朝の教室はだいたい騒がしい
読んでいただきありがとうございます。
本作は、少し騒がしくてだいたい平和な高校生活を描く日常ものです。
肩の力を抜いて読んでもらえたら嬉しいです。
朝の教室は、だいたい同じ音でできている。
椅子を引く音と、カバンを置く音と、誰かの「ねむい」という声だ。
冬月陸は窓側の席に座りながら、その全部をぼんやり聞いていた。
四月も半ばを過ぎると、新学期の緊張はきれいに消えて、教室は元の雑な空気に戻る。
「ねぇ、りっくん」
前の席で、幼馴染の神埼茜が振り向いた。
嫌な予感しかしない呼び方だった。
「今日の体育さ、サボる方法ないかな」
冬月は即答した。
「ない」
「まだ何も言ってないよ?」
「言い終わる前に却下でいいタイプの話だろ」
茜は不満そうに唇を尖らせたが、三秒後には別の話題を見つけていた。
切り替えの速さだけが長所だと、クラスのだいたいが思っている。
廊下で誰かが走り、誰かが注意されている。
平和だった。少なくとも、今のところは。
「冬月くん」
横から声が飛ぶ。
ノートをきっちり揃えている水野立夏だった。
学級委員長の彼女は、真面目で頼れる存在だ。ただ、ときどき少しだけズレている。
「今日、小テストあるの知ってる?」
「知らない」
「あるよ」
「今知った」
「範囲は昨日のプリント」
「頼むからそういうのは昨日の俺に言ってくれ」
水野は小さく笑った。
救いのない顔をしていたのは冬月だけだった。
チャイムまで、あと五分。
何も起きないはずの時間は、だいたい何かが起きる。
教室の後ろで、大きな音がした。
振り向くと、段ボール箱が落ちている。中から、なぜか大量の紙飛行機が飛び出していた。
冬月は思った。今日は静かではなさそうだ。
「なにしてんだ、茜」
「いやぁ、ぶつかっちゃったね」
「見ればわかる。ほら、片付けるぞ。もうすぐ担任来るぞ」
言い終わったところで、教室のドアがガラガラと開いた。
「全く……何してるんですか」
呆れた声で入ってきたのは、担任の瑞風花帆だった。
しかし次の瞬間には、もう表情がゆるんでいる。
「まあいいや。全員席についてください。片付けは後でちゃんとやること」
「だって、りっくんがんばれぇ」
「おい、なんで人任せなんだ」
「文化祭の準備なんですから、あまり散らかしすぎないでくださいね〜」
怒っているのかいないのか、よく分からない口調だった。
こんな賑やかなクラスが続けばいい。
冬月は、最近そう思うようになっていた。
読んでいただきありがとうございます。
この作品は、少し騒がしくてだいたい平和な高校生活を、短くのんびり描いていく日常シリーズです。
大事件は起きませんが、よくありそうな小さな出来事はだいたい起きます。
更新は無理のないペースで続けていく予定です。
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次回もよろしくお願いします。




