戦士 1
――死にたくない
走る、走る、走る、走る。
アリソン・マキロイは平原をただひたすらに走っている。あの化け物から少しでも離れたい。
アリソンの呼吸は乱れ、何度か転んだせいで服や身体が土で汚れている。
後ろには射手の一人、ヘンリー・フルールが、必死についてくる。武器や防具があらかた捨てられていて、薄い洋服を着ている。
「もう私無理!!走れない!」
「森までもう少しだ!足動かせ!!」
向かっているのは、自分たちの国バルクスタ王国から正反対の森。
モンスターの生息している可能性がある夜の森の中に救いを求めたのは、エッジサーペントから逃げるためである。
森の中のモンスターならば、よほどのことがない限り対処できる自信があるし、隠れる所も多い。
アレは普通の人間の討伐可能レベルを圧倒的に凌駕している。恐らく、冒険者の現役最強チームをもってしても、五分五分だろう。
そんなものを相手に、逃げる以外の選択肢なんかない。
心の中でアウッドに感謝する。アウッドのおかげで逃げる時間ができたことに。
そして今、森の中ではモンスター達が溢れているのに気づいたのは森に入ってからだった。
――
アウッドは大きく目を見開く。その目の前には白衣が風に揺れている。
「こんなものか」
ロットが、エッジサーペントの身体を片手で持つ剣で支えている。
「スラッシュブレイク」
エッジサーペントの身体を押し返し、飛びかかってから斬りつけた。
重いものが落ちたような音がし、周囲の草が真っ黒な血で染まった。
「シャアアアアァァァァ!!!」
尻尾を切り落とされて、エッジサーペントが絶叫を上げた。
「思ったより怖くないな」
ロットは、エッジサーペントを見る。
剣を握って対峙していると、不思議と自信が湧いて強気にでれる。
エッジサーペントがロットに噛み付こうと身体をしならせて、迫ってくる。
それに合わせて、ロットが飛びかかりエッジサーペントの顔に剣を突き刺した。
少しの間僅かに動いていたが、やがてピクリともしなくなった。
それを確認し、剣を抜いた。
「大丈夫ですか?」
エッジサーペントの死体を背にロットがアウッドに問いかける。
相当重症なようだ、立っているのもやっとだろう。
「君は一体・・・」
「とりあえずここは危ないみたいですし、歩けますか?」
「あ、ああ大丈夫だ、ポーションもあるしなんとかなる」
そういうとアウッドは、どこからか赤い液体の入っている瓶をだし、その中身を一気に飲み干す。
すると傷が少しずつ塞がっていく。
ポーションを飲むとそうやって回復していくのか、とロットは興味深い目をアウッドに向ける。
「なんだ?どうした?」
「いえ、なんでもないです」
生気を少し取り戻せたようで、顔は先ほどよりも色がいい。
「行きましょうか、質問は歩きながらでも?」
「ああ、そうしよう」
アウッドは立ち上がり、暗く広い草原を二人で歩いていく。




