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 1/100  作者: 祭見 ジョー
第1章 『チートな武闘家』 編
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第5話 魔との遭遇

「西門」からの景色も、辺り一面の草原地帯だった。息を吸い込むとそれだけで草の香りを感じることが出来る。


「では、」 

 

 と、歩き出そうとした時、草原の中に奇妙な生物がいるのを見つけた。

 

 犬のように見えるけれども、体毛がサファイアのように真っ青なのである。あんな生物は今まで見たことがなかった。というか、あんな色が自然界でありうるのかヨ。


「あれはひょっとしたらひょっとすると、例の『モンスター』ってやつか?」


 距離にして100メートル。決して近いとは言えないが、あの位置は洞窟に向かう過程でどうせ通らなければならない方角でもある。

 

 というわけで、思い切って近づいてみることにした。いざという時にはこの嵩張(かさば)っているバットでなんとかするし。それに健全な男子高校生が、初めてみたモンスターというものに興味が湧かないわけがない!

 

 視力を100倍にして様子を窺いながらじわじわと接近していく。が、すぐに気付かれた。

 

 距離にして50メートル。犬型だからだろうか、嗅覚が尋常じゃなく優れているようである。

 

 その後の反応はどうなのだろうかと、気付かれてもそのまま動かないでいると向こうから近寄ってきた。闘志をむき出しにしながらもの凄い速さで走ってくる。狂犬だった。

 

 しかし、何よりも俺が驚いたのはそこではない。


 予想外にもいいことに、その青い犬型モンスターには頭が2つ付いていたのである。


「マジもんのモンスターじゃねぇかありゃあ!」


 怯み、後ろにコケてしまった。その間に双頭のモンスターは一瞬で間合いを詰め、俺に飛び掛ってくる。咄嗟に目を瞑った。



……俺は今、噛まれている。


 その感触が腕にハッキリとある。


 だが、全然痛くない。


「…………」


 毛ほども痛く感じられないのだ。


 恐る恐る目を開けると双頭のモンスターが俺の腕を、その2つの頭をもって全力で引き千切ろうとしているのが見えた。しかしながら実際には甘噛みのようにしか感じられない。


 ああ、そうか。思わずビビッちまったけど、今の俺は100倍なんだっけか。


 俺は何事もなかったかのように立ち上がると、未だ腕に喰い付いているモンスターを改めて見た。ほう、宙吊りになっても離さないその貪欲さ。なかなかやるじゃねぇか。


 けど、相手が悪かったな。


「頭100個にして出直してきなさい」


 俺はその犬を無理やり腕から引き剥がすと、全力で蹴り上げた。


 そいつさ、ギャウッとか言ってたよ。



 俺は少し迷っていた。目の前にはモンスターの屍。


 いやね、倒したのは別に良いとしても、このまま死骸を放置するのはマズイだろうとも思ったのよ。なんというか……腐臭とかさ、気になるじゃん。


――しかし、どうやらその心配は杞憂に終わったようだ。動かなくなってから1分ほどたった後に、モンスターは地面へと吸い込まれていくようにして消えてしまったのである。これを「土に還った」とでもいうのだろうか?

 

 その後もしばらく様子を見てみたけど、変わった様子は何もなかった。


 では心置きなく、俺は再び洞窟へと急ぐことにしよう。



 ………。


 ……。 


 …。



その後も途中の道で何度かモンスターに遭遇した。


 翼の生えたサルとか、でっかいトカゲとか、今度は足が8本付いた犬とか。


 それでももう慣れたもんで、持ち前のステータスで何の苦労もなくあしらい、現在俺は目的地である洞窟の入口にいる。


 草原地帯をひたすらに真っ直ぐ行くと大きな岩山があって、なるほど、確かに洞窟を確認することが出来た。あの依頼主のことだから適当なことでも言ってんのかと思ったが、ちょっとホッとしたぜ。


 だがここからが本番。今度相手にするのは盗賊。今まで出会ってきたモンスターとは一味違うはずだ。


 俺は再び気を引き締め、ひとまずは聴力100倍。中の様子を窺ってみる。


『ううう……、ここから出してよぅ』


『ママ……』


 子供の声が聞こえた。まさか、攫った子供はまだ……。


 そして更に、


『すまないな、俺達が不甲斐ないばっかりに……』


『坊や、もう少しの辛抱だ。あとちょっとで街の誰かが助けに来てくれるよ』


 大人の声がした。盗賊でもないこの声はきっと、以前に攻め込んだ街の人か?


 あっ、ということはつまり『中央広場の旦那』もいるのかもしれない……。


 しかしなぜだ? 盗賊団はなぜ彼らを生かしておく? 始末する時間は十分にあったはずだ。


『ハッハッハ、誰も助けに来ねぇよ。なんせ「西広場のオッサン」が、あんたがやられたって噂を街中に知らせたって話だからな』


 今のは……盗賊の声か……ん? あいつ、今なんて言った?


『それにしても「オッサン」もエグいことするねぇ。自分で依頼しておいて裏で糸引いてるなんて。あの腐った性分はオイラにも真似できねぇよ』


『まさかテメェらとあの屋敷の主人がグルだったとは……』


 えー? マジでー? 俺、はからずも凄いこと聞いちゃったヨ!


『「グル」っていうか、こちとらビジネスでやってることだからなぁ。そんな顔されても困っちゃうぜ』 

 さっきから聞いていると、どうやら中に居る盗賊は今1人だけのようだ。


 これはチャンスか? 


 1人だけならば多分瞬殺できるだろうが……。しかし、人質を取られても困る。


 どうする……。


 その時、声。


『いやーボス、良かったっすねえ! 取引が成功して』


『取引じゃあない。商談といえバカが』


『ギャハハ! バカとか言われてんの! まあ、それにつけても長い商談だったわ。おかげでこんな長い間ガキと大人共を世話することになっちまって……』


『えー? 人身売買なんて十分取引じゃないっすか』


『プライドくらい持てと言っているんだ。今の時代、恐喝や命令だけが盗賊の仕事じゃない』


『いやー、それにしても儲かりますなぁ! 大人1人で50万イェーン、子供1人で30万イェーンなんて!』


『フン、「オッサン」には「選挙で勝つまでガキは人質にしろ」と言われているが、俺にそんなこと知ったこっちゃねぇ』


 洞窟の中からではない。これは――、


 辺りを見回してみる。


 思ったとおり。後方遥か彼方の草原地帯に、盗賊団と思しき集団がこちらに歩いてくるのが見えた。


 それにしても、そうか、子供達を生かしておいたのは人身売買の為だったのか……。


 しかし残りの盗賊達が戻ってくるのは非常にマズイ状況だ。こりゃ迷ってる場合じゃねえな。

 

 俺は、勢い良く洞窟の中に駆け込んだ。


『フィールド』⇒『洞窟』

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