勇者ロト 1
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第五魔王城
真っ白な大理石で作られた部屋に、対比する様に黒い机が置いてある。その、机を囲むように並ぶ赤い椅子が6つあり、1つは空席だ。
「好都合だな」
男の野太い声が響く。
「どこが好都合なわけ?」
「城のローテンションさせられなくて済む」
子供なような声に先ほどの野太い声の男が答える。
「黙れ!」
今までの会話を一喝する低い男の声が響き、そのまま話を続ける。
「ベリアの捜索は引き続きベリルが担当しろ」
「分かった」
若い男の声が返ってくる。
「他はこのまま乗り込む」
「もう動くの?」
「此方の行動に合わせてベリアも出てくるだろう、あいつがいなければ始まらない」
「脅しをかけるだけならお前一人で十分なはずだが?」
「王を殺す」
聞いていた全員の視線が一人に集まる。纏う真っ赤な鎧を着た人物が立ち上がるとそれに合わせて他全員が立ち上がった。
「行くぞ」
――
「神威」
(神威・・・?)
森の中からの監視しているヘンリーがロットの言葉に耳を傾ける。
その後ロットが剣を構えた。次の瞬間、刀は抜かれていた。
一瞬の動きも見逃したつもりはヘンリーにはない。しかしそれでも見えなかった。
「よし」
そういうとロットが歩き出す。その音に合わせてヘンリーはついて行く。
数分で足を止める。ロットの視線の先に居るのはバラバラの武具で身に纏う男達が何人もいる。
共通点は左腕に黄色のバンダナをしている所くらいだ。その先頭に立つ男は集団の誰よりも大柄でバスターソードを背負っている。
「こんな街の外れに一人だと危ないぜ?」
バスターソードの男がロットに声を掛けた。
それに合わせてロットが言葉を返した。
「山賊か?」
(ふん、イエローか見ないと思ったらこんな外れに彷徨いてたのね)
イエロー。左腕の黄色のバンダナをしているところから呼ばれた今は山賊達の事を指す。
最近までは冒険者ギルドに所属していたが、他のパーティーとの争いが殺し合いまでに発展し、ギルドから除名を受けた下衆共だ。
「俺はバテル・ザヴィル、お前に選択の余地をやる、俺たちの仲間になれ」
「仲間になった場合は?」
「俺たちは少々冒険者に恨みがあってな、その復讐に加担してもらう」
「仲間にならない場合は?」
「ここで殺す」
「んじゃあどっちもパスでお願いします」
「・・・ふざけてんのか?」
イエロー達が武器を構えた。
「もういち・・・」
「俺は冒険者だからな、お断りだ」
「ぶはっはっはっは!!」
「そんななりでか!!はっはっはっは!!」
ヘンリーは麻痺しているが、傍から見たらおかしなことを言っているのはロットの方だ。
それこそ最初に会った時、持っていた剣が立派で尚且つ、その後の戦闘では驚くような強さを見せつけられたからこそ彼を只者じゃないと認識できた。
しかし、バテル達からしたらどうだろうか?薄い洋服に白衣を纏って武器屋に置いてある刀なんか見たら舐めてかかるに決まっている。
バテルの笑う理由の浅はかさを哀れに思う。
「もういいか?」
「いいわけねえだろうが!!!」
バテルの抜いたバスターソードをロットに向かって振う。
しかしそれをロットは右手の掌で抑える。
バテルの顔に焦りの色が生まれ、後ずさりする。
「ば、ばかな!」
決して彼の攻撃が子供のように弱いわけではない、冒険者の時にその腕力だけでのし上がった段位四の中段位者だった。
人間の片手の腕の力だけで抑えることのできる力では到底ない。
ロットは居合いの姿勢から剣を放つ。先ほどとは違い今度は目で追うことができる速度だったが、それでも並の戦士には対処不可能な速度。
すると鈍い音と共に、バテルの右腕が落ちた。
「うわああああああああ!!」
「少しずれたか」
先の無い腕を残った腕で抑え、痛みに悶えるバテルの首を切り落とした。
ゴロッ
少し重い物が落ちるような音がし、死体からは血が吹いた後に倒れた。それを見ていたバテルの後方に居たイエロー達はお互いを押しのけながら街の方へ逃げるように走っていく。
ヘンリーも逃げたい気持ちでいっぱいだ。
(やっぱり化け物に違いない!)
息を飲んでロットを見つめていて物音を立ててしまう。
(しまった!!)
「もういい加減にでてこいよ」
ヘンリーは諦めて森から出ようとしたところで、予想していなかった第三者の声が聞こえた。
「さすがですねーロット様は、よくお気づきで」
「・・・まあ」
(ええええ!?いつの間に!?)
出てきたのはあの女の魔王だった。
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