第11話:王都の謁見と、閻魔の方便――「100回」は、ただの嘘だった
王都「セントラル」は、ルミエルとは比べ物にならない壮大さだった。
白大理石の城壁が陽光を反射し、空を貫く尖塔が雲を突き刺す。街路は宝石のように輝く噴水と、貴族の馬車で溢れていた。
俺とリリアは、国王直々の謁見状を携え、馬車で王宮へ向かった。
道中、リリアが窓から外を眺めながら小さく呟く。
「太郎さん……本当に、私みたいな田舎娘が王宮に入れるなんて、夢みたい。」
俺は彼女の手を握る。
「夢じゃねえよ。お前がいたから、ここまで来れたんだ。」
王宮の謁見の間は、金と銀で彩られた荘厳な空間。
玉座に座る国王は、50代半ばの威厳ある男。傍らには宰相や貴族たちが並び、俺たちを見下ろす視線は好奇と警戒が入り混じっていた。
「氷の魔王を討伐した英雄、佐藤太郎とリリアか。よくぞ来てくれた。」
国王の声が響く。
「大陸の平和に貢献した功績は大きい。望むものを申せ。領地か、爵位か、金貨か。」
俺は一礼して答える。
「領地も爵位もいりません。ただ、自由に冒険を続けさせてください。それと……リリアと二人で、穏やかな生活を送れる場所を。」
国王が少し驚いた顔をする。
「謙虚なものだな。よかろう。特別に、王都近郊の別荘と、終身年金を与える。また、Sランク冒険者として認定する。」
貴族たちのざわめきが広がる。
「Sランクだと!? まだ若造ではないか!」
「氷の魔王を倒したのは本当なのか……?」
謁見が終わった後、国王の私室に呼ばれた。
そこには、国王と、覆面の老人が一人。
老人は、ゆっくりと覆面を外す。
……閻魔様だった。
赤い顔に角、厳つい表情。でも、どこか懐かしい。
「よお、佐藤太郎。よく耐えたな。」
俺は凍りつく。
「てめえ……! なんでここに!?」
リリアが俺の袖を掴む。
「太郎さん……この人、誰?」
閻魔様はニヤリと笑う。
「心配すんな、娘。俺はただの『管理者』だ。
佐藤、お前が気にしてる『残り91回』のことだが……実は、全部方便だった。」
「は?」
俺の声が低くなる。
閻魔様は肩をすくめる。
「100回地獄周回で『地獄の覇王』完全解放、なんてのは、魂を極限まで鍛えるための嘘だ。
人間ってのは、明確な『ゴール』がないと本気にならねえからな。
お前が八大地獄をクリアした時点で、炎と熱の耐性はMAX。
八寒地獄の最初の層で寒さを克服した瞬間、もう『全耐性統合』は達成してた。
つまり、無敵に近づいたってわけだ。」
俺は拳を握る。
「じゃあ……こんなのが……続くのかと思う絶望感は……いらなかったのか…』
閻魔様は目を細める。
「必要だったさ。お前の魂は、ただの社畜から『超越者』になった。
あの苦痛がなければ、今のお前はここにいねえ。
結果オーライだろ?」
リリアが震える声で言う。
「そんな……太郎さんがどれだけ苦しんだか……!」
俺は深呼吸して、閻魔様を睨む。
「嘘つき野郎。次に会ったら、ぶん殴るぞ。」
閻魔様は大笑い。
「ははは! それでいい。
これからは、地獄行きは『任意』だ。
死んでも、地獄に行かずに異世界に戻れる。
ただし、100回達成したら……本物の『地獄の覇王』スキルが解放される。
それは、宇宙レベルの力だ。
まだやるか?」
俺はリリアを見る。
彼女は涙目で頷く。
「太郎さん……もう、無理しなくていいよ。私がいるから。」
俺は閻魔様に言う。
「100回は……もういい。
これからは、死なねえように生きる。
リリアと、この世界を楽しむだけだ。」
閻魔様は満足げに頷く。
「それでいい。
じゃあな、佐藤太郎。
また会う日まで。」
姿が消える。
王宮の外に出ると、夕陽が沈みかけていた。
リリアが俺の腕に絡みつく。
「太郎さん……これで、本当に自由だね。」
俺は彼女を抱きしめる。
「そうだな。もう、地獄の影はねえ。
これからは、お前と一緒に、ただ幸せになるだけだ。」
ステータスが更新される。
【名前:佐藤太郎】
【レベル:25】
【ランク:S】
【スキル:地獄周回者(任意モード)】
【業ポイント:8000超(使用可能)】
【耐性一覧】
• 全属性耐性:無効化率99%
• 物理・魔法無効化:実質100%
• 精神耐性:MAX(地獄の無間苦痛クリア効果)【地獄の覇王(仮解放)】【現在の無双度:世界超越レベル】【残り地獄回数:任意(0回でOK)】
王都の別荘に到着。
広大な庭付きの屋敷。バルコニーから見える王都の夜景が美しい。
リリアが俺の胸に顔を埋める。
「太郎さん……これから、ずっと一緒にいようね。
子供ができたら、どんな名前がいいかな……。」
俺は笑う。
「そうだな。男なら『地獄』って名前にするか?」
リリアがぷくっと頰を膨らませる。
「だめ! 優しい名前がいい!」
俺たちは笑い合う。
異世界は、もう完全にヌルゲー。
地獄の苦しみは、ただの過去。
これからは、リリアと、穏やかな日々を積み重ねるだけ。
でも、心の奥で小さな火が灯る。
いつか、100回達成したら……本物の覇王になる日が来るかもしれない。
今は、そんなこと考えない。
リリアの温もりが、俺の全てだ。
(つづく)




