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人はどこだ。いますぐ出せ。むしろ塩。

ああうん……本当にどうしようか。

今回はどうやら多目的室ごと召喚されてしまったらしい。だけど周りに人はいないし、魔方陣もない。誰にどうやって召喚されたのだろうか。


「何これ……」


呆然と呟く女子生徒。

みっちーのお遣いなら進学科だろうか。見覚えがない。

少々ぽっちゃりとした体型に眼鏡をかけ、真面目で大人しそうな印象だ。

この学校は生徒数がかなり多い。全生徒を覚えるなんてとてもじゃないが無理である。受け持ちじゃないとなおさら。


「あー……」


どう説明したものか。確実におかしい人と思われる。


「まこっちゃん! 何か来るよ!!」


わー……魔物来た……。肉食、凶暴な魔物だし、とりあえず討伐するしかないよね。

多目的室から飛び出して、魔記号を放つ。


「Щ/Ю:Г……Я;Я;Я」


始末し終えたので多目的室に戻る。グロかったけど大丈夫かな。

四人が唖然として私に注目。そんな目で見ないで……。先生はおかしい人じゃありません……。


「何、今の……」


ぽつりと吉澤が呟いた。言葉にしたのは一人だが、きっと皆そう思ってるよね。


「あれは魔物。私が使ったのは魔法」

「は?」


だから頭おかしくなった?みたいな目で見ないでくれないかな、梶山よ。


「信じられないとは思うけど、私はおかしくなってないし、どっきりでもないよ。ここは地球じゃない異世界。魔物がいて魔法もあるファンタジーな世界」


異世界がノーグだけとは限らないし、ここがノーグという保証もないけど。

魔法は使えたし、見覚えのある魔物だし、たぶんノーグなんだろう。

ということは、城へ向かえばすぐに帰ることが出来る。まぁ、都合良く精霊の怒りの日が近いかどうかは疑問だが。

滞在日数がどれだけ長くても、戻れば元の日付、時間である。問題ない。


「もっかい言うけど、私おかしくなってないからね? 実は高校時代にここに来たことがあるんだよね」

「は?」


梶山、は?って言うな。


「前は国を助けてほしいって召喚されたんだけど……今回は人がいないんだよね」


どうなっているのだろう。窓を開け、辺りを見回してみる。

周りに建物はない。広がる草原、ぽつぽつある木。懐かしいアカの実もある。


「とりあえず人を探さないとなー……現在地がわからないと城にも行けないし」

「……よくわかんねーけど、バイト遅刻だ」


あ、バイトの遅刻は気にするんだ……。まぁ給料に響くもんね。


「大丈夫、戻ったら時間経ってないから」


五年前私もその点を心配したけど、行方不明扱いにはなっていなかった。不思議なことに滞在中変化したものはほとんど元通りだった。


「マジで? 良かったー」

「それでどうやったら戻れるの?」

「城の魔方陣から戻れるんだけど、まず城を探さないと」

「え、それって危なくない? さっきみたいなの、まだいるんでしょ?」

「まぁいるけど、そんなに強くないから大丈夫」


四人を守りながらくらいなら、私一人でも大丈夫だ。

問題は地理。それからもし距離があればさすがに私一人じゃ厳しい。二十四時間くらいなら良いのだが。


「とりあえず近くに人がいないか見てくるから皆はここにいて。結界張っていくから出なかったら大丈夫だからね」


多目的室全体に結界を張り、外に出る。

窓から見た風景と変わらず、建物はゼロだ。城に近いことを願う。

精霊の武器を取り出してみる。助かった、どうやら使えるようだ。元の世界に戻った時試してみたのだが、その時は使えなかったのだ。魔法もしかり。やはり魔力が存在しない世界だからだろうか。

剣を片手に歩く。ついでに食料も調達して行こう。どうせならピグゥが出ないかな。

迷っても困るから、目印になりそうな木を目標に歩く。

進んで行くごとに周りを見渡すが、一向に建物も人も見えて来ない。

高いところに行けば何か見えるかもしれないが、辺りにそれらしきものはない。

木に登ってみるか……。


「よ、っと」


登りやすそうな木を選び、幹を利用し上へ上へと上がる。

登り切り、辺りを見渡す。

方角はわからないが、多目的室の方向に小高い丘があるようだ。

残念、反対向きに歩けば良かったか。

しかし肝心の建物はないし、人も見えない。ノーグはもともと田舎だったし、不思議ではないが。

とりあえず一旦戻ろう。

電波の入らない携帯は夕方の六時を示している。

食料は……アカの実しか見当たらない。とりあえずこれで良いか。一日くらい抜いたって死にはしない。

アカの実を採っているとピグゥが数匹現れた。私意外と運が良いのかも。

剣で首を刎ねる。血を抜いて皮をはぎ、捌いて持ち帰らないと、生徒の前でやるとドン引きされるだろう。

しまった……時の魔術、教えてもらっとけば良かった。保存出来ないじゃないか。腐り切る前に五人で食べ切れる量じゃない。干し肉でも作ってみるか。


戦利品しょくりょうを持って多目的室に戻った。


「ただいまー」

「遅いよー!」

「ごめん、ごめん。肉と果物採って来たから夕飯にしようか」


残念ながら調味料ないけど。せめて塩胡椒が欲しいな。


「せんせー、それより喉渇いた! ペット空になったし!」

「はいはい」


空のペットボトルに水を満たす。


「すっげ、これ魔法?」

「そう。あ、たぶん皆も使えるよ」


異世界を渡れば魔力が多いって話だし、まぁ水が適正かどうかは別として。

さっそく試す吉澤。


「皆今まで何してたの?」


私が戻るまで二時間ほどあったはずだ。

梶山は寝ていたのだろうと、見ればわかる。私が戻ってからもぴくりとも動いてない。


「携帯いじってた。メールと通話は出来ないけど、iモードは使えたよ」

「カジ寝てるし、俺は携帯でゲームしてた。充電器あるし」


多目的室のコンセント、使えるんだ……。そういえばそうだよね。最初から電気ついたままだったし。どこから来てるんだって話だけど。


「私も携帯です。先生、これからどうするんですか?」

「建物も人も見当たらなくて。朝になったらまた行ってくるから。とりあえず……ごめん、何さんかな?」

「あ、私は進学二年の速水です」

「メグは恵美えみめぐむ!メグって呼んでね。速水何?」


メグが乱入してきた。どうやらこの二人も初対面らしい。進学と商業なので不思議じゃないが。


「速水菜々子。名前嫌いだから速水って呼んで」

「え~……!」


メグは不満そうだ。人懐っこいメグは大抵相手をあだ名で呼んでいる。私以外の教師にも気安いフレンドリー


「皆顔見知り?」


そういえば昔ここに来たときは、自己紹介したっけ。懐かしいな。


「二人とも目立つし、梶山君は同じクラスなので」


あぁ、うん……問題児だしね。騒がしいし。


「カジとヨシは有名人だしねー! メグはうるさいから目立つだけ!」


あ、自覚あるんだ。


「速水ねー。俺のことはヨシって呼んでー」


吉澤はそのまま名字からとってヨシと呼ばれている。一応教師なので私は名字で呼んでいるが。

メグの場合は……あまりにもメグメグいうので移ってしまっただけだ。一人称が自分の名前の子って最近多い。


「煩い」


煩くて目が覚めたようだ。欠伸をしながら梶山が移動して来た。


「おはよう。とりあえず夕飯にしない?」

「さんせーい!」


とは言っても道具も材料も少ない。

ピグゥの肉が美味しくても、調味料がなければ引き立たない。多目的室に鍋があるはずもなく、メグの弁当箱が小さな鍋の代わりになるくらいだ。他は学食派だし、そもそも速水は帰宅途中ではなく鞄すら持っていない。

肉を直火で焼き、アカの実をそのまま食べる。それしかない。

素材自体は美味しいけど、これじゃ……しかしどうしようもないし、今日はこのまま超薄味の夕食となった。早く人を見つけなければ……!


カーテンを外し、男女別に包まって就寝した翌朝。

朝食にアカの実を食べ、探索に出かけるその前に。


「一応、魔法教えておく。だけど念の為、ここから出ないようにね」


喉が渇いたとき、私がいないと水がない。それはさすがに不便だ。

結果として水の魔法が使えるようになったのは吉澤とメグと速水。自分が使える魔法以外も覚えていて本当に良かった。五種類試せば何かしら魔法が使えるものだ。水が使えない梶山も他の属性ならすぐに使えるようになった。五年前は全員水魔法が使えたが、異世界人全員というわけではないようだ。

そうこうしていたらもう昼だ。

味の薄いピグゥの肉を食べて、出掛けることにした。生徒は皆お留守番。梶山が着いて来たがったが、却下。


「今日は反対側に行くか」


昨日見た小高い丘に行こうと、昨日とは反対向きに歩き出す。

今日も魔物は見当たらない。討伐の時にしか出歩いてないし元々魔物がいないのか、時期的地理的なものなのか、

判断つかない。

念の為剣は手に持って置く。

丘に辿り着く前に、魔物に遭遇した。四足歩行の獣型。食肉用じゃない、残念。素早く切り捨て、革を剥ぐ。ついでに牙と爪も。もちろん食べるためじゃなく、売るためだ。町があったら売ってから調味料を買いたい。塩が欲しい。

数匹屠ってからおやつにアカの実を食べる。他の実も何かないかな。近くに森とか海があれば食料を探せるのだが。

辺りを見回すが、アカの実以外ない。いや好きだけど、好きだけどさぁ……!

不満はあるがとりあえず丘に行こう。それから考えよう。町があるかもしれないし。

丘の手前にアカの実の群生、そして大量の魔物。


「何これ。面倒臭い」


剣で一々斬り殺す数じゃない。

一番楽なのは火の魔法か。森じゃなくて草原だし、少しくらいの自然破壊は許容して下さい。

大型の炎ですべての魔物を燃やし尽くす。食用じゃない魔物の死骸なんぞいらん。


「よしっと」


さて、丘を登りますか。

丘を見上げたところで、懐かしい少女の姿。風に靡く銀色の髪。


「リゲル!!」


私は思わずその名を叫んだ。









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