第1話:転生したと思ったら、即地獄行きだった件
俺の名前は佐藤太郎。三十路目前の普通のサラリーマンだ。いや、だった。
毎日、朝から晩までデスクに張り付いて、上司の無茶振りに対応する日々。残業続きで体はボロボロ、心はすり減って、いつしか「このまま死んだら楽かな」なんて思うようになっていた。
そんなある日、会社からの帰り道。いつものようにスマホをいじりながら横断歩道を渡っていたら――トラックが突っ込んできた。
クラクションの音。衝撃。暗転。
……死んだ。
間違いなく死んだ。
次に目が覚めた時、俺は真っ白な空間に浮かんでいた。
「ここは……?」
周りを見回すと、何もない。ただの虚空。でも、なんとなくわかる。これは、あのテンプレのやつだ。
異世界転生の待機室!
「おお、ついに俺もか!」
興奮が抑えきれなかった。前世で散々読んだラノベみたいに、神様が出てきてチート能力を授けてくれるんだろう? 無双してハーレム作って、スローライフ満喫!
心の中でガッツポーズを決めていると、虚空に声が響いた。
【おめでとう、佐藤太郎。君は異世界に転生する権利を得た。】
神様の声! 機械的だけど、優しげだ。
【君の前世の行いを鑑みて、特別なスキルを授けよう。】
やったぜ! 何が来る? 無限魔力? 最強剣士? それとも――
【スキル:『地獄周回者』。死ぬたびに地獄を巡り、鍛えられて戻る。100回達成で真の力を得る。】
……は?
地獄周回者? 何それ、聞いたことない。なんか不穏じゃね?
【それでは、転生スタート! 頑張ってね。】
虚空が渦を巻き、俺の体が光に包まれた。
「待てよ、神様! もうちょっと説明――」
視界が切り替わる。
森の中。木々が立ち並び、鳥のさえずりが聞こえる。空は青く、風は爽やか。
異世界だ!
ステータスを確認してみる。心の中で「ステータスオープン」と唱えると、半透明のウィンドウが浮かんだ。
【名前:佐藤太郎】
【レベル:1】
【スキル:地獄周回者(詳細不明)】
【業ポイント:0】
シンプルすぎる……。まあ、最初はこんなもんか。
「よし、まずは街を探して冒険者ギルドに登録だな。そこから無双の道が――」
ガサガサ。
背後から音がした。振り返ると、そこにいたのは……緑色の小さい化け物。ゴブリン?
「うわ、早速モンスターかよ。レベル1じゃキツイけど、なんとか――」
ゴブリンが棍棒を振り上げて飛びかかってきた。
俺は咄嗟に逃げようとしたが、足がもつれて転ぶ。社畜生活で運動不足だった体が恨めしい。
棍棒が頭に直撃。
激痛。視界が赤く染まる。
【HP:0】
死んだ。
転生して数分で死んだ。
……え? マジで?
暗転した視界が、再び開く。
今度は真っ白じゃなかった。
赤い。熱い。炎の海。
「ここは……?」
周りを見回す。地面は溶岩みたいに赤く輝き、空は黒煙で覆われている。遠くに、鉄の塔みたいなものが林立し、悲鳴が響く。
これは……地獄?
「おいおい、冗談だろ……」
突然、体が浮き上がり、鎖に巻かれて引きずられる。
「うわっ! 何だこれ!」
抵抗する間もなく、俺は巨大な門の前に連れて行かれた。門には「等活地獄」と刻まれている。
日本人がイメージする地獄そのものだ。仏教の八大地獄の最初じゃん……。
門が開き、中に放り込まれる。
熱い鉄の床の上に落ちる。
「熱っ! あちちちち!」
体が焼かれる。皮膚が溶け、肉が焦げる。痛い。痛すぎる。
「ぎゃあああああ!」
俺はそこで何時間も――いや、何日も? 焼かれ続けた。
死にたくても死ねない。痛みが永遠に続く。
前世の業? 何をしたってんだよ! ただの社畜だぞ!
ようやく、痛みが引く。体が再生し、視界がぼやける。
そして、再びあの声。
【地獄周回:1回目完了。業ポイント+100。】
【異世界に戻ります。】
光が包む。
目が覚めると、また森の中。
さっき死んだ場所と同じ。ゴブリンはもういなかった。
「はあ……はあ……」
体を触る。無傷。夢じゃなかった。地獄の記憶が鮮明に残ってる。
ステータスを確認。
【名前:佐藤太郎】
【レベル:1】
【スキル:地獄周回者(1/100)】
【業ポイント:100】
【新規スキル:業火耐性Lv1】
業火耐性……? 地獄で焼かれたおかげか。
「これがあのスキルの効果かよ……。死ぬたびに地獄行って、強くなって戻るってマジか。」
周りを見回す。森はさっきと同じ。鳥のさえずりが、なんだか嘲笑ってるみたいに聞こえる。
「異世界がヌルゲー? いや、地獄が本番じゃねえか……。」
でも、なんとなくわかる。
このループを繰り返せば、きっと強くなれる。
100回死んで、地獄を制覇するまで。
「よし、次はあのゴブリン倒すぞ……いや、死なないように気をつけろよ。」
俺は立ち上がり、慎重に森を進み始めた。
でも、心のどこかで思う。
次に死んだら、またあの熱い鉄の床か……。
(つづく)




