冒険者に 3
――
狭い部屋に置いてあるベットの中でベリアが寝転がる。
「はぁーロット様・・・」
この部屋はアウッドがロッドに提供した部屋で、当然そのベットはロッドが使ったものだ。
ベリアはそこに居ない人物に思いを馳せる。最初はロットの買い物について行こうとしたが、断れてしまった。ベリアが初めてロットを見た瞬間を何度も思い出す。
ベリアはモンスターを使役する能力に伴い、見た相手の強さの判別を色でつけることができる。
自分より圧倒的に弱い人間は緑、そこから同レベルである他の魔王でも黄色程度にしか変わらないがロットは違った。
真っ赤――それはあの時に付いていた返り血ではなく、ロットの本人の持つ強さの色だと認識した瞬間に身体が震えた。
あれほどの色を見たのは今までなかった。
(どうやってあれだけの力を・・・?)
ベリアの生きた年は100や200をゆうに超える。それだけ生きても今まではっきりとした格上は存在しなかった。
答えの出ない考えに、思いが耽っていく。
――
(出てきた・・・)
黒い鞘に収められた刀を手に持ったロットが、武器屋から出てくる。店に入ったときには持っていなかったものだ。
ヘンリーは戦っていたときのロットの持つ刀を思い出す。あれだけの刀があれば、いまさら武器屋に並ぶ武器なんて買う必要はない。
普通であれば、腕の立つ剣士は武器屋で武器を買わない、というのも自分の身にあったものを鍛冶屋で作ってもらうのが普通だ。
武器屋に売っている武器は冒険を始める者や、なにか理由があって一時的に武器が使えなくなったときくらいしか利用しない。
当然、武器屋もそれだけでは儲からないために、在庫をあまり抱えず冒険者から逆に武器を買い取り、週に1度行われるフリーマーケットで生計を立てる程だ。
それだけでも厳しい時にギルドでの依頼、つまり冒険者稼業で食いつなぐというものだ。
ヘンリーが武器屋から出てくるロットの後をつけて行く。アウッドの家からは逆、街のはずれの方に歩いていく。
(・・・?今あいつはバルサックさんの家で宿泊しているはず、一人で行動する理由なんかあるかしら?)
いくら散歩に気分が向いていたりしても、それだけで見知らぬ街を一人で歩くかどうかを考える。
ないとは言い切れないけど、少ないはず。この街は相当広い、目立つ建物は街の中央にある冒険者ギルド支部くらいだ。さらにロットへ不信感を募らせていく。
ロットはそのまま歩き進み、街の門から出て行った。
(街の外に・・・やっぱり・・・そうよあの女の魔王だってこいつを見て降参したということは・・・)
(例えば、あいつがなにか独断でなにかを企んでいて、それを察した女の魔王は降参したあと下僕になると言っていた・・・)
ヘンリーの中でなにかが繋がったような感じがした。
(あとは確証さえあれば・・・)
ヘンリーの中にある探究心に火がつき再びロットの後を追いかけるのだった。
――
ロットは街から離れるために歩く。それは確認したいことがいくつかあっての事だ。
スキルについて、自分の身体能力について。今一度この身体について知る必要がある。
この世界については、常識知らずの田舎者として見られる事になったが、アウッドからある程度話を聞くことができた。
金貨と銀貨と銅貨が主流で流通していること。ろくぶきの世界とは違い、魔法の発達があまり進んでいないこと。
この国の冒険者ギルドの現状、モンスターの種類などについてと様々な事を聞くことができた。
そしてそれを踏まえた上で、ロットにこの国の冒険者ギルドに所属して欲しいと勧誘を受けた。
現在ロットは今後どうして行くか自分がどうしていきたいのかさえ決めかねている中での勧誘だった。
(持ってる金の通貨が通用するのが不幸中の幸いか)
ロットはベルトポーチに目をやる。魔王城前の戦闘で囲まれた時に使用したスキル《旋風》は刀でないと使用できないスキルだった。
そこでろくぶきでのキャラクターがアイテムを使用したり、入手するモーションは、必ずベルトポーチからの出し入れだったのを思い出し、ベルトポーチに手を入れた。
ベルトポーチは特別大きいわけではない、しかし刀が入っていた。切羽詰っていたその時は、持っていた剣と入れ替えたのだ。
どうやら自分の得たアイテムの中で望むアイテムがベルトポーチから取り出せるようになっている。
ろくぶきのときに持っていた装備品やポーション、金もある。感覚的だが、ベルトポーチに手を入れればなにがあるか分かり、選んで出すことが可能だ。
そして、ロットの持つ金貨はこの世界の金貨とまったく同じだった。だが、違う点として銀貨や銅貨というのはろくぶきにはなかった。
(この辺でいいか)
結構な距離を歩いた所で、足を止める。近くに森があるのが見えるだけで、他にはなにもないが遠くには王都がはっきり見える。
「神威」
ロットがスキルを発動させる。刀の最上位職である剣豪のバフスキルで一定時間の間全ステータスが二倍になるという効果。
リキャストタイムは一時間もあり、プレイヤーからはあまり好評ではなかった。
(いくらか、自分の身体能力をある程度しれたが、限界を知りたい)
居合の体勢から、全力で刀を振る――
見えなかった。刀を納める。
自分の振った刀にも関わらず見えない。
(動体視力は上がらないか・・・)
ろくぶきには戦闘ステータスしかなく、後はプレイヤースキルのみだ。
オートターゲットしたり、ターゲットロックなどのシステムは皆無だったため、激しく動くキャラクターを操作するのは難しかった。
必然的に、プレイヤーの持つ動体視力や反射速度などのゲームをプレイする者が持つスキルだけで賄っていくしかない。
(となると、やはり身に余るスキルは控えるべきだな)
剣豪スキルは広範囲の斬撃スキルばかりで、敵に囲まれれば別だが周りに味方がいれば間違いなく斬ってしまう。
「よし」
冒険者ギルドに身を置けばできることも増えていくだろう。
(なってみるか、冒険者)
決意したロットは早速アウッドに返事をする為に、街へ足取りを進める――
長くなってしまった・・・設定あんまりタラタラ書きたくないんですが・・・うーん




