ニャン太の夢
ヒロ君は泣きながら眠りにつきました。気がつくと、猫の姿でした。
そこではヒロ君はニャン太という名前の猫で、きょうだいたちと原っぱで遊んでいました。鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、虫を追いかけたりして遊びました。
家に帰ると、おかあさんがみんなをやさしく出迎えてくれました。
晩ごはんを食べると、遊び疲れていたのか、ニャン太になったヒロ君はすぐに眠ってしまいました。
目が覚めると、ヒロ君は人間の姿に戻っていました。
学校で算数のテストがありました。考えても考えても、少しもわかりません。
ほとんど白紙で答案を出そうとすると、先生がにやっと笑って受け取りました。
その場では我慢しましたが、その日は授業が終わると、悔しくて泣きながら帰りました。
家でママにその話をすると、ママは言いました。
「悔しかったら、勉強しなさい」
ヒロ君は教科書を開きましたが、少しもわかりません。
気をまぎらわそうとテレビを見ていると、ママに怒られました。
その夜は、悔しくて、泣きながら眠りにつきました。
気がつくと、ニャン太という猫の姿でした。
きょうだいたちと河原で遊んでいました。鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、花をつんだりして遊びました。
家に帰ると、おかあさんがみんなをやさしく出迎えてくれました。
晩ごはんを食べると、遊び疲れたニャン太はすぐに眠ってしまいました。
気がつくと、ヒロ君という人間の男の子の姿でした。
体育の授業で、紅白戦のリレーをしました。
ヒロ君のチームはリードしていましたが、ヒロ君の番で逆転されてしまいました。
「おまえのせいで負けたんだ」
チームの子供たちから責められました。先生は知らない顔で次回の授業の説明をしていました。
その場では我慢しましたが、その日は授業が終わると、悲しくて泣きながら帰りました。
家でママにその話をすると、ママは言いました。
「悔しかったら、スポーツをしなさい」
ヒロ君はジョギングをしようと道に出ると、走ってきた自転車とぶつかって、さんざん怒られました。
気をまぎらわそうと、帰ってからゲームをしていると、ママに怒られました。
その夜は、悲しくて、泣きながら眠りにつきました。
目が覚めると、猫のニャン太の姿でした。
きょうだいたちと森の中で遊んでいました。鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、秘密基地を作ったりして遊びました。
家に帰ると、おかあさんがみんなをやさしく出迎えてくれました。
晩ごはんを食べると、遊び疲れたニャン太はすぐに眠ってしまいました。
気がつくと、ニャン太はまたヒロ君という人間の男の子になっていました。
家庭科の授業で、カレーをつくりました。
ヒロ君が水加減を間違えたために、黒焦げになりました。
「おまえのせいで失敗だ」
同じ班の子供たちから責められました。先生は知らない顔で、他の班のカレーをほめていました。
その場では我慢しましたが、その日は授業が終わると、さびしくて泣きながら帰りました。
家でママにその話をすると、ママは言いました。
「悔しかったら、お手伝いして練習しなさい」
ヒロ君はママのお手伝いをしましたが、しょうゆとソースを間違えて、さんざん怒られました。
気をまぎらわそうとマンガを読んでいると、またママに怒られました。
その夜は、さびしくて、泣きながら眠りにつきました。
目が覚めると、猫のニャン太の姿に戻っていました。
きょうだいたちと海辺で遊んでいました。鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、潮だまりの魚をつかまえたりして遊びました。
家に帰ると、おかあさんがみんなをやさしく出迎えてくれました。
つかまえた魚で、おかあさんが晩ごはんを作ってくれました。晩ごはんの後、すぐには眠りたくないと思ったのですが、遊び疲れたニャン太は結局すぐに眠ってしまいました。
夢の中で、ニャン太はまたもヒロ君という人間の男の子になっていました。
学校祭で、みんなで桃太郎の劇をしました。
ヒロ君は鬼の役でしたが、力加減を間違えて、桃太郎を投げ飛ばしてしまいました。
「おまえのせいで劇が台無しだ」
みんなから責められました。
ヒロ君は、みんなの前で謝らされました。先生は、にやにやしながらよそ見をしていました。
その場は我慢しましたが、その日は学校祭が終わると、いやになって泣きながら帰りました。
家でママにその話をすると、ママは言いました。
「悔しかったら、来年こそはがんばりなさい」
部屋でひとりで劇のセリフを練習したり、立ち回りの練習をしていると、うるさいとまたママに怒られました。
その夜は、いやになって、泣きながら眠りにつきました。
猫のニャン太は目を覚ましました。
おかあさんは言いました。
「最近、毎晩うなされているみたいだけど、どうしたの?」
ニャン太は人間になった夢のことを話しました。
「まあ、そんなひどい夢ばかり見ているの?その人間っていう生き物、ずいぶん意地悪なのね」
「うん。ぼく、眠るのがだんだん怖くなってきたよ」
それは大変と、おかあさんはニャン太を猫のお医者さんに連れていきました。
「最近ずっと、人間の子供になった夢を見て、苦しいんです」
ニャン太は、お医者さんに説明しました。
お医者さんは答えました。
「それは困ったことだね。でも、君だけじゃなくて、同じような患者さんは時々いるんだよ」
「そうなんですか」
「きっとたまたま見た悪い夢がストレスになって、またよけいに悪い夢を見てしまってるんだろうね」
「どうすればいいんでしょう」
「深く考えないのが一番だけど、そうは言っても難しいよね。いい薬をつくってあげるから、寝る前に飲むといいよ」
お医者さんは、マタタビを燃やした灰といろんな色の貝殻の粉、それに薬草を何種類か混ぜて、ニャン太にくれました。
薬のおかげなのか、その夜から、ニャン太は人間になった夢を見なくなりました。
しばらくたったある日の朝、おかあさんはニャン太に言いました。
「ニャン太、すっかり元気になったわね」
「うん。人間になった夢、少しも見なくなったからね。ゆうべは蝶になった夢を見たけど、ふわふわ飛びまわって、楽しかったよ」
「まあ、よかったわね」
おかあさんはくすりと笑いました。
今日はみんなで山登りに行く日です。
きょうだいたちは早起きして、ニャン太の準備が出来るのを待っています。
外はとてもいい天気で、絶好のハイキング日和です。