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Route Of Elsion  作者: 世界史B
崩れかけた世界の中に
10/53

ただそれは誰が為

「カント キサラギ、エルシオン、出撃します!」

ソディアから出るとすぐにすぐ後ろを接近する機体を捉えた。

[6時の方向、距離300]

カントの役割はリシアムをソディアに近づけないことだ。そして地球降下までの時間を稼ぐこと。カントがアリシアに接近戦を挑んでも勝ち目はゼロだ。だから一定の距離を保ちつつブラスターで牽制し、接近させないようにするのがこの状況の最適解。しかし自分のせいで皆が死ぬかもしれないという焦りと自分が守らなければならないという重圧で冷静さを欠き、少しづつ、少しづつソディアから離れていってしまった。

「くそっ!当たれ!当たれ!当たれぇっ!」

リシアムはまるでカントを挑発するかのようにゆらゆらという動き、ビームをことごとく躱す。

『カント!離れすぎだ!』

ジードの声が届いた時には時既に遅し。カントがソディアに気を取られた瞬間、リシアムがエルシオンに急接近する。

「やべぇっ!」

何とか急加速で距離を開けるがそれも直ぐに詰められる。そして刃の一閃、それをシールドで受け、また急加速、詰められる……エルシオンの動きに合わせてぴったり付いてきて確実にカントを追い詰めていく。

まるで狩りを楽しむかのように。もうアリシアの頭にエルシオンの鹵獲という文字は無かった。仲間の、部下の仇をいたぶって、恐怖を刷り込んで、殺す。それだけがアリシアを支配していた。



「重力に捕まりました、早くカント君を戻してください!」

「カント!戻れ!聞こえているか?」

ジードも呼びかけているのだがカントが戻ることのできる余裕など微塵も無いことなど明らかだった。その間にもソディアは着実に地球に引かれて落ちていく。それに逆らう余力はソディアには残っていなかった。

「ダメです!これ以上は艦が保ちません!」

アルフレッドが悲鳴に近い叫びを上げる。しかしここで対物理シールドを展開してしまえばエルシオンすら戻ってこれなくなってしまう。

「カント!」

カントを待って全員焼け死ぬか、カントを見捨てるか、ジードはその選択を迫られていた。カントに艦を守れと命じたのは自分だ。だからカントを殺したのは自分、自分の命令で部下を殺すのは指揮官の宿命であり、ジードも幾度と無く経験してきた。しかし何回目になっても慣れてはこない。

いや、決して慣れてはいけない、そうジードは考える。あの時の決断は正しかったのか、そう考え、悩み、苦悩する。それが自分にできる、死んでいった兵士にできる唯一のことだと。

「対物理シールド展開」

「……何を言っているんですか?まさか……」

「そうだ。カントを見捨てる」

ジードはそうだ言い放った。ミライは何か言いたそうに口を開きかけたが唇を噛んで無理やりその言葉を喉に押しとどめた。



「この!離れろ!」

既にエルシオンが危険信号を発していた。いくらエルシオンの装甲が頑丈とは言っても大気圏突入時の熱に耐えられるわけもなく、仮に耐えられたとしても中にいるカントは焼け死んでしまう。しかしリシアムによってソディアに近づくどころかどんどん遠ざかっているということをレーダーは示していた。そんなことは御構い無しにリシアムはブレードを振るう。



あらゆる計器類が危険を示し、コックピット内も冷却が間に合わず熱を持ってきた。それでもアリシアの目には敵機しか映っていなかった。

『艦長!危険です!戻ってください!』

コニーの声も耳に入らない。

トドメだ

そう口のなかで呟いてエルシオンの腹部にブレードを突きたてようとしたその時、リシアムの肩を何者かに掴まれた。

「誰だ!」

『俺です』

ハイドだった。ジルコニアからヘリアムをワイヤーで吊るし、リシアムを掴んでいた。

『このままでは死にます。戻ってください』

「こいつさえ殺せればあたしは……」

『死んだっていい、そう言う気じゃないですよね?』

ハイドの心を見透かしたような言葉にアリシアが意識を取り戻し、リシアムの動きを止めた。

「皆が死んで、カイルも死んで……あなたまで死んで……楽になるつもりですか?そんなことは俺が許さない」

その言葉でアリシアは完全に我に帰った。そして溜息を1つ。

「……全く」




死ぬ、そう覚悟した直後、リシアムをワイヤーに吊るされたヘリアム・カスタムが掴み、そして2機でジルコニアへ戻って行った。

「はぁ〜」

しかし安心できたのも束の間、

[警告。このままでは約17秒後に当機は排熱限界を迎えます]

「そうか……じゃあお前と心中かもな」

そう覚悟するとかえってコックピット内部が鮮明に見え、今まで耳に入っていなかった音も聞こえてくるようになった。

『……ント!聞こえ……返……て!』

フェルトの声だった。

「おう、聞こえてるぞ」

『よか……た〜、い……よく聞い……コックピット……赤いレバー……」

ノイズがひどく、かなり聞こえづらいが何とか意味を聞き取ることはできた。

「赤いレバー、赤いレバー……これか!」

こうなればもう一か八かフェルトの言葉にすがるしかない。

「こ……の!」

やたらと固いレバーを引くと何とシールドが赤い十字の部分で展開し、面積が広くなった。

「何だこれ?」

[提案、そのシールドを使えば大気圏突入時の熱に耐えることができるかもしれません]

「本当か!?」

1度は捨てたはずの生への渇望が再び頭をもたげた。

[了解。姿勢制御に入ります]



「おい……本当に大丈夫なのか?」

エイラが不満げにフェルトを覗き込む。

「大丈夫だよ〜……多分」

「多分!?貴様そんな曖昧な……」

「一応大気圏突入時の熱に耐えられるよう設計はしたけど前の戦闘でシールドが歪んだり傷がついたりしてたら熱をうまく逃がせなくてなくてシールドが融解しちゃう。シールドの状況までは私もわからないよ!」

珍しくフェルトが声を荒げた。それだけ彼女も心配で、不安なのだ。それがわかってエイラも口をつぐんだ。

「まあまあ、姿勢制御はエルシオンがいるし、きっと大丈夫だよ、でも……」

仮に降下に成功してもまだ問題はあった。既にエルシオンとソディアは大分距離が離れてしまっている。

地球降下というのは少しでも突入時角がずれると見当違いの所に降りてしまう。つまりソディアとエルシオンが別々の、しかも遠く離れた場所に降下にしてしまう確率が高いのだ。


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