猫背の夜
仕事が終わった。
一度周囲を確認してから、職場を後にする。
猫背になる自分の後ろ姿が、鏡を見ていなくてもなんとなく分かる。
帰る足が、自然と帰路から逸れていく。
角を曲がってみる。
淡い紫のネオンが優しく光る店。
気になって、ドアを開けてみる。
こじんまりとしたバーだ。
まだ席数も埋まっていない。
静かな雰囲気にほっとして、中に入る。
白いコースターを置かれる頃には、少し肩の力が抜けていた。
飲み物の冷たさがグラスから伝わってくる。
小さく伸びをする。
もう一口飲んでいると、コースターの文字が目に入る。
『確認しましょう』
ちょっと笑う。
でも。
嫌な音が聞こえた気がした。
はっとして、振り返る。
誰もいない。
一杯だけ飲んで、店を出る。
何度も振り返りながら家に帰る。
玄関のドアを慎重に開けて、閉じる。
隣からやけに重たい足音が近づいてくる。
いつも、自分の影のように音がする。
玄関の鍵は、掛けた。
窓も、閉まっている。
もう一度確認する。
部屋の中の移動と共に、隣から音がついてくる。
窓の鍵は、かかっている。
でも。
カーテン裏のコンセントをじっと見つめる。
やっぱり。
しばらく考えてから、そっと姿勢を正す。
深呼吸を一つ。
それから、スマホを取り出した。
手が、うまく動かない。
『とうちょうき しゅるい』




