戦士 3
「よっと」
ロットが大きい蜘蛛――フォレストスパイターを振り上げた剣で正面から真っ二つに切り裂いた。
「嘘・・・フォレストスパイダーを一刀両断なんて・・・」
「前見て走れ!次転んだら置いてくぞ!」
アウッドにそう言われて、身体が一瞬ビクっと動くと前に向き直る。
ヘンリーの顔や服はあちこち切れていて、土で汚れている。
アウッドと並んで走るヘンリー・フルールの後ろで戦うロットから視線を外して前に向き直る。
「見えてきたぞ!!!」
「分かりました!」
走り続け、もう少しで森を抜けるというところでロットの足が止まる。
「旋風」
スキルを発動しようとして、剣を構えるが発動しない。
やっぱり武器の種類違うとだめか・・・
自分のベルトポーチに目を向ける。
(もしかして・・・)
ベルトポーチを開けて、そこに手を突っ込む。
しかし目の前まで迫っていたモンスターの群れの波が、ロットを飲み込んだ。
――
暗い草原に出ると、アウッドとフルールの二人が足を止める。
目の前にはエッジサーペントと思えるものが3体居る。
「まだこんなにエッジサーペントがいるなんて・・・」
エッジサーペントの持つ縄張りは結構な範囲だ、それゆえに同じ縄張りにいても、限界で2体くらいなもんだ。
「こんばんわ!」
エッジサーペントの後ろの方から若い女の声が聞こえた。
「まさか逃げられるとは、思わなかったんだけど・・・」
エッジサーペントの間から声の主であろう者が出てくる。全身を黒い鎧で包んでいて、背後には黒い炎のようなものが揺らめいている。
「魔王・・・!」
それはかつてグリアルス国の生き残りの冒険者から聞いていた魔王そのものだった。
「で、私の下僕を倒したのはどっち?それとも、さっき森で殺した奴?確か、来たときは10人だったよね?」
後ろには森からついてきたモンスターで溢れ返っている。数えるのも馬鹿らしい。
「それは計算違いだな」
アウッドがニヤリと笑う。
「旋風!!!!!」
大きい声が聞こえ、後ろから鋭い音と共に突風が吹く。
アウッドが振り返ると、後ろにいたモンスターは全て真っ二つに切られて倒れているあたりは血の海だ。
「遅れました」
モンスターの死体の上歩いてくるのは返り血を浴びたロットだ。
さっきまで腰に下げていた剣はなく、刀を腰に下げていた。
その刀は、返り血を浴びても元々が真っ赤だと分かる鞘に、丸くて黒い鍔に黒い柄。
一目見て一級品の刀と分かる。
「魔王・・・」
「ロット殿もあれを知っているのか」
「私の知る魔王ですね、片しても?」
「ま、まって!!」
アウッドの返事を待たずして、魔王から高い声が上がった。
「え、喋れるんだ」
「喋れますとも!!」
魔王がロットの言葉に直様返す。
「ゴッホン、私はここの魔王城の統治者ベリア!」
「今さっきあなたが殺したモンスター達の支配者です!」
「・・・それで?」
ロットが居合の構えに入ったのを見て魔王が両手をあげる。
「参りました!!!」
「は?」
全員が表情一つ変えずに、魔王を見つめる中、真っ赤に染まった白衣が風に揺れた。