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それってなんて桃太郎……。




翌日はさっそく魔動石と卵探しだ。

吉澤と梶山は今日も海へ。速水とメグはジャム作りをしながらお留守番。

そんなわけで私はリゲルと集落の跡地へ向かった。

子供たちには内緒で、リゲルは度々跡地に戻っているようだ。


『埋葬もしたかったしな』


襲ってきた魔物の現在地は不明だそうだ。

集落の跡地は遠かった。朝早く出たのにもう昼過ぎ。急がないと夜中になってしまいそうだ。

集落より上へ登る。ルオアに聞いた場所で灰色の石を拾う。触ってみれば何となく魔動石だとわかるので、片っ端から拾っていく。

まぁ触らなくてもわかるのだが。ここにある石は全部、魔動石だ。こんなにたくさんあるものなんだなと何となく感動。


あとは卵だ。

これもあっさり見つかった。ただし鶏卵ではない。山に生息する野鳥の卵で、私は見たことがなかったが、リゲルは小さい頃からよく食べているという。

卵があれば料理の幅が広がる。

問題は距離があることだ。もっと近場で収穫出来る場所があればすごく便利なのだが。色々探してみる必要がありそうだ。


魔動石と卵を持って帰路に着く。すでにこの調子だと洞窟に着くのは日が沈んだ後だろう。やはり遠い。

丘の下に魔物が見えた。


「あ、走竜ランドラだ」


ごつごつした緑の竜がこちらをじっと見ている。

草食の穏やかな気質のはずだが、人に慣れていないと違うかもしれない。

五年前に乗っていたのは爪竜ネドラで、走竜に乗ったのは一度きり。


『まずい、洞窟まで走るぞ』


言うや否やリゲルは走り出す。

不思議に思いつつもとりあえず走る。それを見て走竜が追ってくる。


「え?」


野生ってだけでこんなに凶暴なものなのか。

すごい勢いで追ってくる、その様子は荒々しい。

今にも食べられそうな雰囲気だが、走竜は草食である。今だってアカの実を食べていた。

はずだ。そのはず。だよね?


『走れ! 人を食べることはないが、かなりの力を持っている。一撃で一溜りもない!』


走りながらのリゲルの言葉に、私は足を止めた。

何だ。やっぱり草食だよね。


「そんなの、くらわなきゃいいんだよ」


向かってくる走竜に向き合う。手を翳す。

呼び出した炎の剣を構え、対峙。


『死にたければかかってこい』


魔物相手に何を言っているんだと思われそうだが、私はおかしくなってない。走竜に限らず爪竜や跳竜は、どうも言葉がわかるらしい。ただしく言葉を理解しているかはわからないが、こちらの意思はわかるのか、よく従う。以前フジムに聞いた通りに魔力を放出する。

走竜はぴたりとその動きを止めた。


『いい子』


走竜がぐるる、と唸った後、ぺたりと地に伏せた。

そっと手を伸ばし、走竜の頭を撫でる。

アカの実をもぎ取り、走竜に与えた。恐る恐る、走竜はアカの実を咥えた。


『すごい……』

『走竜は結構大人しい種類で従順なんだって』


大人しくなった走竜を連れ洞窟に戻る。

これで移動手段が手に入った。もっといればいいのに。

ノーグで野生の走竜の数は年々減っていたはずだ。絶滅ということではなく、人に飼われることが多くなったためである。

この世界では野生の竜も多そうだ。アカの実が好物のはずだから遭遇する機会はありそうだ。


『マコすげー!』


走竜を連れて帰ると、子供たちが騒ぎ出した。

興奮して走竜に触りまくるが、走竜は大人しくしている。


『マコ、英雄だったんだね!』

『……え?』


今なんと?


『おとぎ話だ』


リゲルがその内容を教えてくれた。


“昔々、あるところに”から始まるお決まりのおとぎ話。異世界でもあるんだね。


ある日老夫婦は、桃色の産着を着た赤ん坊を拾った。

元気に育った男の子は老夫婦や村人に恩返しに、悪い魔物を退治するといい出した。

心配したおばあさんは産着を利用して魔法の衣を作り上げた。

おじいさんは昔取った杵柄、魔法の剣を作り上げた。

そうして男の子は旅立ち、魔物のエサを使って竜を下僕にし、悪い魔物を退治した。

老夫婦や村人は喜び、産着の色からモモの英雄とし、崇めたそうだ。


……と、いう話を即席で作ったら、本気にされてしまったらしい。


「…………」

『マコの服は赤いから、アカの英雄だね!』


そういうことか……。

いやたしかにジャージは赤ですけど!赤っていうよりは臙脂っぽいですけど!

しかしやっぱり、ここはノーグなんだ。

760年前の、英雄出現の年。

そして私はアカの英雄。ならばやることは決まっている。


英雄の書を作ること。


直接見たわけじゃないから、どんなものかはわからない。

ただ紙を作る技術がまだ発達していないようだから、私物のルーズリーフを使うしかないだろう。

筆記用具はある。

あとは覚えている歴史を書けば良い。

あの戦争以降のことが書かれていない、というのはそういうわけか。帰ってからの未来なんて知りようがないし。

魔法や魔術の知識、覚えてる限りの組織の仕組み何かも書いておいた方が良いか。

私が何かを書き忘れてもし未来が変わってしまったら。

今の私がないかもしれない。すべてが消えてしまうかもしれない。

そうだ。もし760年の召喚の儀式を行わなかったら?

私は言葉が喋れず、魔法が使えず。

ここでリゲルに魔法を伝えることも、もしかしたら帰ることも出来なかったかもしれない。最悪、死んでいたかもしれない。


『マコ?』

『あ? ん? ごめん、聞いてなかった』

『考え事か?』

『うん、そうだね……とりあえず、お菓子に挑戦してみようか』


まずは腹ごしらえからだ。




どんぐりの粉に卵、ナッツを絞って少量取れた油分、蕪もどきの甘い汁を加え、よく練る。

熱した石で薄く焼く。

それにアカの実のジャムを挟んで出来上がり。メグの作ったジャムクッキーほどではないが、それなりに食べられる味だ。子供たちも自分たちで作ったことで盛り上がっている。

そのうち小麦粉やバターも作られて、菓子文化も発達していくのだろう。


「あ、まこっちゃん、これ、翻訳してあげてー」


メグから薄い紙の束を受け取る。お菓子のレシピのコピーだ。インターネットで人気の料理サイトのものらしい。


「これがあればメグたちが帰ったあともお菓子作れるかもしれないしー」

「そっか。ありがとう」


フルーツタルトやシュークリーム、クッキーやスポンジケーキにマドレーヌ。

これが元でケーキ屋が発展していくのかもしれないなぁ。

今ここで取る行動すべてが、未来のノーグにつながっていくのだろう。

でもそれってどっちが先でどっちが後なんだろう?

今の私は過去のノーグ召喚の経験がなければ成り立たず。

だけどあの経験は今回の召喚が成り立たず……?


あれ?





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