表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Route Of Elsion  作者: 世界史B
忘れられた爪痕の世界の中で
11/53

いつもとは違う風景

[大気圏突入成功。機体異常無し]

再びエルシオンの全天モニターに景色が表示された。なぜ今まで真っ暗だったかというとセンサー類の故障を防ぐためスイッチを切っていたからだ。一面の青い空、白い雲。カントが幼い頃見たものと何も変わらない、地球の姿があった。

「……何だ……?」

しかしそれは空だけ。眼下に映る地上の風景はカントが思い描いていたのとは全く別のものだった。

[姿勢制御、着地します]

地上から周囲はほとんど見渡せない。赤茶けた砂嵐によって目の前10メートルの視界もおぼつかない状態だ。

[解説。現在当機はユーラシア大陸中部に不時着したと思われます。この地域一帯は大戦時、コロニー連合のコロニー落下作戦により荒廃、土地の大幅な変質とΩII放射線により生物が住むに適さない環境となっています]

「これが……戦争の爪痕」

カントもスクールの授業で聞いたことはあった。しかし実際に見てみると授業を聞くだけでは味わえない感慨があり、ショックもまた大きかった。

「何とかソディアと連絡が取れないか?」

案の定というか何というかやはりソディアとは全く別の場所に不時着してしまった。ソディアと連絡さえ取れれば救助を呼ぶこともできるのだが。

[否定。当該域は強い磁場の乱れにより計器類、通信機類の使用は不可能。仮に可能であったとしても当機では大陸を越える長距離通信は不可能]

ということはカントはこんな何もない大地で助けも呼べないということだ。

「まじか……」

自由軍をやり過ごし、大気圏を切り抜けてやっと生き残れると思ったらこれである。カントはすっかり脱力してパイロットシートに体を預けた。その時である。機体に強い衝撃が走った。同時にコックピット内にアラートが鳴り響く。

[機体背面に被弾、オート姿勢制御]

「んなこと言ったって……この視界じゃ……それにここに人は住んでないんじゃないのか!?」

[不明。レーダーによる索敵が不可能な為目視での警戒のみになります]

「くそっ!」

舌打ちしつつ盾を構え、辺りを見渡す。

「……この!」

またも強い揺れ。視界が悪く、レーダーも使えない状態でカントが敵の攻撃を凌ぐには限界があった。立ち止まっていてはやられる、そう思ったカントはスラスターを吹かせて前進……しようとしたのだがエルシオンは無様に前傾、そのままうつ伏せに転倒した。

「え?何でだ!」

[解説。現在は地球、即ち重力圏です。移動時は脚部を使用しなければバランスを崩します]

カントは頭を抱えた。これまでカントがエルシオンに乗ってきたのは全て宇宙、マニュアルには地上での動かし方も載っていたのだがそこまで目を通している時間も、理解する余裕もなかったし、仮にあったとしてもまさか地球に降下するとは夢にも思っていなかったくらいだ。読んだりはしなかっただろう。

宇宙では基本的にスラスターだけで上下前後左右の移動ができた。しかし地上ではスラスターだけ吹かせると重心が前に傾き、今のようにバランスを崩してしまうのだ。

「どうすりゃいいんだよ……」

どこに敵がいるかわからない恐怖、いつ攻撃されるかわからない恐怖、そして何よりエルシオンの勝手が利かないという恐怖がカントの精神を圧迫し、焦せらせる。ふとその時、エルシオンの後方、つまり脚部側に爆炎が見えた。その瞬間、一瞬だけ敵の姿が露わになる。

「あれは……戦車?」

平べったいボディにキャタピラ、何より特徴的な前方に大きく出っ張った砲身、それは旧世代に主力兵器として使われていたタンクの形そのものだった。(カントはほとんど寝ていた歴史の時間に見た、ような気がした)そしてその砲門がしっかりとエルシオンを捉えていたのもしっかりと目に入った。

「くそ……エルシオン!ちょっと乱暴にするけど許せよ!」

うつ伏せの状態のまま機体を地面に擦らせながら無理矢理前進、そしてそのまま下方向にスラスターを吹かせる。すると機体が僅かに宙に浮いた。

そこまで持っていけばカントでも姿勢制御できる。高度を維持しつつ機体を反転、ブラスターを先程戦車が見えた位置に撃った。しかしさすがに当たらない。すると今度は右方向に先程と同じ爆炎が見えた。間髪入れずその位置にブラスターを撃ち込む。ビームは見事戦車を貫き、戦車は爆発を起こした。

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

息を荒くしつつもどうにか着地、最初の疑問はなぜこの死の土地に人が動かすべき戦車があるのか、ということだ、何か手がかりが得られるかもしれないとマニュアルを引っ張り出し、にらめっこしながら1歩ずつ近づいて行く。

[警告。前方に人影を確認]

「マジか!」

思わず間抜けな声が出てしまう。もし人がいるならばその人に聞いた方が戦車の残骸を調べ回すよりも手っ取り早いのは明確だ。

人影はバイクのようなものに乗って手を振り、そしてバイクを少し進めてからまた手を振ることを繰り返していた。

「何してんだ?」

[提案。付いて行ってみては?]

もし人が居て、街のようなものがあれば現状を打開するきっかけがつかめるかもしれない、その思いでカントは慣れない地上歩行を開始した。




「カントと連絡が取れない!?」

エイラは机を叩いていた。後ろにはフェルト、ノインもいる。

「そうだ。落下角度から計算してカントはこの辺りに降下したと考えられる」

ジードは地図のユーラシア大陸の中程を指差した。

「ここは……死の大地じゃ」

ノインが息を呑んだ。フェルトも目を伏せている。

「そうだ。だからこちらから連絡することはできないし、向こうからも無理だろう」

「無理だろうって……そんな言い方がありますか?カントは……今にも命の危機にあるんですよ!」

エイラはジードを睨みつけた。入隊からずっと模範的な兵士だったエイラが上官にここまで声を荒げるのは初めてだった。

「そうだ。だが俺達に何ができる?」

熱くなるエイラにあくまでジードは冷静だった。少なくとも表面上は。

「それは……私が救助に行きます」

エイラがそう言うのを半ば予想していたかのようにジードは即答した。

「それは俺が許さん。俺はお前らの命を守る義務がある。無駄に犠牲者を増やすような真似はできん」

それは事実上、カントを見捨てるというジードの決断だった。

「艦長」

その時ジードの前にずっと黙っていたフェルトが歩み出た。

「彼は我々ゼネラルエレクトロニクスと契約をしています。ここで彼に死なれ、エルシオンを失うのは当社に著しい損害をきたします」

「カントについては俺の責任だ。もしカントが死ぬようなことがあれば俺がその損害賠償責任を負おう。だが……」

ジードはエイラを、ノインを、フェルトの目を1人ずつ覗き込んだ。

「俺はカントが帰ってくると確信している」

3人を見るジードの目はカントが戻る、そう信じて疑わない目だった。



「対象、ロストしました」

とうとうソディアはジルコニアのレーダーの外に出た。角度からの計算によるとソディアの降下座標は丁度合衆政府の中枢、アメリカ州だ、エルシオンの方は恐らく死の大地に落ちたと思われる。

「これで復讐は終わり、任務は失敗ですね」

大戦が遺した負の遺産、ユーラシア大陸とアフリカ大陸のほぼ全域、地球の約半分が人の住めない土地になった。そこに落ちたら最後抜け出す術はない。

「……今回はあんた達に助けられたよ。だからその……あれだ……」

アリシアが珍しく顔を赤くして何かボソボソと小声で言った。しかしコニーは笑いながら、

「やめてくださいよ艦長、誰も艦長のそんな姿見たくないですって」

「……そうかい」

アリシアはハイドが自分を助ける時、言った言葉を思い返した。

楽になるつもりですか、か。

その言葉はアリシアの心に重く、のしかかった。



「大変だ、もう偵察のコヨーテがそこまで来てる」

メイリン フェイはバイクを降りるなり仲間にそう伝えた。すると皆大急ぎでトレーラーを発進させた。こういう時の為にいつでも出発させることができるようにしているのだ。あのLAはどうしているかと振り返ると少々ぎこちない動きながらもちゃんと付いてきていた。



「やっと着いた……のか?」

1度バイクが停まったかと思いきや今度は近くの大型トレーラーも連れ立ってまた発車してしまった。バイクのバックライトに目を凝らしながらバイクとトレーラーを追いかけてやっと停まった場所はやはり何もない荒野。街は無いのかと肩を落としつつもバイクを見やるとそのライダーがこちらに手招きしていた。

「なあ、これ、罠だと思うか?」

[回答不能。念のためマスクを持っていくことを推奨]

コックピットの引き出しから銃と、そして口と鼻を覆うタイプのマスクが出てきた。

[外は人体に有害な物質が多く存在します。これを着用すれば多少はマシかと思われます]

カントが尋ねる前にエルシオンが答えた。

「いや多少はって……まあいいか」

どっちみち話してみないことには何も始まらない、カントは意を決してコックピットを開けた。

そしてライダーの元へ近づいて行く。ライダーはだぼだぼの服を着ていて、顔はヘルメットをかぶっているので顔は当然として性別も分からない。そんなことを考えているとそのライダーに銃を突きつけられた。

「お前はプラヴァスティか」

考えてみればカントは銃など撃ったことがない。咄嗟に銃を抜く、という選択肢が見当たらず、反射的に手を上げてしまった。

「プラヴァスティ?」

初めて聞く単語だ。カントは間抜けな声でおうむ返しに聞き返した。

「ならば合衆政府軍の人間か」

正確に言えばカントは軍人ではない。借金のカタにLAに乗せられているだけ、とも言えるし借金をしてLAに乗せてもらっている、とも言えるがどちらにしろ軍に属しているわけではない。軍艦に乗ってはいたが。カントはとりあえず首を横に振った。するとライダーはカントの目をじっと見つめ、(カントはライダーの目を見ることはできないからそう感じただけだ)

「ちょっと待ってて」

それだけ言ってトレーラーの中へ入ってしまった。カントは入れてくれないということはまだ信用されていないのかそれとも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ