魔王城からの出立 1
――眩しい。
いつの間にか眠ってしまっていたのだろう・・・
(あれ部屋の電気なんか付けてたかな)
余りにも眩しかった為に左手で目を覆いながら、腰を下ろしていたイスの肘掛に手を付いて立ち上がる。
なんというか変な感じだ。身体が軽いが寝起きだからと納得する。
恐らく寝たのはパソコンの前だ、たまにやってしまうが寝落ちというやつだ。覆っていた左手を下ろしながら見覚えのあるはずのその光景は寝る前に居たはず自分の部屋――
「えっ」
ではなかった。
目覚めての第一声がこれだ。自分の置かれた状況が全くと言っていいほど分からない。というかなにか違和感があったが、状況の変化に対応しきれなかったせいで気づけない。
見渡すと眠る前にろくぶきで見た幾度なくアップデートによりデザイン変更された魔王の部屋に似ている。というかその認識の方が強い。ふと自分が何に座っていたのか気になり、振り返ってみる。
ろくぶきの魔王の座る椅子だった。体が当たるであろう部分には赤いクッションになっていて、その周りにはギザギザした針の様な物に、赤い液体が付いている。
その魔王の椅子に付着する液体を触ろうとして手を伸ばす。ふと自分着てる服の袖が見え、寝る前の服装ではないことに気づき、自分の着ている服を見る。
――白衣
正確には白衣を羽織っているだけで着ているのは黒いシャツに、なんのための物かまったく理解できない鎖がついた薄黒いジーパン。
大きい赤い宝石が輝いているネックレスがシャツの中にある。そして腕には金色の腕輪、全部の指に嵌めている指輪はどれも高そうな物で紫だったり赤だったり様々な色をしているものだ。
そして腰に下がっているのは、派手ではないが立派な剣だ。大して重さを感じないので一瞬おもちゃか何かだと思ったが、違うみたいだ。
手に取ると鋭く磨かれている剣は部屋を照らす炎の光を反射して輝いている。
見覚えのあるその剣の刀身に見惚れ、少しずつ角度を変える。
――誰だこいつ。
剣に反射された顔は自分の物ではなかった整った顔に赤い瞳は鋭く勇ましい。
髪は後ろの髪が長いためか、ポニーテールのようになっていて適当に後ろに纏められている。
――この外見と装備は《Six weapons》での自分キャラクターのアバターだ。
あまりの衝撃に、体が微動だにしない。
(待て待て、さっきまで部屋でいつも通りに《Six weapons》(通称:ろくぶき)をやっていたよな?)
それから、最後だからと思ってストーリークエストを進めて魔王を倒しに来た。
(魔王を倒した後は・・・?)
先ほどの魔王のイスにもう一度座り、考えるが思い出せない。
(ゲームの中に入ったのか・・・?それとも・・・)
頬を思いっきりつねってみる。痛い。痛いが、あまり痛くない。変な感じだが感覚はある。
だが、そんな感覚のせいではっきりしない。むしろ夢と言われたほうがまだっきりする。
ガチャ
扉の開く音が聞こえ、扉の方を見る。
「ようやく会えたな!魔王!」
「は?」
出会い頭にそんな事言われたのは初めてで、咄嗟に口が開いてしまった。
後ろからぞろぞろと人が入ってくる。鉄や胴の鎧を身に纏っている10人ほどがぞろぞろと部屋に入ってくる。
男女比に偏りがあり、先行して入ってきた男は、剣や盾を構えている。全員の服の端が切れていたり、着用している鎧に所々、傷や穴が開いている。
「あの、どちら様で?」
「日々、お前の魔物のお世話になっている者だよ!」
そう言い放ち、一番前に立っていた剣を構えた黒い短髪の顔の整った男が、そのまま此方に走りだした。
「待て!」
走りだした男の後ろから大声が聞こえた。
「伝え聞いている魔王の外見とは全く違うだろう!良く見ろ!早計だぞ!」
その男も短髪で髪の色は黒いが、顔つきはまったく違う。顎髭を生やしていて、目つきの勇ましさについ気圧されそうになる。大柄なその男の身体を全て隠せるほど大きい盾を所持し、その男に相応しい程の雄々しさを声に感じる。
その声を聞いて、走ってきた剣を構えた男は振り返り盾の男を見る。
「失礼、私はバルサック・アウッド。冒険者をしている者だ」
「冒険者?」
「ああ、その前に其方の名前を伺おう」
「さいと――」
本名を名乗ろうとして、口を閉ざした
「・・・どうした?」
「いや、なんでもない」
「改めて、俺はロット。目が覚めたらどういうわけかここに座っていて・・・なにか知らないだろうか?」
ロット。ろくぶきの時の3文字ネームを思いつき次第入れて行った時に、3番目くらいに思いついて使えた名前だ。
「それについては分かりかねるな、申し訳ない」
即答されてしまう。
「では、もう一つ質問しても?」
ロットが発言すると、盾の男が開いた掌をこちらに向け、周囲を見渡している。
「その前にここは魔王の部屋のはず、近くに魔王はいないみたいだが、ここは危険だすぐにでよう」
「あー・・・ああ」
魔王について聞こうとしたが外がどうなっているかも見たかったため、ついて行く。