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1-12、加護の剣

 貴美子たちがいなくなると、銀華は人だかりに囲まれていた。

 真美子は人だかりに押し流され、「銀華さま、銀華さま」と銀華の名前を必死に呼んでいる。銀華も、少しでも早く真美子のもとに行きたいのだが、何分人が切れない。

「土子さまのお姉さんだもん、やっぱりすごいんだと思ったよ」

「や、土子……さまとは血のつながりはなくて」

「そうなの? でも、ご両親も鼻高々でしょ。姉妹そろって土神の次期当主候補さまに嫁入りですし」

 各々の神々に囲まれて、銀華はおろおろしている。

 藍の間の外にまで人だかりができていて、次期当主候補の神嫁の注目度を表しているようだった。

 銀華は、自席から一歩も動いていないのに、かわるがわる向こうから話しかけられるのだ。

 真美子が、ようやく銀華のもとに戻ってくる。鬼の形相で人混みをかき分けてきたのだ。

 いま銀華が話しているのは、火神の当主だった。

「でも、加護の剣、興味あるなあ。あっちに灰夏さまがいたから、実際に見せてほしいんだけれど」

「も、申し訳ありません。あれは、そう簡単には」

 あの茶席でああもやすやすと見せたことを後悔する。

 貴美子に教えてもらったことによれば、あれは封じられた剣だと言っていた。ならば、その素性がわかるまで、あいまいに濁すのが得策だろう。

「なんだ、そう言わず。ソナタはまるで、生け簀の中の魚のようだな。わたしは最近、生け簀を作ったが、ソナタのように逆らってばかりだ」

「も、申し訳ありません。火神の当主さま」

 銀華がいくら次期当主候補の神嫁とはいえ、他の神の当主に無礼は働けない。

 しかし、火神の当主は穏やかな人間らしく、その話はその場でお開きになった。

「あ、火の当主」

 渋る銀華を見かねて、貴美子がこちらに戻ってきて、火神の当主に話しかけた。火神の当主はにこやかに貴美子を振り返る。

 貴美子が銀華に目配せした。『あとはまかせて』

「火神の当主、聞きましたか? 土神の屋敷の風呂は、ヒノキだそうです」

「ヒノキ? ああ、わたしはヒノキには過剰免疫反応アレルギーがあるので、ほかの風呂を用意してもらうように言わないと」

 ヒノキの過剰反応は珍しいな。銀華はそんなことを思いながら、貴美子の厚意を無碍にしないために、席をたつ。

「銀華さま?」

 火神の当主が振り返る。それより先に、銀華は歩き出していた。

「少し、息抜きに行ってきます」

 庭の池で風にでもあたろうと思ったのだ。

 この会合には、月替わりで各神とその一族が招かれる。

 五つの神が均衡を保つために、様々な話し合いがもたれるのだ。

 銀華は真美子を連れ立って藍の間を後にする。庭に向かったことが、結果的には間違いだった。

 

 庭までの道すがら、銀華は土子に出くわした。

 振袖姿の土子もまた、赤茶の簪をさしている。

 それは銀華のものとは違い、豪華できらびやかなものだった。

 銀の足も彫りが施されて、華やかな顔立ちの土子にはよく似合っている。

 銀華は、土子を見た瞬間、地面に足がくっついたかのように動けなくなった。

「アンタまでこの会合に来るとか。生意気」

「土子……さま……」

「で。どう? 人にちやほやされてうれしい?」

 ハッと笑って、土子が銀華に歩み寄った。

 真ん前まできて見下されると、家でのことを思い出して今でも震える。怖い。

 土子の化粧も振袖も、土の神嫁にふさわしいものだ。

 対して銀華の顔立ちは儚く、赤茶色が似合わない。黒の色をした髪の毛すら、銀華にはまるで似合っていないのだ。

「あはは。そうよ、アンタはいつもびくびくびくびく。鬱陶しいのがアンタでしょう?」

「……土子さまは、私のなにがそんなにお嫌いですか」

 言い返されたことに驚いて、土子は銀華をまじまじと見た。

 次期当主候補の神嫁に選ばれたからと、銀華は調子に乗っているのだと土子は思う。

 銀華の髪に自然と目が行った。挿している赤茶の宝石のあしらわれた簪は、土子のものとは比べ物にならないくらい、質素だ。

「なにって、アンタのそういうところよ! 自分は控えめで、なのにいつも中心にいて!」

「わ、私が中心にいたことなんてありません」

「あーあー! 誰か! 誰か!」

 いきなり土子がその場に尻を付き、人を呼び始めた。

 なにをしているのかわからず、銀華は右往左往する。

 真美子が、銀華の前に出ると、土子付きの侍女もまた、土子の前に出た。

 やがて人がふたりの周りに集まり始めると、

「お姉ちゃんが私に嫉妬して、突き押したんです」

「なんだなんだ、神嫁同士の喧嘩か?」

「なんでも、姉が妹を押し倒したらしい」

「土子さまが正当な神嫁よ」

「なにを、銀華さまだってすごいだろ」

 いつの間にか、周りの人間までもが争いを始める。

 どうやらこの会合でも、土夏派と灰夏派にわかれるらしい。

 そして、灰夏派は圧倒的に数が少ない。

 銀華は、灰夏がこの屋敷でどんな気持ちで生きてきたのかを考えるだけで、悲しくて、そして、自分は強くあらねばと思わされた。

「灰夏さまは、加護をつかえないと聞く。ならばもう、この土神を安寧に導くのは土夏さまだけだろう」

「だ、だけど。灰夏さまはお優しく、当主向きの性格で」

「いいや、土夏さまだって、まとめ上げる力がおありだ」

「そうだ。土夏さまこそが、当主にふさわしい」

 灰夏派の人間には、菊子と貴美子もいた。

 しかし、ほかの神々は土夏派らしく、銀華をかばうものはほとんどいない。

 先ほどの会合では、真昼間から銀華を取り囲んでいたのに、腹のうちでは土夏をほめたたえたのだと思うと、銀華は腹が立った。

 その怒りが腹の中で膨らんで、とうとう銀華の口から吐き出された。

「灰夏さまを悪く言わないで!」

 ごうっと銀華の加護が現れる。透き通った水だ。周りの人間すべてにそれが伝わって、空気が振動、いや、屋敷全体が揺れ動いた。

 空には暗雲が立ち込めて、銀華の周りだけに雨が降りしきる。ざあざあと、それは大自然の怒りだった。

 その騒ぎで、灰夏がその場に駆け付ける。銀華の加護が暴走しているようだった。

「銀華、力を収めてくれ」

 五行の神の加護でもっとも力があるのは、火だ。そして、銀華のそれは水。

 銀華が癸のひめで、灰夏が戊の次期当主候補。したがって、二つが合わさると火に転じる。火の当主をもしのぐ、炎だ。

 銀華がなぜ、灰夏の神嫁になったのか、みな不思議でならなかった。

 しかし、水の加護を、しかもこのように強い加護を持っていたのなら、次期当主候補の神嫁に選ばれて当然だった。

 予期せず、銀華は今まで隠し通してきた自分の加護をさらしてしまう。

 銀華は涙をはらはらとこぼし、周りをにらみ、水の加護で威嚇している。

 灰夏は、銀華を刺激しないように、そろりと歩み寄る。

「銀華、こちらに」

「灰夏さま……ごめんなさい。私のせいで、灰夏さまが悪く言われて」

「いや……オマエをここに連れてきたのは俺だ」

 灰夏は、暴走する銀華の力を抑え込むように、その胸に手を添えた。

 チリチリチリ。

 銀華の胸に火花が散る。灰夏が剣を抜き出す。銀華の体からくったりと力が抜けた。加護の暴走もあって、銀華はその場で力尽きたのだった。

 そのそばで、土子がその様子をつぶさに見守っていた。

「なんだ、そうやるんだ」

 土子はうん、と頷いた。

 この件で、銀華が水の加護を持つことが知れ渡る。しかし、水神の一族だとは、広まらなかった。

 それは、灰夏がうらで手を回したからだ。銀華は、神ではなく人間が加護を持っただけの存在――土子と同じ立場だと。

 

 銀華は目を覚ます。

 そこは灰夏の屋敷で、いつの間にか会合から運ばれてきたようだった。

 灰夏に迷惑をかけたことを瞬時に悟って、くらくらする頭を押して、銀華は起き上がる。

 そのまま辺りを見渡して、灰夏の姿を探した。

「灰夏さま!?」

「俺はここだ。それよりも銀華、七日も寝ていたんだぞ? どれだけ心配したか」

 すぐ隣にいた灰夏が、そ、と銀華を抱きしめた。

 七日間。銀華は、そういえば腹が減っているなとぼんやりとそんなことを考え、笑った。

 久々に水の加護を使ったせいで、だいぶ体力を使ったようだった。水の加護は、水神の当主が廃された件で、平民からの加護持ちもまた、疎まれる。

 しかし、水神の一族が全て滅んだことで、平民の水の加護持ちは見逃されるようになって日が浅い。だから銀華は、自分の加護を隠してきた。

 水の加護をあれほどまでに使ったのは、生まれて初めてかもしれない。それくらい、あの時の銀華は怒りにとらわれていた。

 それにしても。銀華は灰夏を見やる。不謹慎かもしれないが、灰夏の料理が恋しくなった。

「銀華?」

「いえ。この期に及んで、お腹がすいたなと。灰夏さまのご飯が食べたい、なんて考えるのは、少し危機感がないですよね」

 灰夏は銀華の頭を撫ですいた。

 壊れないように、そっと撫でつけられ、銀華は灰夏に身をゆだねた。

 銀華が目を細める。ようやくなついた猫のようだと、灰夏は思う。

「食事にしようか」

「はい!」

 元気のいい返事が、むずがゆい。

 今まで誰かに食事を作ったことはあったが、好いた人間に自分の料理を欲されると、ことのほかうれしく、そしてそれは、もどかしさすらはらんでいた。

 

 灰夏が台所に立つと、銀華もそれについていった。

 ふたりでやりたい。離れたくない。

 銀華のなかで、灰夏の存在が大きくなっていく。偽りでもいい、隣にいたかった。

 台所は土間になっていて、ご飯は土鍋で炊くらしい。

 屋敷には特別に台所が備え付けてあって、それは、灰夏が屋敷を建てる際に、当主に願い出た唯一のものだった。

「この土の器具……これがお料理を美味しくしてるのかもしれませんね」

「そんな大層なものではない」

 しかし、普通の土鍋や器とは違い、キラキラしている。五行の神の加護から作られた土を使った食器はおのずと特別なものになる。

 灰夏が出汁をとるあいだ、銀華は食材を切りそろえた。

 今日は里芋を茹でたものに、魚の揚げ物、大根と油揚げの煮物だ。それから、見慣れない『サムゲタン』なる丸鶏。

 サムゲタンは銀華に精をつけるための薬膳だ。

 丸鶏の腹にもち米、ニンニク、棗、人参、栗を詰めて閉じたら、鍋に入れて水を被るくらいに入れる。

 ニンニク、棗、葱、人参、栗を入れて火にかけ、一時間ほど弱火で煮込んだら、一旦冷まして味をしみ込ませる。

 あとは、食べる時に丸鶏を半分に切って温め直したら完成だ。

「灰夏さまって、お味噌を手作りとは聞いてましたが、隣国の薬膳まで」

「味噌や薬膳は嫌いか?」

「お味噌は大好きです。薬膳は食べたことはないですが」

 発酵食品は腐敗と紙一重だ。

 平民は発酵食品を自作するが、神ともなれば、一流の職人のものを仕入れている。

 だが、灰夏は、それすらも自分で作ることが好きだった。

 発酵食品は面白い。その年の気候や温度で、出来上がりが毎年違ってくるのだ。

 そう思うと、職人たちは毎年一定の味の味噌を収めるのだから、弟子入りしてみたいと灰夏は思ったほどだった。

 銀華は灰夏の料理が楽しみで仕方がなかった。はやる気持ちを抑えて、灰夏の言う通りに材料を切りそろえ、鍋に入れる。

「銀華は、こんな田舎臭い料理は飽きないか?」

「飽きません! 私、灰夏さまのご飯大好きです」

 言葉少なかった銀華が、こうやって他愛ない話をするようになったことが嬉しかった。

 それに、料理にも手慣れている。それは喜ぶべきなのかわからないが、きっと、あの実家で下女のように毎日料理をさせられていたのだろう。

 しかし、それが今になって灰夏と銀華を結ぶものになっているのも事実だった。

 灰夏は銀華を見やる。胃の調子はどうだろうか。七日間寝たきりであったし、そもそもまだこの屋敷に引き取られて間もない。

 実家の扱いを考えれば、すぐにでも普通食を食べさせたいが、今日もご飯は柔らかめに炊こうか。

「灰夏さまの小料理屋なら、色んな人が来るでしょうね」

「銀華もそばに居たら、俺は嬉しい」

「……! 私、私は……」 

「すまない。つい……ソナタを縛るつもりはない」

 灰夏が申し訳なさそうに目を伏せた。

 銀華はどう答えていいかわからない。契約結婚を持ちかけたのは灰夏のほうであるし、銀華は、灰夏が無事に当主になれた暁には、この場を離れようと思っている。

 灰夏の母の死因を明かして、灰夏と土夏の仲を修復出来たら、なんて、銀華は甘いのだろうか。

 

 やわめのお粥が美味しいが、前のように胃もたれして心配を掛けたら本末転倒だ。

 銀華は食事の量に気をつけながら、出された半分ほどを平らげた。

 特にサムゲタンが美味しい。もち米が丸鶏の白湯の汁を吸って、お腹にもいいし、食感も楽しい。銀華は、味噌汁の次に魚の揚げ物を少し食べて、野菜の和え物にも箸をつける。サムゲタンは薬膳だが臭みがなく、鶏の旨みが凝縮されていて、肉がほろほろで美味しい。味付けが塩だけとは信じられない味の深さだった。

 灰夏の料理はどれも優しい味だ。

「残りは明日食べるので」

「銀華に余り物はやれん。大丈夫だ、これらは侍女・下男たちが食べる」

「いや、残したものを食べさせるわけには」

 しかし、灰夏は引かない。

 結局食べ残しは下げられて、最後に出された甘いフィナンシェじりつく。

 ハイカラな西洋のお菓子は、バターの風味が美味しい。その、フィナンシェがポロリと浴衣に落ちて、さて、銀華は首を傾げた。

 銀華は着物を着ていたはずだが、今は浴衣を身にまとっている。

「あの、灰夏さま」

「なんだ」

「私の衣を着替えさせてくださったのは、もしかして……」

 いくら加護の神嫁だと言ったって、裸を見られたら恥ずかしくてたまらない。

 銀華が身をよじらせる。それに気づいた灰夏がふと笑う。

「大丈夫だ。侍女頭にやらせたからな」

「な、なんだぁ」

 ホッとして、銀華がお茶を飲んだ。

 甘くて美味しい。このお茶は、水を変えたらもっとおいしくなるだろうなと思う。

 銀華の加護で作り出す、柔らかな水だ。

「それで、銀華」

「はい」

 最後の一口のフィナンシェを口に入れ、銀華は灰夏を見た。

 はくはくと咀嚼しながら、銀華が灰夏をまじまじと見る。灰夏がおもむろに笑った。

栗鼠りすみたいだな」

 頬張ったふくふくの頬を人差し指で突っつかれ、銀華は赤面するしかできなかった。

 灰夏が呼んだから、急いで食べたのに。

 銀華はふいと灰夏から顔をそらす。

「も、もう! それで、なんです?」

 慌ててフィナンシェを飲み込んで、銀華は今一度灰夏に問うた。

 灰夏は未だに笑いながら、

「近々、婚姻の儀を執り行いたい」

「婚姻」

「ああ。そうすることで、より銀華を守りやすくなる」

 灰夏の言いたいことはわかったが、銀華は迷いを見せる。

 本当に自分は相応しいのだろうか。銀華は本当の神嫁にはなれない。

 しかし、銀華にはもう、ここにしか居場所がないのも事実だった。利用するようで気が咎める。

「銀華?」

「はい、わかりました。しかし」

 銀華の顔が険しくなる。

 灰夏はフィナンシェを食べる手を止めて、銀華の言葉に耳を傾けた。

 向かいに座っているのに、灰夏の息が間近に聞こえるようだった。

「私が憐れだから、偽りとはいえ、神嫁にするのですか?」

「憐れ、とは?」

「私があの家で、虐げられるから」

 銀華がうつむいた。

 灰夏はふうと一つ息を吐きだして、立ち上がって銀華の方へと歩いてくる。

 隣に立ち、灰夏は銀華の髪の毛を撫で梳いた。

「ソナタの髪の毛……一目見たときから、美しいと思っていた」

「それは……」

 染めた髪の毛だ。偽りの、黒。

 しかし、灰夏がすべてを見透かすように、銀華の髪の毛から、灰夏がくれた簪を抜き取った。

 それを銀華の目の前にかざす。

「この簪は、銀華。ソナタの髪に似合うと思って選んだ。ソナタのきれいな白銀の髪だ」

「知って、いたのですか」

「ああ。そのうえで。今一度言おう。俺はソナタが好きだ。だが、ソナタの気持ちは汲む。俺を当主にするまででいい。神嫁になってくれないか?」

 改めて、面と向かって言われると、銀華はどう答えるのが正解なのかわからなくなった。

 わからないのに、銀華は灰夏の手から、その簪を受け取った。そして結い上げた髪に簪を挿しながら、

「いつか、灰夏さまには、本当の私を見ていただきとうございます。神嫁になります、灰夏さま」

 本当の銀華は、白銀の髪と瞳を有し、癸の加護を持つ、亡き水神のひめぎみ。

 まるで灰夏はそれを知っているかのような口ぶりだった。

 銀華は父を殺した人間を探している。あの時に見た赤茶色を、銀華は今もよく覚えている。見間違いだと思いたい。あの色は、まるで。

 しかし、あの赤茶の瞳の人間の髪は、淡い金色だった。貴美子とはまた違う、淡い金。

 深い思考に陥りかけて、銀華は灰夏の言葉に現実に引き戻された。

 いつの間にか灰夏は、向かいの席に戻って、フィナンシェを食べ終えていた。髪は金ではなく白銀だ。

「それで、会合で友人はできたか?」

「……? はい。菊子さんと貴美子さんという方が」

 うむ、と灰夏が頷く。

 先ほどの銀華の返事に対する反応が薄く、銀華は少しだけ不機嫌に灰夏を見た。

 灰夏がにこりと銀華に笑みを向ける。

「婚姻の儀に、呼びたい友人がいたら考ておいてくれ。招待状を書く」

「友人……」

 先程は友人だと言ってしまったが、菊子と貴美子を呼んでいいのだろうか。

 確かに仲良くはなったが、平民の銀華の婚姻なんて、神々の嘲笑の的にしかならないだろう。

 とはいえ、銀華の本来の身分は平民ではない。今はまだ、灰夏にも言えないが。

 銀華の迷いを見かねた灰夏が、

「ならば、五行の神々みなにに招待状を送ろう。俺の神嫁との婚姻だからな。盛大にやろう」

「灰夏さま!?」

「自慢してやるさ、銀華、オマエを」

 ふわりと笑う灰夏は、優しさに溢れている。下男や侍女たちの前では毅然と振る舞うが、銀華の前ではいつも優しく笑っている。その愛情に、偽りは見えなかった。

 


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