勇者ロト 2
――
(え?いたの?)
森の影から姿を表したのはベリアだった。ヘンリーが出てくると思っていたのだ。
街を出る前からヘンリーがついて来ていたのには気づいていたロット。
ベリアについてはかけらも気付かなかった。
あまりにも自然すぎる流れに、まったく予測外の人物がでてきたことに驚いてしまい、流してしまう。
「さすがですねーロット様よくお気づきで」
「・・・まあ」
(いや、気づいてないよ完璧だよ)
「と、ところで何用だ?」
「街の外へ出て行ったとお聞きしましたので、護衛にと思いまして」
「しっかり断ったつもりだったんだが?」
「それはお買い物の話です」
ベリアの微笑みが一瞬も崩れない。
ロットは大きくため息をついた。
それはヘンリーがわざわざ尾行してきた事に付いての原因の一つが目の前にいると思ったからだった。
(わざわざ尾行してくるってことは俺も疑われてんだよな・・・そうだよな、目が覚めたら魔王城にいて、正体不明だもんな)
ここに来てヘンリーの尾行理由が少し理解できた。
(今ベリアと二人っていうのは結構まずいか・・・)
ふと森の方に目をやるとヘンリーの姿はない。
もしかしたら上手く隠れているのかもしれないが、街に戻って変な誤解をされたまま周りに言いふらされるのは好むところではない。
「ベリア、フルールさんが居た事には気づいていたか?」
「はい、今はもう居ないようですね」
(下手に追って恐怖心煽るのも・・・)
ロットは少し考えたが、すぐにも結論を出した。
「とりあえず帰るか、ベリア」
「はい!」
(下手に追ってもしょうがないしな)
ロットは街に向かって歩き出した。
――
ヘンリーは街へ向かって走っている。
(わざわざあんなところで二人で会ってた理由を掴み損ねたけどその事実は伝えるべき)
森の中では走っても時間がかかる。なので、平原に出て街道までを目指してひらすら走っていた。
視界の先に、大勢の人影が見えてきた。
(あ、あれは!!)
見えてきたのは先ほどのイエローの集団だ。
しかし先ほどいなかった人物がそこにいる。
ザンバ・ギグス、段位八の高段位だった男。イエローの長。体中に傷跡があり、その身体は2mを超える。腕の筋肉は驚くほど太い、
獣のような顔をしたその男の二つ名は――豪腕
(まだ、逃げてからそれほど時間は経っていないのに・・・やっぱり拠点そのものが近くに・・・?)
ヘンリーは急いで森に隠れる。
(あの人数・・・全員・・・・?)
その人影は10や20ではないざっと数えても40人はいる。
(これはこれで、冒険者ギルドに報告するべきね)
「って、もう冒険者じゃないんだった・・・」
冒険者をやめたのは自分の意思。それは死の恐怖からではない。そんなことは、冒険者になるときに覚悟していた。
中段位のヘンリーが勝てるモンスターなぞ大して多くはない。高段位だって勝てない敵は存在する。
そして、あそこにいる男も例外ではない。
これから出会う相手を知らないがために挑むであろう。
まったく無意味に死ぬであろうその男に沸いた感情は哀れみに他ならなかった。
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