第12話:任意の地獄周回と、閻魔の「待ってた」告白
王都近郊の別荘は、静かで穏やかだった。
庭にはリリアが植えた花が咲き乱れ、朝の陽光が差し込むバルコニーで、俺たちはコーヒーを飲むのが日課になっていた。
Sランクの特権で、クエストはほとんど受けず、たまにギルドの相談役をするくらい。
リリアは妊娠初期で、少しお腹が膨らみ始めていた。
「太郎さん、今日も地獄に行くの……?」
彼女の声が少し寂しげだ。
俺は頷く。
「行ってくる。残り90回……いや、もう『任意』だから、行きたくなければ行かねえ。でも、
閻魔の奴が『本当の100回は特別だ』って言ってたのが気になってるんだ。」
リリアが俺の手を握る。
「無理しないでね。子供も生まれるんだから……私たち家族が一番大事だよ。」
俺は彼女の額にキスをする。
「わかってる。今日は軽く1層だけ行って帰ってくる。」
ステータスに新しく追加されたスキル【地獄の呼鈴】を起動。
小さな鈴の音が響き、空間が歪む。
俺は地獄の扉をくぐる。
今度は八寒地獄の第二層――「黒縄寒地獄」。
極寒の縄が無数に張り巡らされ、体を縛りながら凍らせる拷問。
体が瞬時に凍りつき、縄が皮膚を裂く。
でも、死なない。任意モードだから、俺が「耐えきった」って思えば帰れる。
痛みは相変わらずエグいが、
「これが最後の方の層か……」って冷静に分析できる自分がいる。
耐え時間を伸ばす。
業ポイントがどんどん貯まる。
そして、いつものように閻魔様の声が響く。
「よく耐えてるな、佐藤。もう90回近く残ってるが……本気で100回やる気か?」
俺は凍てついた縄の中で叫ぶ。
「てめえの『方便』がまだあるだろ!
本当の100回って何だよ! 全部吐け!」
空間が揺らぎ、閻魔様の本体が現れる。
角は少し欠け、赤い顔に疲れの影が見える。
「ふっ……鋭いな。
俺も昔、お前と同じだった。
社畜で過労死して、異世界転生したはずが、地獄ループに巻き込まれて……100回耐え抜いた。
その時、俺は『地獄の管理者』の座を引き継いだんだ。
それから何百年……いや、何千年か。
後継者が現れるのを、ずっと待ってた。」
俺は凍りついた体で睨む。
「待ってたって……お前、疲れてんのか?」
閻魔様は苦笑する。
「疲れたさ。
裁き続けるのも、業を溜め続けるのも、もう限界だ。
だからこそ、100回クリアした奴が現れたら、
『引き継ぎの儀式』をするルールにした。
お前が座を引き継げば、俺は解放されて異世界に転生できる。
普通の人間として、酒飲んで、家族作って、老いて死ぬ……そんな人生を、ようやく味わえる。」
俺は少し沈黙する。
「俺は……座はいらねえ。
リリアと子供がいる。地獄の管理者なんて、俺の人生じゃねえよ。」
閻魔様は静かに頷く。
「それでいい。
引き継ぎを拒否しても、お前は『地獄の覇王』として自由だ。
地獄のシステムは自動化される。
誰も苦しまない、浄化だけの地獄になる。
俺も……やっと休める。」
俺は縄の中で笑う。
「じゃあ、残り90回は全部消化してやるよ。
お前を解放してやるために。」
閻魔様の目が潤む。
「ありがとう、佐藤。
お前みたいな後継者候補が現れて、本当に良かった。」
耐えきって帰還。
別荘のバルコニーで、リリアが待ってる。
俺は彼女を抱きしめる。
「もう少しで終わる。
閻魔の奴……俺と同じ苦しみを味わってたんだ。
最後まで付き合って、解放してやるよ。」
リリアが涙目で頷く。
「太郎さん……優しいね。
でも、無理はしないで。
私たち家族が待ってるから。」
俺は空を見上げる。
残り90回。
全部耐え抜いて、閻魔を解放する。
そして、俺たちは……本当に自由になる。
(つづく)




