小テストは静かに始まる
今回も日常回です。
ゆるく楽しんでもらえたら幸いです。
小テストは、だいたい突然始まる。
少なくとも冬月はそう思っている。
「はい、小テストやります」
担任は、いつもと同じまったりした声でそう言った。
天気の話でもするような口調だった。
教室の空気だけが一気に重くなる。
「聞いてないです」
誰かが言った。
「昨日言いました〜」
瑞風は即答した。
強くはないのに、反論が通らないタイプの返事だった。
「なぁなぁ」
斜め前の席の男子二人が小声で話していた。
「どうしよ」
「受けろ」
「潔すぎだろ?」
「他に何がある」
「逃走」
「やだ。そもそも無理だろ」
そんな会話を横目に配られたプリントが机に置かれる。
問題用紙は薄いのに、威圧感だけは厚い。
「はい、茜さん抜け出そうとしないでね」
「バレた!?」
「一列目なのに何でバレないと思ったんですか?」
担任は茜を席に戻し、余ったプリントを集めていた。
冬月は茜の行動に少し呆れながら、プリントにざっと目を通した。
見覚えは――あるような、ないような。
「範囲は昨日のプリントです」
水野が小声で補足した。
「助かる」
「もう遅いです」
その通りだった。
開始の合図が出る。
教室が一気に静かになる。
シャーペンの音だけが残った。
茜は開始一分で止まっていた。
早い。
冬月はそれを見て、小さく息を吐く。
考えているというより、固まっている様子だった。
一方、水野は迷いがない。
一定の速度で書き続けている。
「委員長つよい」
茜が口パクで言う。
「前向け」
冬月も口パクで返した。
五分経過。
十分経過。
十五分経過。
担任は教卓でプリントを折って遊んでいた。
監督する気はあまりないらしい。
「そこ、しゃべらない〜」
注意だけはする。
視線はやさしい。
時間終了。
回収が始まる。
「終わった……」
茜が天井を見た。
「まだ始まったばかりだろ、今日」
「今日はもう余生」
「大げさだな」
水野がプリントを揃えながら言う。
「平均点はたぶん低いので大丈夫です」
「フォローになってるようでなってない」
「事実です」
悪気がゼロだった。
担任が束ねたプリントを持つ。
「まあ、点が悪くても人生は続くから安心してね〜」
教師の言葉としては、だいぶ広い。
チャイムが鳴った。
緊張がほどける音が、教室に戻ってくる。
「次なに?」
茜がもう復活している。
「通常運転に戻る早さがおかしい」
冬月は思った。
このクラスは多分、落ち込むのも立ち直るのも早い。
それはたぶん、悪くないことだと。
読んでいただきありがとうございます。
この作品は、少し騒がしくてだいたい平和な高校生活を、のんびり描いていく日常シリーズです。
大事件は起きませんが、小さな出来事はだいたい起きます。
更新は無理のないペースで続けていく予定です。
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次回もよろしくお願いします。




