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海へ行こう!


朝食にトマトスープを作った後、リゲルに魔動石のことを尋ねた。


『灰色の石? そこら中にあると思うが』


聞き方が悪かった。いやしかし他にどうやって聞けと。

魔動石という単語も、魔法という単語もない世界。

魔動具があるとは思えない、が。

昨日の食事作りでは、リゲルが魔法で火を起こしていた。

照明器具はもちろんない。松明だし。


「うーん……」


私の目には普通の石と変わりなく見える。違う点は動力として使えるかどうか、だ。それを言葉で説明するのは難しい。見せるにしても目の前にあるわけでもない。

一つ目は自分で見つけ出さないと、ってことか。


『ねぇ、リゲル。マコの言ってる石、ルオアのコレクションの中にないかなぁ?』

『ルオアのコレクション?』

『うん。ルオアね、色んな石を集めてるの。でもルオアはケチだから、わたしたちにはさわらせてくれないの』


色んな石のコレクション、ね。そういえば私も、子供色々集めてたっけ。

ルオアも色や形の面白いものを集めているのだろうか。仲間にも触らせないものを、余所者である私に見せてくれるか疑問だが。


『ねールオアー! コレクション見せて―!』


カニャが大声で叫ぶ。ルオアは眉を顰め、首を振った。


『いやよ、カニャ、触ろうとするじゃない』

『触らないから、いいでしょ?』

『嘘ばっかり。この間もそう言ってすぐに触ろうとしたじゃない』

『ルオアのケチ!』

『ふん、ケチで結構よ』


言い争いを始めてしまった。置いてきぼりだ。


『えーっと……あのね、魔法の石を探してるの。協力してもらえないかな』


ルオアは小学校低学年くらいの見た目だが、精神的にはもう少し大人な感じがする。話せば分かってくれそうだ。


『魔法の石?』

『そう。魔動石っていうんだけどね。それを使えば便利な道具が出来るっていうか』


魔動具を作るときに使う小刀も、筆箱の中に入れっぱなしになっている。魔動石があれば、魔道具を作ることは可能。記憶が正しければ、であるが。


『……待ってて』


どうやら見せてもらえるらしい。安堵の溜息が漏れる。

持って来た木箱を開けると、色んな形の石が入っていた。よく見ると天然石も交じっているようだ。


『これ』


その中の灰色の石を一つ取り出す。

一見大きめの普通の石だが、かすかな魔力を感知できる。


『この石がいっぱい欲しいんだけど、どこにあるか覚えてる?』

『……その石は、集落を登ったところにあったものだわ』


しまった。

ルオアは悲壮な表情を浮かべる。子供らしくない表情。

集落はすでになく、その時に家族を失っているはずだ。小さな子供にこんな表情をさせてしまうなんて。


『ごめん』

『気にしないで。よくあることよ』


よくあること。

ここは子供からこんな言葉が出てくるような世界なんだ。


『でもこれからは違うわ。魔法があれば、魔物になんて負けない。もう誰もなくさない』


こんな時、何を言えばいいのかわからない。

私が困惑していることに気付いたのか、ルオアが笑顔で顔を上げた。


『ね、この石で何が出来るの?』


しかし、二十近く年下の子供に気遣われるとは……。


『冷蔵庫が最優先かな。照明とお風呂はまぁ、何とかなってるし』

『冷蔵庫?』

『うん、食べ物を冷やす箱、かな』


ルオアが首を傾げる。百聞は一見にしかずだ。作ったものを見ればわかる。

他の場所で魔動石がないかどうか、探してみよう。





本来なら交通手段には馬があったらしい。が、集落を襲われたときに全滅してしまっており、五人は徒歩で海に向かう。先日の川の辺りから北上すれば海だ。

青い空、白い砂浜、透明度の高い青い海。

木造の家が数軒、それも崩れかけ。すぐに沈みそうな木の小舟。破れた網。


「うわぁ……」


この海の集落も魔物に襲われ、どこかに避難したらしい。リゲルの話だと塩はこの集落の貯蔵庫から自由に持って行って良いとのこと。正直話がついているのか疑問である。しかし怖くて聞けなかった。


崩れかけの家の地下部分に、その貯蔵庫はあった。中には塩と乾燥した海藻。これも頂くとしよう。何というか、泥棒気分なんだが。


「まこっちゃん! 泳ぎたい!!」


メグがはしゃいだ声を出す。

季節は春。水温も低い。さすがに寒いんじゃないだろうか。


「風邪ひくよ」

「えー……じゃあ、夏になったらまた来ようね?」

「そうだね。その時は水着も用意しないと」


服のままだと泳ぎにくいだろう。浄化があるから着替えはいらないにしても。

水着自体はなさそうだから、代用品になるものを探さないと。


「……ヨシ、行けよ」

「うー…やっぱり?」

「何?」


梶山に押し出されるように、吉澤が前に出る。不貞腐れたような顔をしている。


「せんせー、ちょっと素潜って来る」

「え?」

「サザエとかアワビとか探しに行ってくる」

「ヨシなら男だからパンイチでもオッケーだろ」


まぁそれはそうなのだが。


「素潜りはよくやってるから大丈夫ー。行ってくるね」


銛の代わりに剣を持ち、吉澤は海に飛び込んだ。

その間に他のメンバーで海周辺の食料探し。浜大根やおかひじき、カメノテなどを発見。メグと速水は海で膝まで浸かり、遊んでいる。かわいらしい。

私は梶山と岩場に腰掛け、休憩。


「梶山ってあんま喋んないよね」

「……第一声がそれか」


梶山の声は低いから、ちょっと聞き取り辛い。


「別に、喋んないってわけじゃねーよ」


若干不貞腐れたように言う。無表情かと思ったが、そうでもないのか。

クール、大人、落ち着いてる、取っつき難いし冷たい、だけどそこがイイ!などと評判な梶山だ。顔はいいけどチャラい、でも話しやすいし優しい、と言われている吉澤との合わなさそうなコンビが女子に人気だ。私が高校生の時は吉澤タイプは少なかったが、年々増えているような気がする。逆に梶山タイプが減っている。


「……先生、結婚するってマジ?」

「え?」

「プリンスホテルのウェディングのとこで、及川といるところ見たって」

「あぁ……あの時かな……」


一瞬私のことかと思った。及川先生みっちーと春日チャンの結婚式の打ち合わせで、先日プリンスホテルに行ったのだ。私は春日チャンの希望で友人代表諸々をすることになっている。


「来月だし、早く帰らなきゃ」


ジューンブライドなのだ。ただしジューンブライドに拘ったのはみっちーで、春日チャンではない。それを聞いた私は大爆笑し、みっちーに睨まれた。

梶山が何か言おうとして、口を開く。が、それはメグの大声で中断された。


「まこっちゃーん! ヨシ帰って来たよー!」

「今行くー!」


メグがぶんぶんと手を振っている。おぉ、大漁だな。


「よし行こう。……梶山?」

「……何でもない」



カメノテとわかめの塩スープ、各種貝の浜焼き、茹でた芋などで夕食をとった。

相変わらず塩味のみだが、食材が増えたことでだいぶマシな食生活になった。漁村なのに魚醤がなかったのが残念だ。


「あ、そーだ! お菓子忘れてた!」


メグが紙袋からお菓子を取り出す。


「まだ大丈夫かなぁ」


パウンドケーキとジャムサンドクッキーのようだ。それを少しずつわけて皆で食べる。


『こんなおいしいもの、食べたことない』


リゲルや子供たちは初めて食べたお菓子に感動しているようだ。

クッキーは少し湿気ていたが、それでも十分美味しかった。


「何て言ってるの?」

「美味しいって。こんな美味しいものは初めてだって言ってる」

「ほんとー?」


自分の作ったものを褒められて嬉しそうだ。


「レシピはあるから、材料さえあればもっと作れるのにね」


残念ながら小麦粉もバターも卵もない。卵なら探せばありそうだが、小麦粉とバターに関してはお手上げだ。


「あ、でもどんぐりもどきの粉ならあるか」


森で収穫したどんぐりもどき。これは干して潰して粉にしてある。小麦粉よりもアクが強く、クセもあり、もさっとしているが、小麦粉の代用品に出来ないこともない。


「砂糖もあるし、果物もある」


明日の行動が決まったな。魔動石と卵探しに決定である。




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