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3-4、解毒

 月の間まで銀華を運んで、灰夏は銀華を寝台に寝かせた。

 毒出し用に、利尿作用のある茶を真美子に淹れさせる。

 そのほか、解毒作用のある食べ物を選んで、粥に混ぜて炊き込む。

 十五穀米と、ネギとトウモロコシに麦、カブやセリ。

 今は中毒で呑み込みもしづらいだろうから、粥は柔らかめに炊いて、野菜はくたくたになるまで煮込んである。

 粥に入れる野菜を別個に茹でてもよかったのだが、野菜の栄養が水に溶けだす性質を知っている灰夏は、粥と一緒に野菜を炊いた。

 香りのある野菜には、解毒作用があるものが多い。

 灰夏が寝台に寝る銀華を起こし、土鍋を寝台のわきの机に乗せた。

「銀華、苦しいだろうが、食べてくれ」

「もう、お茶だけでタプタプですよ」

 冗談を言う余裕はあるようで、灰夏は安心する。

 先ほどまで、医者に薬を作らせ、真美子が入れたお茶を飲んでいたため、銀華の腹はお茶でいっぱいだった。

 しかし、お茶と薬だけではどうにも落ち着かず、灰夏はおのずから料理を作った。

 食べなければ体の毒は抜けない。毒は体力との勝負でもある。

 灰夏は寝台に座り、レンゲで土鍋から粥を掬って、銀華の口に入れてやる。

 小さな口がモクモクと動く。こくん、と飲み込むのを見て、灰夏はほっと胸をなでおろした。

 食欲はあるらしい。

 多少嚥下のしづらさはあるようだが、これなら回復も早いだろう。

「銀華、苦しくないか?」

「大丈夫です。でも、灰夏さま」

 あのビワの茶を渡したのは、誰なのだろうか。

 銀華の言いたいところが分かったらしく、灰夏がもう一口、銀華の口にレンゲで粥を運びながら、

「ああ。あのビワは、佐賀どのが父上に渡したらしい」

 犯人が分かれば、多少なりとも対処はできる。

 佐賀。灰夏の母を殺した人間。

 これ以上、無為に人を殺させてなるものか。

 銀華の心中を察し、灰夏が銀華の口元を手巾で拭った。

「今、佐賀を取り調べているところだ。のちに、俺も直々に話を聞く予定だ」

 時に、と灰夏が改まる。

「解毒の水とは、水神なら誰でも作れるのか?」

 銀華はフルフルと首を横に振った。

「毒の種類が分からねば、解毒の水は作れません。今日はビワの毒。前回は珈琲の毒に効く水を加護の力で調合しました」

 やはり。

 銀華は、解毒の水を作り出すために、様々な毒を学んだ。だから、灰夏すら知らない毒を、知っていたのだ。

「ソナタは、努力家なんだな」

「灰夏さま?」

「いや……佐賀の取り調べが終わったら、またソナタと料理屋に行きたい。もっとソナタを、知りたい」

 柔らかな笑みに、いつの間にか銀華の心が溶けていく。

 おだやかな時間が、愛おしい。このまま、事件は解決に向かうかのように見えた。


 しかし、容疑者として取り調べされていた佐賀は、その何日か後に食あたりに見舞われ、帰らぬ人となった。

 検死の結果、体に特に異常は見つからなかった。

 変わった点と言えば、数日前に食べた食事が消化されていなかったことと、口内と食道が焼けただれていたことくらいだった。

 

 この件で殺人の容疑者として上がったのは三人。

 単なる食あたりにしては出来すぎている。ゆえに直近で関わった人間が取り調べられたのだった。

 一人目が、羊肉を共に食した火神の当主――火之だった。

 銀華と灰夏は、ひとりひとりに事情を聞いて回ることにした。最初は火之だ。

「わたしたちは確かに、羊肉を共に食べましたよ。しかし、羊肉を食したのは七日前。今さら羊肉で食あたりなど」

 一番怪しいのが火之であるが、確かに同じ羊肉を食した火之がぴんぴんしているところを見ると、どうにも犯人とは言いがたかった。

 二人目の容疑者は、肉を提供した木神の当主、緑詩である。

 また、緑詩は、羊肉を提供しただけではなく、佐賀が死んだ四日前に、共に酒を酌み交わしていたのだ。

「まさか。わたしは知りませんよ。氷の酒でいいものが手に入ったと誘われたのです」

「氷の?」

 銀華が聞き返すと、緑詩が慌てて付け加えた。

「佐賀どのは、氷の酒を、火神の当主と飲んだと自慢しておりました」

「なるほど、して。その酒はどんなものだ?」

「はい。ヨウロプの蒸留酒を、氷で割るのです。夏に氷が手に入ることを、佐賀どのは私に自慢したかったようです」

 緑詩も同じ酒を飲んだのなら、酒に毒はないだろう。

 ならば、酒自体に過剰免疫反応アレルギーがあったのだろうか。

 いや、過剰免疫反応があったのなら、即日身体に出るはずだ。

「ありがとうございました」

「ああ。わたしは、捕まるのですか?」

「いえ、まだそこまではわかっていませんので、大丈夫かと」

 銀華は緑詩に礼をしてその場を去った。

 最後の容疑者は、佐賀に仕えていた使用人の無人むにである。

 名前からして、佐賀がだいぶ非道な人間であることが伺えた。

 この使用人に名を与えたのが、ほかならぬ佐賀なのだ。

「わ、わたしはなにも! 何年も前から胃の腑がよくないと仰っていて。最後の三日は水すらも飲めずに。ああ、ああ、わたしの旦那さま……」

 殺す動機が一番強いと思われたが、使用人とは、幼き頃から主人に雇われているため、外の世界を知らない。どんなに非道な主人でも、忠誠を誓えば裏切ることはない。

 しかし、なにか引っかかる。

「灰夏さま、今日はもう、帰りましょう」

「ああ、そうだな。無駄骨だ」

 そうでもない。

 なにか、なにかきっかけさえあれば、謎が解けそうなのだ。

 検死の結果、胃の腑からは消化されていない羊肉を始め、この七日で食べた食物が検出されている。

 そして、口内と食道のやけどのただれ。

 あと一歩のところまで、来ている気がするのに。

 


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