魔王城からの出立 3
魔王の城を出る。
そこには見たこともないような夜空が広がっていた。
一つ一つの星は肉眼でハッキリ見え、星の光だけで周囲を確認できるほどだ。
あまりにも綺麗な夜空を見たロットは目を大きく見開いて立ち止まった。
その間にもアウッド率いる冒険者は前を歩いていく。
「足を止めるな」
コブリンとの戦闘でアウッドと一緒に前線で戦った剣士、クラウス・ハイットから注意を受けた。
そう言われ、ロットはすぐにも歩き出した。
そうだ、今自分は守ってもらっている立場だ、勝手な行動は慎むべきだよな・・・
ロットは夜空を見続けながら歩き出した。
しかし、何もない所で急に前を歩いている全員が足を止めた。
「まずいな」
誰が発したのか、分からなかったが、その声に合わせて全員が身構える。
ロットは後ろに気配を感じ、振り返る。
視界が揺れた。思いっきり壁に叩きつけられたような感覚を覚え、宙を舞う。やがて地面に叩きつけられた――
「後ろだ!」
アウッドは盾を構えて、仲間達全員に聞こえるように声を発して、振り返る。
巨大な尻尾のようなものが畝っている。
エッジサーペント。
10mはあろうかという巨大な蛇で、特徴的な尻尾には鋭い刃が付いている。その蛇の鱗は鋼の様に硬く、鞭のようなしなやかさがある。
そして、口から見えるりっぱな牙には毒があるというおまけ付きだ。
人間が勝てる所が少ない超弩級モンスターだ。逃げる事すら難しい相手。
アウッドが前に出るより早く、数人が吹き飛ばれていき、鈍い音が響き渡る。
エッジサーペントの前にいる一人の剣士が叫ぶ。
「アウッド!逃げろ!勝てない!」
そう叫ぶ仲間は、エッジサーペントの尻尾の刃に真っ二つに切り裂かれる。
切り裂かれた死体からは溢れるように血が流れてくる。
「クソ!」
睨めつけるようなアウッドが盾を構えながらエッジサーペントの前に立つ。
盾を構えるアウッドの後ろからクラウスが走り抜け、エッジサーペントに斬りかかる。
そこに合わせてエッジサーペントの尻尾の刃が飛んでくる。
刃をギリギリで躱し、エッジサーペントの顔に剣を切りつけるが、刃が通らない。
「ッチ!」
エッジサーペントの口が開き、クラウスに食らいつこうとする。
その隙間に、アウッドの盾と身体が入る。
「フォースシールド!!!」
アウッドの盾が一回り大きくなり、エッジサーペントの牙を弾く。
そのままエッジサーペントの顔が地面に叩きつけられる。
「ブレードエンチャント!」
クラウスの持つ剣が魔法を帯びて鋭く光る。クラウスが再びエッジサーペントに斬りかかる。
エッジサーペントの鱗に切り込みが入ったが、数mm程度だ。それを確認して後ろに飛んで下がる。
「こりゃ無理だな、相手が悪い。逃げるぞ」
クラウスがそういうと、アウッドが周囲を見渡す。立っているのは後ろで弓を構えていた射手の二人だけだ。
その隙にエッジサーペントの体がとてつもない速さで、周囲を薙ぎ払い、地響きが起きた。
アウッドは盾を構えたが、いとも容易く吹き飛ばされた。射手である二人は距離もあって躱しきれたが、クラウスは躱しきれず直撃だ。
「うぐ」
アウッドとクラウスは宙を舞い、地面に身体が叩きつけられる。
アウッドは盾を支えにして立ち上がる。顔は血塗れで右手はだらしなく垂れ下がる。
すぐそばに転がっている死体は、クラウスだ。長年付き添った友人がこの数分の出来事で絶命した。
クラウスの死体を見て、表情一つ変えないアウッドだったが、その内は憤怒の炎に焼かれていた。
力の入らない拳で、盾を握る。射手が気になり後ろを振り返るが、姿がない。無事逃げることができたのであろう。
せめて、二人が逃げる時間を稼げれば・・・。
視線をエッジサーペントに戻す。すると尻尾の刃がこちらに斬りかかる瞬間だった。反射的に持ち上げた盾で受け流そうとするが力が入らず、押し切られてしまい倒れる。そして、そこにエッジサーペントの身体が叩きつけれようとしていた。
――――
痛くない、驚いて自分の身体を見る。土が少し白衣に付いているが、切れたり破れてたりしていなかった。立ち上がって、周囲を見渡すと数十M先に、大きい蛇と、アウッド達が戦っている。幾人か、地面に倒れている。
「フォースシールド!!」
聞いたことある。ろくぶきで、戦士から盾で戦う、シールダーという上位職になるために必要なスキルの一つだ。
「ブレードエンチャント!」
これも聞いたことある、戦士から上位職の剣士になるためのスキルの一つだ。
(スキルが使える・・・?ということはやっぱりここはろくぶきの中なのか?)
(もしかすると・・・)
ロットは腰に下がっている剣を抜き、握る拳に力を込めてスキル名を発するとスキルガ発動した。
「パワースイング」
パワースイングは剣士になると最初に使えるスキルで、ダメージ量も低い。
慣れたような動きで、握った剣がとてつもない速さで空を切る。
(変な感じだ・・・)
操作されたように剣が勝手に動いたようなそんな錯覚を覚える。
しかしやっぱり、スキルが使えるのか・・・
ズガン
音の方を見ると、アウッドとハイットが宙を舞うところで、二人の影が見える。
今の自分はスキルが使えるならば、戦えるはず。
決心をして、超弩級モンスターである――
エッジサーペントに向かって歩き出した。
次回戦闘