第3話:三回目の地獄は岩で潰されるなんて、想像以上だった
狼の遠吠えが近づいてくる。森の奥から、複数の影が現れる。灰色の毛並み、鋭い牙。少なくとも五匹の狼の群れだ。
「マジかよ……ゴブリン倒したばっかなのに。」
レベル2になったけど、まだステータスは貧弱。体力は少し上がったけど、武器は即席の枝棍棒だけ。
逃げる? いや、森の中じゃ追いつかれる。戦うしかない。
一匹が飛びかかってくる。俺は枝で払う。ガキン! 枝が折れかけるが、なんとか弾く。
「くそっ、硬い!」
二匹目が横から噛みついてくる。腕をかすめる。痛いが、地獄の痛みに比べりゃマシ。
【業火耐性Lv1】と【黒縄耐性Lv1】のおかげか、耐久力が上がってる気がする。
蹴りで一匹を転ばせ、石を投げて頭を狙う。命中! 経験値が入る。
でも、残りの四匹が一斉に襲ってくる。囲まれて、背中を爪で裂かれる。血が噴き出す。
「ぐあっ!」
HPが急減。視界が赤くなる。
最後の抵抗で一匹の目を突くが、群れのリーダーらしきデカい狼が喉元に飛びついてくる。
【HP:0】
三度目の死。
地獄周回の三回目。
暗転した視界が開くと、今度は巨大な岩が林立する谷間みたいな場所。空は鉛色で、地面は荒れ果ててる。遠くで、轟音が響く。
「ここは……衆合地獄?」
八大地獄の三番目。岩や山で圧し潰されるやつ。
日本仏教の地獄描写そのまんま。神様、せめてスキル説明くらい詳しくしてくれよ……。
体が浮き上がり、谷の底に落とされる。
周りの岩壁が動き出す。ゴゴゴ……という地響き。
「待て、冗談だろ!」
巨大な岩が両側から迫ってくる。逃げようとするが、足が地面に絡みつく根みたいなので固定される。
岩が体を挟む。骨が軋む音。肉が潰れる感覚。内臓が圧迫されて、息ができない。
「うぐっ……あがあああ!」
痛い。焼かれるのも斬られるのもエグかったけど、これは違う。全身がゆっくり潰される絶望感。
視界が暗くなりかけるが、死なない。体が再生して、また岩が迫る。
潰される。再生。潰される。
何度も繰り返す。最初はパニックで叫んでたけど、途中から思考が麻痺する。
前世の業って、本当に何? 社畜生活で溜めたストレス? それとも、誰かを傷つけた記憶? いや、そんな大それたことしてねえよ……。
でも、地獄の痛みは容赦ない。永遠に続くみたいだ。
ようやく、痛みが引く。体が完全に再生し、視界がぼやける。
【地獄周回:3回目完了。業ポイント+200。】
【異世界に戻ります。】
光が包む。
目覚めると、狼の群れの前に戻ってる。体は無傷。
「はあ……はあ……三回目か。残り97回。」
ステータス確認。
【名前:佐藤太郎】
【レベル:2】
【スキル:地獄周回者(3/100)】
【業ポイント:450】
【業火耐性Lv1】
【黒縄耐性Lv1】
【新規スキル:衆合耐性Lv1】
衆合耐性……圧迫や衝撃系の攻撃に強くなるのか。
「これ、地獄ごとに耐性スキルが増えてくのか。最終的に、無敵になるんじゃね?」
でも、今はそんな悠長なこと言ってる場合じゃない。狼の群れが目の前だ。
さっきの戦いで、経験値が入ってる。レベル3に上がった。ステータス微増。
「よし、対策考えろ。」
周りを見回す。木に登る? いや、狼は木登りしないけど、囲まれたら終わり。
さっきの枝棍棒を拾い直す。業ポイント交換所を開く。
【業ポイント交換所】
• 体力ポーション:50ポイント(残り在庫無限?)
• スキル強化:100ポイント
• 情報開示:200ポイント
• 新規:簡易武器(棍棒):100ポイント
• 新規:地獄のヒント:50ポイント
「お、アイテム増えてる。棍棒買おう。」
100ポイント消費。手元に鉄製の棍棒が現れる。地獄の鉄みたいに熱を帯びてるけど、持てる。
さらに、地獄のヒントを買ってみる。50ポイント。
【地獄のヒント:各周回で得るポイントは、耐え時間や業の質で変動。耐えれば耐えるほどボーナス。100回達成で『地獄の覇王』スキル解放。】
「おお、モチベーション上がるな。耐えろってことか。」
狼の群れが動き出す。一匹が飛びかかる。
棍棒で叩き落とす。ガツン! 骨が砕ける音。経験値入る。
二匹目、三匹目を連続で殴る。レベル3の力プラス地獄耐性で、動きが軽い。
リーダーのデカ狼が喉を狙うが、衆合耐性のせいか、衝撃が緩和される。
反撃で棍棒を頭に叩き込む。グシャ。
全滅。
【経験値獲得。レベルアップ!】
レベル4。いい感じ。
「ふう……勝てた。地獄のおかげで強くなってるわ。」
でも、喜びは半分。岩で潰される記憶がフラッシュバックする。メンタルが少しずつ削られてる気がする。
「このループ、いつまで続くんだ……。100回なんて、地獄そのものじゃん。」
森を抜けると、道が見えた。街道っぽい。遠くに街のシルエット。
「ようやく文明か。冒険者ギルド行って、情報集めよう。」
街道を歩く。馬車が通り過ぎる。異世界らしいファンタジー風景。
でも、油断は禁物。道端に魔物が潜んでるかも。
少し進むと、道を塞ぐように bandit みたいな連中が現れる。三人組。剣と斧を持ってる。
「おい、旅人。金を出せ。」
人間の敵かよ。レベル4じゃ勝てるかもだけど、死んだらまた地獄……。
「待て、話し合おうぜ。」
無視して襲ってくる。一人が剣を振り下ろす。棍棒で受け止める。
戦闘開始。
一人は倒すが、二人がかりで押される。斧が肩に食い込む。痛い。HP減。
「くそっ!」
反撃で一人を気絶させるが、最後の一人がナイフで心臓を刺す。
【HP:0】
四度目の死。
あれ? 三回目終わったばっかなのに、もう四回目?
暗転。
今度の地獄は、鉄の棒が雨のように降る空間。叫び声が絶えない。
「叫喚地獄……四番目か。」
熱い鉄の棒で殴られるやつ。
鬼が現れ、鉄棒を振り上げる。
「罪人よ、叫べ。」
棒が体に叩きつけられる。骨折。内臓破裂。
「ぎゃあああ!」
殴られる。再生。殴られる。
痛みの連鎖。叫びたくなくても、声が出る。
耐える。ヒント通り、耐え時間を伸ばす。ポイントボーナス狙い。
前回の岩よりマシ? いや、どっちも地獄。
ようやく終了。
【地獄周回:4回目完了。業ポイント+250(ボーナス+50)。】
【異世界に戻ります。】
戻ると、bandit の前に。
今度は先制。棍棒で三人まとめて叩きのめす。レベル5。
金品を回収。街に向かう。
街に到着。冒険者ギルドに登録。Fランク。
受付の姉ちゃんが可愛い。「新人さん? 気をつけてね。」
クエスト受注。薬草採取。簡単そう。
でも、心のどこかで思う。
この調子で死にまくったら、100回なんてすぐかも。
いや、すぐじゃ困る。地獄はもう嫌だ……。
(つづく)




