやり抜こうとしている。

カントはソディアの為に戦っているわけではない。ソディアに居ればミサキを救う手がかりが掴める、そう思って乗っているだけだったのだ。それが恥ずかしくなった。自分はどこまでも我儘で、身勝手だった。それを思い知らされた。

「エルシオン、このシールドは何秒保つ?」

そう言いながらエルシオンをもう加速させていた。

[回答。およそ10秒。警告。当機の第一優先目標は当機の破壊の阻止です。それを侵す危険のある命令には従いかねます]

エルシオンにはカントが何をしようとしているのかわかったようだ。

「うるさい!10秒以内に何とかすればいいんだろ!」

エルシオンは更に加速し、盾を構えてエイラのアルゴンとビームキャノンの間に割り込んだ。

『カント!止めろ、死ぬぞ!』

そんなエイラの声もカントの耳には届いかない。盾でビームを受けた状態で2度目の最大加速。スラスターがオーバーヒート寸前だとアラートが鳴った。しかしあと少し、

【シールド限界値を突破、融解します】

辛くもエルシオンの声とともにビームの照射は止まった。敵機との距離は100もない。使い物にならないシールドを投げ捨て、両腕でランチャーを構える。こうすれば反動が減り、幾らか当てやすくなるのだ。

残る敵は4機。まずキャノン持ちを破壊、次のビームはシールドに弾かれたものの、敵の集団の真ん中にいるため敵はビームが使えない。同士討ちの危険があるからだ。敵はランチャーをブレードに持ち替え、数的優位を利用してエルシオンを取り囲んでいる。

[警告。ビームランチャーの残弾1]

カントは舌打ちして1機に体当たり。敵がエルシオンの背部にブレードを突き刺す前に横からランチャーを撃ってコクピットを破壊。背後から斬りかかる2機の盾にした。仲間の機体を斬ることを一瞬躊躇っている隙に両手でブレードを持ち、同時にコクピットを突き刺す。

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

手が震えている。思えばビームに突っ込んだ辺りからカントは息をするのも忘れていた。ただただ敵を倒す事しか頭になかった。

ソディアに着艦直後、カントはジードにブリッジまで呼び出された。エイラと別れてブリッジの扉を開けると中からいきなりエルハーグの怒鳴り声が聞こえてきた。

「もうたくさんだ!何ださっきの戦いは!一歩間違っていたらエルシオンが破壊されるところでだったんだぞ!これ以上この船にエルシオンを置いておくことはできん!」

どうやらジードとエルハーグが言い争いをしているようだ。言い争いというよりはエルハーグが一方的にまくし立てているだけのようだったが。

「ですがね、カントは訓練すらまともに受けたことがないんですよ?敵を撃退できただけでも十分に褒めるに値する働きだったでしょう」

「黙れ!こんな船に輸送を依頼した私が馬鹿だった、これからドライの第2本社に向かってもらう!これは命令だ!」

そう言い捨てるとエルハーグはドアの脇で突っ立っているカントには目もくれず肩をいからせてブリッジから出て行った。ジードは疲れたため息を吐いて艦長席に体を預けた。

「それで、どうするんです?」

ミライも相変わらずのニコニコ顔だがそれもどこか影が見えた。

「行くしかないだろう。一応俺たちはあの人に雇われている体だからな、それに艦もこの状態じゃこれ以上追いかけっこを続けるのは無理だ」

ジードはカントに体を向けた。

「と、いうわけだ。残念ながら俺たちはミサキ マルクスの捜索をこれにて断念する。しかしお前が降りるのはエルハーグが許さんだろう。納得はいかないと思うが分かってくれ」

「……分かりました。迷惑をかけます」

するとジードも少し口角を上げ、乾いた笑いを漏らした。

「ハハ、それが艦長の仕事だからな。俺の方こそすまない。だがお前にエルシオンに乗って戦ってもらうしかあの時は選択肢がなかったんだ」

「まあいいです、俺も今こうやって生きてますし」



「そうか……打ち切りか……」

カントはエイラにブリッジでの出来事を説明した。

「これはあくまで私の推測だが……恐らくこの数日で自由軍がマルクスをどうこうするとは考えにくい」

「何でそんなことが言い切れるんだよ」

「自由軍は元々コロニー独立軍の残党だ。だから基本的にはコロニー側の味方のはずだ。それにあの時自由軍の演説で何て言ったか覚えているか?」

「えーっと、『今一度考え直させる為に……』だっけ」

エイラは頷いた。そこでカントも気づいた。ミサキはあくまで人質なのだ。だから殺してしまっては意味が無い。

「まあ私の楽観的な推測なんだがな」

エイラは苦笑しているがそんな気休めでもカントにとっては少し重荷が減った気分だった。


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