ある卒業パーティーにて
お目汚しに、何のひねりもない、さらっと読める短編です。
「お前のような悪女とは今日をもって婚約を破棄する!!
そして我が最愛と共に歩むことを宣言する!!」
目の前で舞台俳優のように声を張り上げていらっしゃるのは、我が国の王太子殿下でございます。
そして殿下の真向かいで糾弾されている女性は、わたくしの姉でございます。
悪女って、姉が??
え?殿下の最愛の君に嫌がらせを?
ノートを破った?
カバンを庭園の噴水の池に投げ捨てた?
最愛の君を階段から突き落とした?
いやいや、無理がありますわ、殿下。だって姉ですわよ?
そんな分かりやすい嫌がらせ、姉がするはずありませんわ。
するならするで、もっとこう、色々とねぇ、ありますわよね、やりようが。
姉が本気になったのなら、今頃は令嬢のご実家の男爵家などなくなっているでしょうに。
殿下の腕に絡み付いている最愛と呼ばれたご令嬢は、王立学園で名を馳せている(もちろん悪い意味で)男爵家に引き取られたばかりだという、市井でお育ちになられた方です。
見た目は大変に可愛らしい方ですが、生まれた時から淑女たれと教育されてまいりました者からは、到底受け入れられないその言動の数々。
とても浮いた存在であったことは間違いございません。
ですが、殿方にとっては違ったようで、その淑女らしからぬ言動こそが魅力だと、大変好意的に受け入れられていたのです。
殿下の真後ろに侍っている御三方、宰相を務める侯爵の嫡子(実はわたくし達姉妹の兄です)、騎士団長様のご次男の伯爵令息と、平民とはいえ裕福な商家のご子息ですわね。
お三人共に婚約者やその家族、あるいはご自身の当主から、最後通牒を突き付けられているとかいないとか。
もちろん件の男爵令嬢絡みです。
「ずっと大切な人よ♡」と囁かれ散々貢がされた挙句、この国の独身男性最上位の殿下を射止めた途端、アッサリ振られたにも関わらず、相思相愛の殿下と令嬢の未来を切り開くべくお仕えするのだと宣ったのだとか。
「殿下が何を仰っていらっしゃるのか、わたくしには全て身に覚えのないことでございますが、殿下のお気持ちはしかと承りました。
ですが、この婚約は、王家より我が侯爵家へとお命じになられたもの、殿下もご承知でいらっしゃるかと。
わたくしの一存ではどうにもなりませんわ。
この場でお話になる前に、国王陛下のお許しと、宰相である父への通達が必要かと。
そして、わたくしの行動記録は、もったいなくも陛下から護衛にと付けていただいた騎士様二人と王妃宮の侍女二人が、如何なる時も目を離さず見守り下さり、それを毎日欠かさずお城へと報告されておいでです。
わたくしがしたとされた行いは、そちらで確認していだければよろしいかと。」
ほらほら、姉が正攻法でまいりましたわよ。
「不敬だぞ!殿下の婚約者だというだけで、お前はただの侯爵家の娘!私の妹の分際で!」
まあ、兄が口を挟みましたわ。
「おやおやおかしいですわね。
お兄様は確か、勝手に同格の家門の令嬢との婚約を破棄した件で、宰相たるお父様から自室での無期限謹慎を言い渡されていたはず。
まさかこの場でお会いするとは思いませんでしたわ。」
ほらほらほら、止せばいいのにお兄様ったらお姉様に舌戦で勝てたこともないのに、かの男爵令嬢の前だからって意気がって大恥ですわよ。
「そういうところだ!!お前のような小賢しい可愛げのない女と、誰が一緒にいたいものか!
私の最愛は、私を癒し、愛し愛される女でなければならぬのだ!!」
え?殿下、政略結婚ですわよね?
お妃は公務も政務もありますのよ?賢くなくては務まらないのでは?
お妃候補達がふるいにかけられ、数多の令嬢が脱落する中、唯一残れたのが姉だと貴族なら誰もが知っていますわよ?
だいたい今代のお妃教育が厳しいのは、殿下がボンクラ…んんっ、ポンコツ…コホン、んーそう!天真爛漫にお育ちになられたからで、それを補うためなのですもの。
「侯爵令嬢の身分を振りかざし、可憐な男爵令嬢を陥れるような女は!未来の国王陛下であらせられる王太子殿下にはふさわしくないっ!!」
今度はご自分こそ騎士団長様のご威光をかさにきた伯爵令息が、護衛騎士よろしく殿下と男爵令嬢を庇うように前に出て喚き出しました。
あれですわね。姉が男爵令嬢に、基本中の基本の最低限のマナーを注意したことをおっしゃっているのですね。
そういえば次男の伯爵令息は、騎士団長様が師と仰ぐ、前騎士団長様の奥様のご実家に婿入り予定だったものを、件の男爵令嬢との関係が不適切だとして白紙になったのでしたわね。
騎士団長様ご夫妻が、前騎士団長様と奥様に、涙を流されながら土下座したとかしなかったとか。
あら、騎士団長様が騒ぎを聞きつけたのでしょうか。
敵を殲滅せんとばかりな憤怒の形相で登場なされました!
ああっ!無言のままご次男を殴り飛ばされましたわっ!!
まあっ!コソコソと隠れるようにご次男の後ろにいた商家のご子息も巻き込まれました!
わたくし初めて人が吹っ飛んでいく様を拝見しましたわ!
そうそう、商家のご子息も、ご商売の販路を貴族へと願ったご実家の希望で、王都に商会を持つ子爵家へ養子となるお話が進んでいたのでしたわね。
その子爵家は我が侯爵家の傘下であったために、早々に見切りをつけられ、貴族への口利きも一切しないと絶縁されたとか。
ご実家は子息に大層お怒りになられて、学園卒業後は勘当だそうですわ。
わたくしを含めギャラリーの乙女達は、イケオジでいらっしゃる騎士団長様が、倒れ伏した二人をまとめて引きずっていく後ろ姿を、只々うっとりとお見送りしました。眼福。
まあっ、殿下とお兄様のお顔の色が真っ青ですけど。
あら、イケオジ騎士団長様と入れ違いに、我が父である宰相閣下が何やら大人数で入場して参りました。
護衛の騎士にしては多いような?文官のお仕着せを身にまとった方も数名いらっしゃいますし。
父が兄へとチラリと視線を向け、眉間にシワを寄せました。これは父が激怒している証拠です。
お兄様、これは廃嫡間違いなしですわ⋯せめて貴族籍が残ると良いですわね。
兄の真っ青のお顔が更に色をなくしました。もう真っ白です。
あら、王族専用の扉からは護衛の近衛騎士を先導に、国王陛下がご入場されましたわ。
まあ、この場にいた者全てが礼をもってお迎えいたしますのに、王太子殿下をはじめ愉快な仲間達(男爵令嬢と愚兄)は、状況が飲み込めず立ち尽くしておいでです。
不敬ですわよ。
陛下が礼を解くようにおっしゃるので顔を上げますと、陛下の後ろに控えた父が文官から書類を受け取り、陛下へと手渡します。
「本日をもって、王太子は第二王子とし、これに伴い第一王子は、王位継承権を失うものとする!」
陛下のよく通るお声が会場中に響き渡ります。
そして通告は済んだとばかりに踵を返され、護衛騎士を引き連れその場をあとにされました。
残された元王太子殿下と愉快な仲間達が喚き始めましたが、父が陛下の印璽のある文書を読み上げることで制しました。
「王命に背く行為は許し難い。
本来であれば不敬罪で処すところであるが、学生の身であることを考慮し、第一王子は王位継承権剥奪の上、辺境王国軍へ一兵卒として従事を命ずる。
並びに此度の事案に関わった者達には、各家門における処罰の後、男子は生涯を第一王子に付き従い、辺境王国軍へ従事せよ。
女子は神に仕える修道女として誠心誠意奉仕をせよ―――」
まぁ穏便でもあり妥当とも言えますわねぇ。
あまり厳しい処分を科せば、被害者の姉の生家の我が侯爵家も罪に問われてしまいますし(兄のせいで)。
ポンコツ⋯んんっ、もうポンコツ王子でいいですわね!
ポンコツ王子とお仲間たちは、それぞれ文官の皆様から処罰と今後の行程の説明を聞かされ、叫び始めたところで騎士様方に拘束されるようにして退場なさいました。
楽隊が演奏を再開させ、お仕着せの給仕たちが飲み物をのせたお盆を持ち、優雅にホールを回り始めました。
何事もなかったかのように、学園卒業を祝うパーティーが続きます。
父が姉をエスコートしながらホールをあとにする際に、姉と目が合いました。
茶目っ気たっぷりに軽くウィンクをしています。
お姉様、嬉しそうですわね!
この後の王家との婚約不履行に対しての話し合いで、父と姉はへりくだっているように見せかけて、ポンコツ王子と愉快なお仲間たちが仕掛けた冤罪による名誉毀損への賠償も、全てにおいて自分たちの希望を通してくるに違いありません。
次期女侯爵として、姉は我が侯爵家と領地に益々の繁栄をもたらすことでしょう。
お姉様、学園とポンコツ王子からのご卒業おめでとうございます!
お読みいただき、ありがとうございました。




